傭兵団からのスカウト
散策していた3人と合流して、暗くなりきる前に宇宙船へと戻った。リリアは食堂での食事では満足できなかったと軽食を作ると張り切って厨房へと消えていった。
宇宙船の端末には傭兵団のスカウトから連絡が3件届いていた。いずれも会って話がしたいという感じだな。傭兵ギルドにたまたまいた男以外は、どこからか情報を入手したという事か。
まあ、過去の記録を調べられる訳で、ギルドとしても優秀な人材を確保するために共有する事もあるのだろう。
あの男も言っていたが、今日の狩りで稼げた額はあまり多くなかった。新たな宇宙船を買おうとしたら年単位で稼ぐ必要がある。鉱物資源の量もさることながら、やはり魔石の価格を考えると大物を狩らないとまともな稼ぎにはならない。
大物を狩ろうとすると4人では厳しかった。大物のサイズ的には最大でも50mほどまで成長する事があるらしい。小型の物の約10倍、魔導騎士と比較しても10倍のサイズだ。
宇宙船を持ち出して主砲を使うか、魔導騎士の高威力白兵武器を使うか、大規模術式を使うなんて手もなくはない。
大きくなると魔法障壁のようなものを纏い始めて固くなるらしいし、重力攻撃なども行ってくるらしいので、ノウハウなく挑むのは危険でもある。
何より問題となるのは大物のコボルトは配下を引き連れている点。数十から数百の小型コボルトが群がる中、大型を撃破しなければならない。
そこで傭兵団を結成して、露払いと大型担当を分けるようになった訳だ。
倒すだけなら遠距離から要塞砲みたいなので撃ち抜く方法もあるかもしれないが、魔石や鉱石を蒸発させてしまうので本当に倒すだけになる。
資源を確保するにはきちんと倒す必要があった。
「で、招待カードを貰った傭兵団はと」
ギリガメル傭兵団、登録された傭兵は150人超でサポートする事務員や整備士などを入れると300人近い傭兵団らしい。
あの男が言っていた様にそれなりに出入りがあるようで、傭兵団内では功績によるランキングがある。年功序列ではなく実力主義で大型を担当するエースチームを選抜。飛び入りでも短期間でエースチームに配属される可能性もあるらしい。
「実力があれば短期でも稼げると」
小型コボルトの討伐は随意で行え、大型をやる時は貢献度によって分配が変わるという能力主義が徹底されていて、それらは外部からも確認できる情報として公開されていた。
「クリーンさをアピールしてると」
登録されている傭兵は、管理IDが掲載されているので、公開されている情報にはアクセス可能。とはいえ、明確な犯罪歴でもなければ名前と傭兵歴くらいしか分からない。IDが晒されているので、指名依頼とかもあるらしい。
どちらかと言うと本人を知っていて、手を借りたい時に連絡を取れるという感じの利用法なのだろう。
入退団履歴もあり、エースチームに所属する者でも退団しているケースがかなりある。これもあの男が言っていた目的の額が稼げれば去るのも自由という辺り。利用し利用されるwin-win関係という訳だ。
スカウトが来ていた他の傭兵団も検索してみるが、ギリガメルほど割り切った組織は珍しいらしい。大型戦に参加するには入団してからそれなりに共同任務にあたって実力を示してからとなっている。命を預け、預かる関係だから連携を高めたいというのも分からないでもない。
ただ短期で稼ごうとするとネックとなる条件だ。傭兵団としての戦果を見てもギリガメルがかなり突出した存在となっていた。
「気になる点とすれば……相手から寄ってきたって事なんだよな」
つい最近キースという傭兵が自分から売り込んできたが、結局は公爵の手先で俺に監視役として帯同してきた。
それが侯爵の艦隊を窮地に追いやったと思うと、安易には自分から近づいてくる奴を信用できなかった。
スカウトが来ていない傭兵団もギルドの案内板で募集を掛けていたりはするが、どこも似たりよったり。時間を掛けて信頼を築こうとしている傭兵団が多い。当たり前の事だが、相手を信じるには時間がかかる。俺からも傭兵団側からも。
