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傭兵団探し

 情報を集めるとなれば思いつくのは酒場だ。特に娯楽が少ないこのステーションでは傭兵ギルドに併設された酒場はいつも賑わっている。

 しかしスカウトが群がってくる今の状況で酒場に行こうものなら様々な者から話しかけられ情報収集どころではない。有力な傭兵団から話しかけられ勧誘されるばかりで、アイネが求める傭兵団を探すなんてできないだろう。

 じゃあ落ち目の傭兵団の情報を持ってそうな話を聞ける相手となると誰か。


「あん? 羽振りが悪い傭兵団だと?」

「中古の装備を手放さなきゃやってられないような所、知ってそうだからな」


 装備屋の親父だ。特に中古を扱っている親父の下には経営に苦しい傭兵団の話が集まっているだろう。


「四肢を失ってヨロイを売らざるを得なかったり、高いのを下取りに出して安物に変えたりしてる傭兵が所属する傭兵団を知りたいんたが」

「顧客の情報をべらべら喋る商売人がいるかよ」

「ごもっとも。だからこっちに直接渡せって訳じゃない。提案を投げたいって事だよ」


 俺としては個々の傭兵についての情報は必要ない。弱ってる傭兵団と渡りを付けてもらえればそれでいいのだ。

 中古ヨロイを扱ってる親父なら、個々の傭兵の動向から顧客になる傭兵団の勢力図まで気をかけているはず。ノウハウを持った傭兵団と提携して、こちらは知識をもらい、相手に武力を提供する。その条件で取引先を探ってもらうという訳だ。

 店の親父としても落ち目になった傭兵が持ち直し、新たなヨロイを買ってくれれば売上も伸びる。


「何なら親父が気にかけてる傭兵団でもいいぜ。俺達の初狩のスコアは共有する」

「多少は聞いてるが……こりゃまたやったなぁ。これなら上位の傭兵団でも即幹部候補じゃねえか。そっちの方が実入りはいいぞ?」

「中途半端に出世レースに割り込むと嫉妬が怖くてね」


 他の傭兵団に入っても目を付けられる可能性は高いが、味方と思ってる奴から攻撃されるよりは外部からの動きの方が対応はしやすい。

 ネチネチといびろうとする実力もない先輩の相手はしたくないしな。


「傭兵団を掠め取ろうってのか」

「背後から撃たれるリスクを避けたいのさ」


 傭兵団の中で圧倒的な強者であれば、逆らう者はいないだろう。それが掠め取り、乗っ取りという状況になるなら仕方ない。元の人員を追い出そうとかは考えていないし、俺達が加わる事で実質的な生活も向上するだろう。

 要らぬプライドを抱えてたら厄介だが、その辺もすり減った弱小傭兵団を探している。


「まあ人員が欠けて経営が上手くいってないトコはあるがなぁ」

「新戦力を受け入れて生活が安定するなら受け入れる側にもメリットはあるだろ?」

「ただ傭兵やってるヤツは、プライドがないと成り立たないもんだ」


 命懸けの仕事で、一攫千金を狙う奴ら。打算が働くならもう少し真っ当な仕事を選ぶ。他人に敷かれたレールに反発する傾向が強い。

 それは俺にも当てはまる。帝国に戻って第2皇子派閥に加わればもっと安定した仕事にありつけるだろうが、しがらみができるのを嫌って王国内で動いていた。


「ま、取り敢えずそっちの要求を向こうに伝えて乗ってくるのがいりゃあ、会合くらいはセッティングしてやる」

「恩に着るぜ」

「上客になってくれそうだからな。期待は裏切るんじゃねぇぞ」

「それについてだが、親父は魔導騎士も扱ってるのか?」

「流石に個人商店じゃ扱えねぇよ。一応、ツテもないこたぁないが……」


 ヨロイと魔導騎士では、自転車と自動車くらいの違いがある。整備くらいなら町工場でもできるだろうが、本体を扱うには専門のディーラーが絡んでくるのだろう。

 この星系では作っておらず、新品が欲しければ取り寄せ。中古の売買についても専門の業者がマッチングしているらしい。


 アイネが乗ってる魔導騎士は、子爵が用意してくれた軍用品だ。表面装甲こそ傭兵なども使う汎用品だが、中の機構、刻まれる術式には帝国式の物が混ざっている。整備を他人に任せるのも難しいのが現状だった。

