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狩りの効率化

 何とか1体を倒したところで、アイネの方へと視線を動かした。

 アイネは魔導騎士を使っての狩り。ヨロイより二周りほど大きな5mほどの機体だ。しかし、魔力炉を積んでいるだけあって出力はかなり大きい。

 王国の戦闘機を相手に戦った時と同様に、手足にハンマーを付けている。ハンマーの先端には魔石が使われていて、ハンマーの制御に使われていた。


 一般的な仕様だと、単純な円運動で遠心力を付けて叩きつけられるハンマーだが、アイネはワイヤー部分に自らの髪を編み込む事で魔力の通りを良くして、ハンマーの制御を緻密に行えるようにチューンナップしている。

 2つのハンマーを囮に、残る2つを迎撃に回していた。


 放り投げて行き来するだけの俺の囮に比べると、アイネが操るハンマーは有機的に動く。小惑星の表面をヘビが這うように蛇行しながらスルスルと。灰色の砂の上に模様を描く様に動き回っていた。

 元々コボルトは自分より小さい宇宙生物を捕食して魔石を集めていく肉食の習性を持っている。灰色の砂に潜むコボルトは魔力を探るのと同様に、小惑星を動く振動にも敏感なのだろう。

 ハンマーの動きに合わせて灰色の砂から飛び出して食らいつこうとした。


 それに対して迎撃用のハンマーが叩きつけられる。精密にコントロールされたハンマーは真上から叩き潰すように振るわれた。小惑星に押し付けるように叩きつけ、反射して浮き上がる力も更に抑え込んで小惑星に埋め込んでしまう。

 コボルトの魔石は体の中心、口の延長線上にあるので、倒しやすい口内への攻撃だと魔石ごと砕いてしまう。

 それに対してアイネはしっかりと外側から衝撃を与えることで倒していた。コボルト自体の生命力はさほど高くないので、岩石を纏った外装部分を抜く衝撃を与えられると倒せるのだ。


「魔導騎士の出力がすごいのか、アイネの技がすごいのか。何にせよ、あの勢いなら稼げそうだな」


 また魔導騎士から一定間隔で魔力波が放たれているのが感じられる。軍学校で俺もやっていた魔力で敵の位置を感じる方法だろうか。魔力を発していないコボルトに使用すると何かわかるらしい。

 それらを見て俺も自分の狩りをアップデートする事にした。




 コボルトは振動でも獲物を探してるので、小惑星に足を置き、すり足で進む様にする。ワイヤーでつないだ魔石はアイネほど上手くは操れないので、囮についてはそのままだ。


「テッド、小惑星に押し付けるようにして倒すぞ」

『そんな事、どうやって?』

「俺が跳ぶから上から仕留めろ」

『なるほど?』


 あまり分かってないようだが、やってみれば理解するだろう。アイネを真似てヨロイを通して小惑星に魔力を流す。アクティブソナーの要領で軽く衝撃を与えてやれば、返ってくる魔力を感じて色々とわかる。

 小惑星は岩石の塊で土魔力の流れが一定だ。表層の砂はバラバラなのでやや魔力が吸われる感じ。そしてコボルトは、単なる岩石と違って混じり気がある。体内の魔力は上手く隠せるようだが、表層の岩石が取り込んだ鉱石が混ざる事で自然石にはないムラがあるようだ。


「こことここと、あそこだな。マーキングしたから狙えよ」

『わ、分かった』


 俺は混じり気を感じる岩石に向かってジャンプする。といって重力はないから落下はせずに離れていくんだが、岩石の真上に位置したところで囮を投げる。

 囮の魔石が小惑星の表面へと近づいていくと、コボルトが砂を巻き上げながら飛び出してきた。

 5mほどの大きさだが、前もって場所が分かっていたので余裕がある。予め左腕を前に出していたので、後はテッドが微妙に調整するだけだ。


「口の中心に魔石がある事が多いみたいだから、中心は避けて攻撃だ」

『りょ〜かいっ』


 ワイヤーを巻き戻し、釣られて追ってきたコボルトの口内に、テッドの銃撃が行われる。口を開けると魔力感知で魔石の位置が分かるようになるが、やはり口内の中心の奥にある。

 口の位置は卵型の少し上側にあるようだが、魔石は体の中心ではなく、口の中心の奥となっていた。これは卵型の体自体はコボルトの本体ではなく、取り込んだ鉱石を防壁として張り巡らせる時に偏りが出ることもあるからだろう。


