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狩り能力の開示

 装備屋の親父がセッティングを終えるまで、こちらはせっせと実績作りだ。既に弱小傭兵団に有無を言わせぬほどの実績はあると思うが、その他の傭兵団から横槍を入れられない為にも強さは見せた方が良いだろう。

 傭兵ギルドに宙域の予約しに行くとスカウト勢から声を掛けられるが、情報を集めて吟味中と躱している。

 しつこいと悪印象と相手に認知させつつ前向きに善処しますという前世の処世術で乗り切ろう。


 ステーションの職員とは友好な関係を築けている。特に問題を起こしたわけでもなく、先日の通報もプラスに働いた。当事者同士で揉めると遺恨が残るので、第三者に委ねる判断は管理局に好印象を与えている。

 今回もアステロイドベルトへと出発。恒星からの光魔力が燃料なので節約はそこまで意識しなくてもよく、最大加速、最大減速で目的地へと向かえる。


「一応、レーダーには注意しておけよ」

「アイアイサー」


 リリアは軽い調子で返してくるが、その目には信頼している。光学的な観察力もそうだが、レーダーのレンジ、方向を絞って遠距離の探査、観測ブイを置いての索敵など、先の戦争を経て一番成長しているのではないだろうか。


「幾つか感あり、誰かつけてきてる!」

「やっぱりか」


 リリアが早速不審船を見つけたらしい。まあ、軍艦に比べたら隠蔽ステルスもされてないし、魔力感知だけでも引っかかるか。それでもレーダーレンジに捉えるにはコツが要りそうだが。


「距離を詰めてくる気配はないか……向こうから仕掛けて来ないなら放置だな」

「大丈夫なのかな?」

「俺達が叩き出したスコアが本物か確認したいって連中だと思うからな」


 俺達の撃破スコアは傭兵ギルドへ提出した正式なものだから疑う余地はないはずだが、どうやって倒したかまでは分からない。

 超火力を一掃したら死体も残らないのでちゃんと一匹ずつ倒したと考えられるが、4人のチームでどうやったかは気になるところだろう。


「じゃあ手の内は隠すのか?」

「いや別に。コボルトを倒す手順程度なら俺達の真価は計れないからな」

「すっごい自信だね」

「リリアも下手なレーダー官より頼りになるぞ?」

「へへへ〜」


 照れたように笑うリリアだが、お世辞でもない。軍学校の同期と比べたらリリアの観察眼はとっくに上をいってるからな。


「とりあえず警戒は怠らずに。アイネ様は船の側でフォローできるようにしてください」

「仕方ありませんね。仕掛けてきたら返り討ちにしますよ」

「そこはご随意に」


 複数の傭兵団が視察に来ているようだから手を出してくる事はないと思うが、万が一仕掛けて来たとすると、ヨロイの機動力ではどうしようもない。アイネの魔導騎士に頼るしかないだろう。


「じゃ、しっかりと稼ぎますかね」




 今回の担当区域で一番大きな小惑星へと降り立った。じゃがいものように複数箇所がえぐれてクレーターとなっている3kmほどの小惑星だ。

 俺を先に降ろして、宇宙船は逆サイドへと進む。アステロイドベルトとはいえ、隣の小惑星とは数十kmの距離があり、自動操縦でもぶつかる心配はない。

 まあ、戦闘速度で飛び回るとしたら危険度は増すだろうし、流れ弾で爆発でも起こせば破片が舞い飛ぶのでぶつかる可能性は高まるが。

 コボルト相手のヨロイの火器では、表面を削る程度の威力しかないので、小惑星が砕けて破片に襲われることもない。


「魔石が思ったより安かったから撃ち抜いて倒しても良いんだが、ここはテッドの修行と割り切って魔石を壊さないように倒そうか」

「了解、狙い撃つよっ」


 小惑星に降り立ち、魔力波を放って周囲を観測。鉱物の含有率が他とは違う岩を確認、マーカーを付けていく。


「じゃあ釣っていくとしますかね」


 コボルトの真上にジャンプして、囮となる魔石を投擲。魔石に反応して飛び上がって来た所へ、テッドが操作する銃座から術式が2発飛ぶ。コボルトの魔石は口の中央にあるので、それを挟むように2点に打ち込むことで、体が回転するのを防いでいる。