 まあ普通に操縦する程度ならそうそう壊れることはないが、無理矢理出力を上げようと魔力を過剰に注げば、回路術式が焼き切れたりメンテが必要になってくる。

 小型コボルト相手なら大丈夫だったが、大型までいくとメンテが必要になりそうだった。


 整備できる環境が手に入らないなら、高値が付くうちに手放すのも考えておかねばなるまい。

 アイネが魔導騎士を常用するなら、俺用の騎士も欲しいからな。やっぱりヨロイでは限界が低すぎる。


「ま、傭兵団との話し合い次第ではお世話になるかもしれないって程度だよ。しばらくはヨロイ頼りで狩るしかない」

「セッティングまでも時間はあるから、精々稼いでくれ。そういえば、ヨロイに不具合はなかったか? あれだけ倒せるなら問題ないと思うが」

「細かく言えば注文もなくはないが、個人でカスタマイズする範囲だな」


 コボルトを縫い留めるトリモチの発射数とか、銃座発射時の反動を消すのに動きが制限されるとことか、致命的ではないが気になる点はあった。

 ただ自分達でも工夫できる範囲だからわざわざ店の親父に頼むことでもない。


「気になる事があったら言ってくれ。こちとらアフターサービスでも売ってるんでな」

「了解」


 ひとまず傭兵団と渡りをつけられそうなので、俺は宇宙船に戻ることにした。




 宇宙船へと戻ってくると、船の前に人だかりができていた。


「今なら俺達の団へ入れてやるぞ!」

「このままだと様々な妨害にあうぞ!」

「穏便に済ませるのが長生きのコツだぞ!」


 搭乗口を開けない宇宙船に向けて外部から声を上げているらしい。もちろん宇宙船は気密がしっかりしているので、外で大声を上げようがマイクをオンにしないと通じないけどな。

 叫び声を上げている奴らは見るからに粗暴そうな男達だ。宇宙生物相手とはいえ荒事を生業としている傭兵達なので、どうしたって暴力に訴える者は多い。

 特にこの星系で主力となっているヨロイは、装着者の筋力をベースに強化する仕組みなので、より屈強な者が多いだろう。

 筋肉を強調するようにタンクトップに袖無しのジャケットを羽織り、じゃらじゃらと鎖らしきものを巻き付けている姿は、前世のプロレスラーを思わせる。


 そんなやからが宇宙船を取り囲んでいて近づけそうにない。単に筋肉バカであれば蹴散らすのは容易いが、相手は宇宙生物相手に命を張ってる傭兵。他の星系からやって来た対人経験が豊富な奴がいる可能性もある。

 何より恨みを買って粘着されても面倒なので、直接相手をするのは避けて、港湾部の警備員へと通報。相手に見つからないようにしばし待つと、警備員が現れて騒ぐ男達を解散させてくれた。

 宇宙生物を狩るにも、死体を売るにも、ステーション職員をないがしろにしては成り立たないから、一見無法者に見えて官憲には逆らえないのが傭兵というものだ。


 人影が散ったのを見て宇宙船に戻ると、中は平和そのもの。生身の人間が宇宙船をこじ開けて入ってくるのは至難だし、ロックを解除しようと何らかの魔道具なり術式を使おうとしたらアイネが対処するだろう。

 港湾警備が今後どこまで見てくれるかは分からないが、また宇宙船に群がるなんて事はなくなると信じたい。


「ひとまず装備屋の親父に話をつけてきた。弱小の傭兵団に渡りをつけてくれそうです」

「そう。多少、時間は掛かりそうですがそれまではどうしますか」

「コボルトを狩って実力をアピール……ですね」

「でもさぁ、さっきの奴らが妨害してきそうじゃね?」

「相手がどこまで馬鹿か次第だな……ステーションを敵に回すほど馬鹿なら、実力で排除だ」

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