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コボルト狩り

 小惑星は灰色に輝いている。これは恒星からの光が当たっているという事だな。大気のない状態で直射日光を浴びているので、表面温度はかなりの温度に達している。裏側は氷点下になっていることだろう。

 コボルトを視認するには光があった方が分かりやすいので明るい面にやってきている。


「ここからは餌にかかるのを待つわけだが」


 コボルトを狩るには餌となる魔石をセットしてかかるのを待つトラップ型と、魔石を漂わせてヒットを狙う釣り型の2種類の方法がある。

 トラップ型は本人が離れている分安全だがコボルトが気づいて寄って来るのに時間がかかるので傭兵には不人気。そして俺もそんなに待つ気もないので、魔石を漂わせてヒットを待つ釣り型だ。


 基本的には魔石が剥き出しの餌へと食いつくはずだが、ヨロイにも魔石が使われているので俺の方に食いつく危険もある。また餌もろとも食いついてくる事もあれば、魔石関係なく動くものに襲いかかってくる事もあるようだ。

 魔石が囮になるからと油断はできないという事だな。


 小惑星の重力は微々たるもので、空気もないので放り投げた魔石はどこまででも進んでいく。しかし、ワイヤーの限界まで行くと張力によって引き戻される。なので持ち手である俺の前後を行ったり来たりを繰り返す。

 ワイヤーの長さは10mなので前後10mずつが釣れる範囲。俺自身が動くことでその範囲を広げていく。


 灰色の地表面は細かな砂に覆われた状態。これは長い年月をかけて弱い重力に引き寄せられた砂の重なりだ。本来ならそんな砂の中にコボルトが隠れる事はないのだが、コボルト自身が取り込んだ岩を砕き、周囲に撒くことができる。吐き出された砂は慣性に従って拡散していくはずだが、それを吸引して自身に纏わせる事で姿を隠す。

 なので小惑星の表面を見ただけじゃ、どこにコボルトが隠れているかの判別はできない。

 ただ逆を言えばコボルトが動き出す時には、周囲の砂を巻き上げるという事でもあった。


 空気が無いので音は伝わらない。小惑星に足を付けていれば振動を感知する事もできるのかもしれないが、微弱な重力しか無い小惑星に足を付き続けようとすると、こちらから吸い付くような力を発しないとダメなので、少し浮いた状態で表面をなぞるように移動している。

 何を言いたいかというと、背後で砂を巻き上げながらコボルトが飛び出したとしても、視認できなければ反応できないということだ。


『兄ちゃん、後ろ後ろ』


 俺の後方を見ていたテッドからの通信が入る前に、左手の固定砲座は勝手に後方へと向き始めている。これはテッドが操作しているから当然だ。

 銃座がスラスターで動くと、それに合わせて俺自身も回転させられる。他人の意思で視界が動くというのは気持ち悪い。


 なので思い切って目を閉じることにした。魔力感知で相手を捉えることを心がけるとコボルトは移動する際に魔力を使っているのが分かる。土に属する重力操作の一つだ。

 重力の向きを変えることで移動を行う。

 その魔力の流れを知覚すれば、位置を捉える事はできる。


 問題は感じられるのは魔力だけって部分だ。魔力が働いている範囲より体が大きい場合は、魔力を避けたとしても接触する危険がある。

 そしてコボルトの魔力の使い方は更に厄介で、移動の初速を得た時点で行使を止めるのだ。多少の残滓は尾を引くように流れるが、継続して感知していられない。

 初速に使用した魔力と方向からこの辺に来るという予測で行動しなければならないようだ。なのでテッドによって銃身の向きが定まったところで目を開く。ちゃんと正面でその姿を捉えていた。


『撃つよ』

「任せた」


 囮の魔石へと食いつこうとしていたコボルトへテッドがトリガーを引く。4mほどの小型コボルトは卵型の真ん中辺りに亀裂が入り、ぱっくりと口を開けている。その上側へ術式が発動した。