 そのまま口へと足を突っ込む様にしながら、小惑星へと叩きつけると討伐完了。体も小惑星にめり込むようにして固定されるので回収が楽だ。小型ブースターを付けて一定範囲に浮かばせておけば、後でまとめて宇宙船で回収できる。


「ここいらにはあと5匹か。続けていくぞ」

「オッケー、任せてよ」


 コボルトの真上に飛ぶ動きはルーチン化されつつあるので、テッドの照準速度も上がっている。ポンポンと月面を跳ねる様にコボルトを跨いでジャンプしながら、魔石で釣り出しテッドに仕留めさせ、回収位置へと送り出す。


「やっぱり波乱も起きそうにないな」

「流れ作業だよね」

「油断はするなよ」

「分かってるって」


 調子に乗りがちなテッドに釘を刺しつつ周辺を一掃。6つの死体が回収ポイントへ打ち上げられるのに、10分も掛からなかった。




 かなり効率良く狩れたと思いながらアイネを見ると、両手足に繋いだハンマーが有機的に動いて、誘導、撃破、巻き付けて宇宙船へと放り投げるを繰り返す魔導騎士の姿があった。

 放り投げられたコボルトの死体は、宇宙船の格納庫横に固定されたネットへと絡め取られていく。

 捕縛術式が描かれた魔法陣を使ってるみたいだな。あの辺はアイネの真骨頂だろう。


「勝てるとは思えんが、足を引っ張らない様にしないとな」

「う、うん……」


 その討伐の勢いにテッドが慢心することはなさそうだ。上には上がいるという認識は人の成長に大事だな。まあ、高すぎるハードルは心を折りかねないので、加減もまた大事なのだが。


 前回と同じ数を倒すのに掛かった時間は半分ほどに縮まっていた。宇宙船の貨物室に入り切る数を撃破したところで終了。もっと数を稼ぐために輸送船くらい借りたい所だが、それだと移動時間も伸びるので悩ましい。

 運び屋みたいな制度があるだろうか。傭兵ギルドに掛け合ってみるのもありかもしれない。早く傭兵団を見つけられるのが一番だが。


 小惑星から打ち上げたコボルトの死体を宇宙船で回収。船体が重くなっているので行きのようなスピードは出せない。星系内の短距離転移は恒星の重力や各惑星の重力が重なって計算がややこしく、不可能ではないがちゃんとした転移を行うには計算に時間が掛かって時短にはならなかったりする。

 中途半端な計算で飛んだら、逆に遠ざかる羽目になったり、最悪は惑星に突っ込む可能性すらあるからな。


 逆に地上ならその惑星の重力だけに気をつけていればいいし、距離も短いので問題なかったりするんだがな。やはり宇宙空間は広いだけに、誤差が致命的になり得る。

 なので地道に飛行するのが結局は近道なのだった。


「リリア、監視者達はどうだ?」

「動きはあんまりないよ。通信は頻繁に行ってるみたい」

「やっぱり仕掛けてくる事はなさそうだな」


 宇宙船にコボルト満載だといっても1回の量。これを奪っても大した金にはならないし、複数の目がある中で犯罪行為に及ぶ事はできないだろう。

 監視者は末端だろうから実際に映像などを見て上が動くかどうか判断してから行動にでるはずだ。

 スカウト攻勢が増えるのか、何らかの圧力を掛けようとしてくるか。


「どうやって罠に掛けましょうかね」

「いえいえ、アイネ様。荒事はダメですよ?」


 まだ相手がどう動くか分からないのに、罠を準備してたらこっちが完全に悪者だ。囮で犯罪を誘発したらこっちが罰せられる可能性もあるだろう。

 何より大事になると国に知られて、セディナの耳に入る可能性もある。今は雌伏の時、地道に自力を付けていかなければならない。


 俺達は監視者が見守る中、ステーションへと凱旋するのであった。

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