ギリガメルが異質というか、割り切った傭兵団と言うだけだな。功績を求めて背中から撃たれない保証もなさそうだ。
「ハイリスクハイリターンの典型なんだよなぁ」
研究所で作られた俺やアイネは簡単にやられる事はないが、テッドとリリアは生身の人間だ。宇宙空間で撃たれて気密が破れれば生存確率は著しく下がる。
俺やアイネなら結界を張って空気を生成するとかもできるからな。真空中でも一定時間の生存は可能だし、宇宙船の光学術式でも直撃さえしなければ受け流す事もできるはず。まあ、威力次第であるし魔力を奪われるので生存可能時間を削られるのだが。
かといってデッド達をステーションに留守番させるのも厄介だ。本人達が大人しくしていない可能性や不在に狙われる危険もある。宇宙船の中で参戦させている方が安全だろう。
「何にせよ、そこまで焦る状況でもないし、情報収集してからでいいな」
王国、歌姫のセディナに見つかると厄介だが帝国とのごたごたで国内に侵攻された直後だ、こちらを探す余力はないはず。この星系自体が汎用的な鉱石を産出する数多の星系の一つ。注目される場所ではない。王国の諜報員がいるといった事もないだろう。
ゆっくりと蓄財して、船を新調しつつ戦力を高めたい所だ。
「という事で情報を集めながら稼ぐと言う事で」
「予定通りですね。早く大型を狩りたい所ですが」
「戦力不足です」
「そのギリガメルとやらは問題があると」
「背中から撃たれるリスクもあるかと考えます」
「そうですね、私なら反撃して返り討ちにするだけですが、貴方がたは危険です」
「デッドやリリアには自衛する力はありませんから」
「俺だって戦えるよ!」
「攻撃ならな。でも相手から撃たれて避けたり防ぐ力はないだろ」
「だから俺にもヨロイを買ってくれよ」
「魔導騎士相手ではヨロイ10体でも敵わんよ。それが理解できてない時点で論外なんだよ」
肉体を強化するヨロイと魔力炉を積んで稼働するは魔導騎士では根本的な性能が違うのだ。そもそもヨロイには防御結界すらないからな。
「ふむ、では方策としては逆ですね」
「逆?」
「トップの傭兵団に所属して内部紛争が厄介なのですから、底辺の傭兵団に入ってこちらで掌握するのが手っ取り早いです」
「いや、それは……あり、なのか?」
アイネに提示された案を検討する。大型コボルトを狩れる規模の傭兵団となれば数十人の傭兵を抱える規模で、それを内部から掌握するのは難しいだろう。
ただ傭兵団の中には大型に挑戦する権利もない弱小の傭兵団も存在している。数人のチームがいくつか集まって利権拡大を狙った様な傭兵団だな。
チーム単位に与えられる利権だと確保できる狩り場の広さも限られるが、所属する傭兵が増えれば広い範囲を狩り場として抑えられ、他のチームに邪魔される事も少なくできる。
もちろん、狩り自体も戦力が増えた方が楽になるだろう。
「狙い目となるのは、歴史があって業績が落ちている傭兵団です。代替わりして人が離れてる団を乗っ取れるのが良いでしょう」
「まさに海賊思考ですね。承知しました、その条件で探してみます」
この星系には船の新調を目的にやって来たが、戦力の拡充も考えていた。今の船だと魔導騎士が一騎しか運べないし、損傷した時の修理もままならない。
ちゃんとしたドッグが欲しくて船の新調な訳だが、最初から新造の船を買おうとするとかなりの資金が必要になるので中古を探すつもりだった。
ならば売りに出てる船を買うのではなく、現役で使われている船を狙うのもありだろう。
整備するのも素人同然の俺がやるより専門家が欲しいし、俺が魔導騎士で出られるように船のパイロットも必要だ。
それらを引っくるめて勧誘するにはやはり時間を取られるが、まかりなりにも実働している傭兵団ならまとまった人員がいるはず。
落ち目の傭兵団に残っているのは他に移籍できないレベルの人員だろうが、それでも新人を集めたりするよりはマシだろう。
目標が定まったなら行動あるのみ。落ち目の傭兵団となると、公表している情報などないだろうから聞き込みで集めるしかない。
俺は行動を開始した。