 光の術式は、光速で進み直撃。レーザーによる熱を与える。しかし岩石を纏うようにくっつけているコボルトへの有効打とはならなかった。

 くるっと勢いのまま回転する事で1点に集中するのを避けつつ、攻撃したこちらへと重力移動の向きを変えた。


「外側には効かないみたいだな」

『火力が足んねぇよ、兄ちゃん』

「ちゃんと口内を狙えって言っといただろ」


 俺はバックステップする事で射撃の時間を稼ぎつつ、デッドに指示を飛ばす。


『回転止めてよ、狙えない』

「贅沢な注文をっ」


 右手のワイヤーを引き戻し、魔石をコボルトの前へと通してやる。すると思わずといった感じで噛みつこうと回転を止めて口を開けた。

 かなり近い距離で開いた口が迫ってくる。毒々しいほどに赤い口内には、岩石を磨り潰す粉砕機を思わせるギアのかみ合わせの様な細かな歯が渦を巻くように動いていた。

 腕などが巻き込まれたら複雑骨折どころではなく、ミンチにされるだろう。コボルト狩りで手足を失う者が多いのも納得だ。


発射ファイア!』


 テッドの声と共に光の術式が放たれ、生物的な口内を焼いていく。小さな爆発を起こす様にコボルトを内側から破壊する。しかし、コボルトは岩石で構成されていて重い。術式の圧では押し返せず、そのまま突っ込んできた。

 4mの岩でできた卵を受け止めるなどしようものなら、俺の方が吹き飛ばされる。


 コボルトの口の端に手を掛けながら、相手の下側へと体を滑り込ませ、移動するベクトルを調整。小惑星の表面を滑る軌道を取らせた。

 表面を覆う砂を撒き散らしながら表面を転がる。その程度で減速するほど力を分散させられない。途中で小惑星の突起へとぶつかり、跳ね上がる。

 そのまま宇宙空間へと飛び出したら追いかけるのは難しい。しかし死体を回収しなければ儲けにならないのがコボルト狩り。


「こなくそっ」


 右手からトリモチランチャーを発射。岩石の表面に接着、回転する死体に巻き取られる様にくっついていく。伸縮性のあるトリモチの限界点に到達すると、コボルトの重さで引っ張られそうになる。

 両足に仕込まれたパイクを小惑星へと打ち込み体を支えつつ、コボルトの体を引っ張った。逃げるように進んでいた移動力がなくなり、トリモチの張力によって死体が戻ってきた。

 表面に強力なトリモチが巻き付いたコボルトの死体は、再度小惑星の表面をしばらく転がって止まる。


「ふう、宇宙での狩りは面倒だな」


 動き出すと止まらないという宇宙では、死体を回収するのも一苦労だ。相手が動き出す前に倒せたら楽なんだが、隠れている状態を見つけられなかった。

 コボルトへと近づいていくと、トリモチに絡め取られて転がっている。口内を焼くだけで簡単に倒せたので、生命力はそこまで強くないようだ。

 大抵の生き物は口内をやられたらもうダメか。野生で餌をとれないと、餓死するだけだもんな。


「魔石は……砕けてるか」


 コボルトなど宇宙生物は魔石を体内に取り込みながら生きるので、体内に魔石を持っている。外部から取り込んだ魔石が増えていくと、それらは融合して育っていく。体内の魔石が大きくなると、コボルト自身のサイズも増えていくらしい。

 大きく育った魔石ほど高値で売れるので、より大きなコボルトを求めて上級者ほど岩石惑星で狩りを行う様になる。

 魔石を確保するには、魔石を避けるように攻撃しないといけないので、小型のコボルトほど魔石を回収するのが難しかった。

 ちなみに属性は土。


 そのため小型のコボルトを倒すのは、全体の間引きという意味と魔石とともに体内に蓄えられる鉱石が目当てだ。

 コボルトの中では小型に入る4mサイズでもヨロイで持ち運べる重さではないので、ブースターを取り付けて打ち上げる。それを宇宙船で回収する段取りだ。

 トリモチまみれの表面へとブースターを取り付け、バンドを巻いて固定。スイッチを入れると重力術式が起動して推進力が生まれる。小惑星にくっついている部分をバーナーで熱して焼き切っていくと浮かび上がっていく。


「ようやく1体だな」


 宇宙船を買えるくらい稼ぐにはどれだけ倒さないといけないのかねぇ。

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