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傭兵ギルドからの提案

「いらっしゃいませ……あ、ウィネスさん。また狩ってきたそうですね」


 精錬所へコボルトの死体を預け、傭兵ギルドに顔を出すと受付の青年が笑顔で迎えてくれた。ちなみにウィネスは共和圏で貰ったギルドカードに記載されていた名前だ。


「今回は見てた人もいたみたいで、本物だって騒がれてますよ」


 コボルトを満載にした船の速度は行きよりも遅い。周囲で監視していた船は身軽だろうし、早々に引き上げていた。流していい情報は傭兵ギルドにも届いていた事だろう。

 そこで受付はそっと顔を寄せて小声で告げる。


「少々お話があるという事で、上役が別室で待機しています」

「なるほど……断ると?」

「表向きは何事もなく。ただ確実にこのステーションで暮らしにくくなるかと」

「だよなぁ。下っ端は辛いぜ」

「わずか2回の狩りで話が来たんです。期待されている証拠ですよ」


 青年は裏のない笑顔でそう言った。




 傭兵ギルドの奥にある応接室に通された俺は、ほとんど待つことなく部屋の扉がノックされた。


「傭兵ギルド課長のイヴァノフと言います。入室しても?」

「はい、構いませんよ」


 入ってきた男は頭髪が薄くなりつつある鳥の巣を乗っけた様な茶髪が印象的な男だ。いかにも事務職という細身だが腹は出ていて、動きも戦士のそれとは違って緩慢に見える。

 どっこいしょと向かいのソファに座って俺を正面から見つめてきた。


「突然のお呼び立て、申し訳ございません」

「堅苦しいのは苦手だ。できれば手短に願いたい」

「は、はい。すいません。ええっとですねぇ」


 ハンカチで汗を拭いながらいかにも小役人といった雰囲気で、課長は説明を始めた。

 こちらに気を使って婉曲な言い回しだが、要点をまとめるとこのペースで狩りを続けられると、コボルトの買取価格を下げなきゃならないって話だった。

 弱小傭兵団、10人規模の傭兵が一度に狩れるのは5匹でも良い方というスコア。それを1回で30を越える数を倒して来た。また、損耗もないため他の傭兵団に比べると2回目の間隔が短かったのも影響している。このままだと小規模傭兵団の10倍ほどの戦果を出せると予測されたらしい。


「俺達に狩りを控えろと?」

「ええ、いや、その、突出した戦果が問題でして……どこかの傭兵団に所属いただくとか、狩りの仕方を広めるとか……その、ですね」


 ステーションとしては素材がたくさん集まるのは歓迎できるが、相場が下がることで末端の傭兵が困窮する事態は避けたい。

 傭兵団に所属すれば狩りの頻度は下がるだろうし、狩りの方法を伝えることで弱小傭兵団でも狩りができるようになれば良し……といったところか。

 もしくはどこかの傭兵団から圧力を掛けられてる可能性もあるか。うちに引き抜けないと、傭兵団ごとこの星系を去るとか脅すなど。実際、一つの傭兵団がいなくなったとしても、その穴をまた誰かが埋めるだけかもしれないし、他の傭兵団も見限って去る可能性もある。

 最悪を想定するなら、波風が立たないように立ち回りたいのが役人というものだろうか。


「俺達が効率良く狩れてる理由を共有するのは構わないが、現在その情報を秘匿して狩ってる連中もいるかも知れんぞ?」


 俺が情報を開示する事で、同じ狩り方をしていた者から恨まれるのは避けたい。


「は、はい。情報については匿名での公開とさせていただき……」

「時期を考えたら俺達が情報源だというのは分かるだろ?」

「え、ええ、傭兵ギルドとして情報提供者に対して多大な感謝の意を表し、万が一にも害する事があれば厳密に対処すると告知させていただきます」


 抑止力としては弱い気もするが、傭兵ギルドとしてはその辺が限界か。


「で、俺達に対する報酬は?」

「それは情報の内容によります」

「俺が提供できるのは、コボルトの見つけ方だ。先に見つけられたら事故も減らせて、撃破数も伸びるだろ?」

「それは素晴らしい。その方法とは!?」

「魔導騎士一騎だ。それで提供しよう」

「ま、魔導騎士ですと、それはさすがに法外でしょう!?」


 魔導騎士は前世でいうところの戦闘機。地方役人が裁量するには過ぎた品物と言える。ヨロイなどのパワードスーツと違って魔力制御が必須なので訓練が必要。扱える者が限られる分、市場に出回る物でもない。