 口内を撃ち抜かれたコボルトの体力は一瞬で失われて活動を停止。銃撃による衝撃で後方へと押し返される。その先には小惑星が待っているので、また跳ね返って向かってくるが、そこへもう少し銃撃。今度は相手の勢いを殺すためなので、控えめに。

 それでもゼロにするのは難しく、再度小惑星の方へと落下していく。ただ十分に勢いは減らせたので、最後はヨロイのスラスターで抑え込み、停止させる事ができた。


「これならトリモチを使う必要もないし、経費が削減できるな。後は慣れだ、次に行くぞ」

『おっしゃ、次こそバチッと止めてやるぜ』


 魔力波で位置を特定し、小惑星へと押し付け付様に倒すことで逃がすこともなく、狩りは順調に進んでいった。




 アイネの効率的な狩りを見て、何とか効率を上げることに成功した俺達は、1回の狩りで数十のコボルトを駆除できた。1kmほどの小惑星でこれたけ狩れるとなると、この星系にはどれだけのコボルトがいるのかと不安になる。

 まあ、倒すだけなら民間宇宙船の主砲でも一撃だから、素材として回収する気がなかったら脅威でもないのだが。


 俺はステーションへと停泊させ、コボルトを積んだコンテナを製錬所へと送る。傭兵としてのコードが添付されているので、間違われることはないはずだ。

 一所懸命に狩った成果がなかった事にされたらたまらんからな。もちろん、製錬所も傭兵ギルドも傭兵に反感を抱かれて去られると困るので、その辺の管理はしっかりしている。だからこそ、産業として成り立っているのだ。


「とはいえコボルトの成果はそいつらが食ってる鉱石次第だからな。鑑定が終わるまでに少し時間がかかる。町の方へと繰り出すか」

「そうね、ニュービーを脱した私達を餌に効率の良い狩りをしましょう」

「面倒事は避けてくださいよ」


 どんなステーションでも新参者は絡まれ易い。無用の争いを避けるため、最初は俺だけで行動していた。

 今回の狩りで脱初心者とみなされるコボルト10体の撃破を熟した俺達は、絡まれにくくなったはずだ。


 しかし20歳ほどで黒いゴシックドレスに身を包むアイネや10歳ほどに見える白のワンピース姿のリリアはこのステーションでは異色の存在。

 絡まれないはずはないのだが、ずっと宇宙船の中というのもストレスになる。少しは外……といっても閉鎖されたステーション内で、循環装置の老朽化が進んでいるのか少し油臭い……空気を吸いたいというのも分からないでもない。


「正直、配給食も美味くないし、服屋とか洒落た店もないからな」

「配給が美味しくないからこそ、工夫してる人がいるかもだよ、ユーゴ兄」


 そう言ってリリアは貪欲な姿勢を見せていた。


「なぁ、兄ちゃん。俺にもヨロイ買ってくれよ」

「体が小さいから特注になって割高なんだよ。もう少し大きくなってからな」

「もう10cmは伸びたんだぜ」

「ああ、遅れを取り戻すために成長してるからな。すぐに大きくなるぞ」


 生まれた惑星が貧しかったために栄養不足で成長の遅れていたデッドやリリアには、栄養補給と共に身体補正の術式を施している。15歳になったデッドも何とか中学に入るくらいの年齢に見えるくらいにはなってきたが、ここから一気に伸びるだろうから、装備の購入は成長が止まるまで待たせたい。今が130cmほどなので、せめて160cmくらいまで。

 そこまでいったら、女性用の装備なども充実して特注にしなくても扱える装備が増える。


「それより体を動かす訓練をしっかりな」

「……」

「アイネ様直々の訓練を受ける羽目になるぞ?」

「ちぇっ、わかったよ」


 射撃センスを見せるテッドはどうしてもそっちのシミュレーターを好んで時間を使うので、運動に割く時間を削りがちだ。

 体の大きさに比して筋力量が足りなくなっても、宇宙空間だとあまり意識できない。いざ地面に立っても歩くどころか立てもしない可能性も出てくるのだ。

 その辺、不足していると見咎められれば、アイネによる厳しい指導が入る。限界を見極めてギリギリまで追い込んでくるアイネの特訓は本当にしんどい。

 テッドもそれを理解しているので、渋々頷くのだった。

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