「何も最新のお下がりが欲しい訳じゃない。引退した傭兵が使っていた物くらいあるだろう?」

「そ、それは、私の方では何とも……」

「コボルトの発見方法にはそれだけの価値があると思うがね。ここで即決なんて求めないから、上に掛け合ってくれ」

「は、はぁ……」


 この場で即決は難しいだろうからこちらの提案を投げて第一回の交渉は終了だ。




 傭兵ギルドではスカウトに囲まれるが、今はどこと決めるために情報を集めている。結論を急がないでくれと受け流し、配給の食材を貰ってから宇宙船へと戻る。

 ステーションでの存在感は増していた。これが王国中枢に響く前に必要な戦力が集まるかだな。


 ギリガメルのスカウトは公園で会って以降、見かけてはいない。自分達の傭兵団に自信があるのか、しつこくされたら反発する俺の性格を読んでの事か。

 情報は集めてるはずだが、直接会うのはマイナスと判断しているのだろう。


「情報解析掲示板が私達の話題でもちきりだよ」

「掲示板?」

「ステーション内のあれこれを匿名で話し合う掲示板」


 前世のネット掲示板みたいなのがこのステーションにもあるらしい。匿名で語り合う場は極論が出やすく、あまり建設的な議論にはならないのだが、この世界ではどうなんだろうな。


「やっぱりアイネ様の魔導騎士に対する評価がすごいよ」

「まあ、傭兵団でも魔導騎士を持ってる所は少ないからな」


 大手の傭兵団ならまだしも、中小の傭兵団ではまず持っていない。魔導騎士の有無で火力は一気に跳ね上がるから、俺達をスカウトしたいって連中は多いだろう。


「解析班の人? が映像を分析して中古じゃなく現役の軍用騎士だとか言われてるよ」

「出力は抑えているはずだがバレてるのか」

「どっちかというと、ハンマーの動きが鋭すぎるって感じみたい」

「アレは個人技だから魔導騎士の性能は関係ないんだが、ネットの解析班なんてそんなものか」


 ハンマーを軍用兵器と思ったんだろうな。確かに王国の戦闘機を撃墜したり、戦果も出してるから兵器として通用するのも確かだが。あれを動かすのに高出力の魔力炉が必要なはずとか的外れな解析をしてる奴がいるらしい。

 アイネが個人の魔力で制御してるというのは、今のこの世界の住人からすると常識の外なんだろう。魔術師の存在自体が希少で、一般人には過去の人扱いされている。


 そんなリリアの報告を聞きながら、俺は貰ってきた食材で夕食の準備だ。プラントで生鮮野菜を作っていて、生で食べられる野菜が手に入るというのは、宇宙空間ではそれなりに希少だ。調理用魔道具でそれっぽく作る事はできるが、何かが違うと思わされる。

 なので野菜の食感を活かした料理だな。ピーマンっぽいのがあるので、青椒肉絲チンジャオロースとか作ってみる。細切りにしてもシャキシャキとした食感が楽しめるのは、新鮮な野菜があってこそ。タケノコは見つからないので、人参っぽいのを食感を残すくらいの厚みで短冊切りで加える。


 キャベツっぽい野菜もあるので回鍋肉ホイコーローも追加だ。少し味が濃い物ばかりになりそうなので、レタスをメインにしたサラダには黒酢系ドレッシングでさっぱりに仕上げる。

 そして試してみるのはコボルトの肉。鉱石を固めた外殻部分と違って口内は柔らかそうだったので、死体から幾つか切り出しておいた。

 軽く炙って食べて見ると、コリコリとした食感に旨味が詰まっていて、貝やイカに近い風味がある。宇宙空間には苔などもいないので、変な臭みもなく食べやすい。


「どうしてこれを食材として使ってないんだ?」

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