コボルト狩りへ
強化装甲であるヨロイを買い付ける事はできたが、細かなチューンナップが必要なので受け渡しは3日後となった。
手足を入れて使うので、関節の位置などを合わせた方が動かしやすい。安物だと関節部を大きく開けてフィッティングが不要にしている物もあるが、そうなると魔導筋肉の密度が薄くなり強化度が下がる。
専用化すると十全に魔力を行き渡らせて思い通りに動かせるという訳だ。
しかも今回は固定銃座を持ち運べるように改造も施す。左腕に固定し、右腕で補助しながら撃つ事になる。
元々の固定銃座から回転式の台座ごと前腕部に乗っけるので、かなり自由度を奪われることになるが、テッドの操作で動かせる範囲を増やした方がその能力を活かせるだろう。
この星系にある岩石惑星は地球よりも小さくはあるが、それでも0.5〜0.8Gはあるので重力圏で使用する際は、地面に杭を突き刺して固定して使う事になる。
それ以下の低重力時はバックパックと連動してスラスターで反動を軽減させる形だ。弾数とは別にバックパックの魔力量も活動時間に影響するので注意が必要だった。
「という事で実物が来るまでシミュレーターで練習だ」
「ラジャー!」
俺とテッドは宇宙船のシミュレーターで対コボルトの模擬戦を繰り返す事になる。やはり反射神経ではデッドが早く、動き出したコボルトを簡単に見つける。
しかし勝手に射撃されると、連動してスラスターも動いて反動を消そうとするから姿勢制御が持っていかれる。
正面の動きなら良いのだが、テッドの奴、視界も広いみたいで、俺からすると死角の敵まで見つけやがる。すると真横に向かって射撃とかするから、俺からしたらいきなり真横に振られたりするのだ。
もちろん、コボルトへの反応が遅ければ襲われるのも俺なので、早く見つけてくれるに越したことはないのだが、襲われたら回避行動もしなければならない。
その際に勝手にスラスターを吹かされていると、姿勢制御がままならなくなる。
じゃあテッドの視界に合わせて首を連動して動くようにテストしてみたが、勝手に視界が動くというのもやりにくい。
テッドのトリガーに合わせて画面に表示を出すのが精一杯だった。それを俺が視認してそっちへ攻撃すると理解して、姿勢制御に任せずに敵の攻撃を回避できるようになるまで、訓練を続ける羽目になり、俺は脳内をシェイクされるような地獄を味わった。
シミュレーターでは魔力感知まで反映させるのが無理だったので、実際はテッドが見つけるよりも俺が早く感じる可能性もあるのだが、今は無いものを前提で訓練してもその通りにいくかは不明だしな。
最低限、コボルトを倒せる確信が得られるまでは練習するしかなかった。
「兄ちゃんが鈍いんだよ」
「いやいや、テッドが一呼吸置いたらいいだけだろ」
「それじゃ噛まれるかもしれないし」
自分が優位に立ったのが嬉しいのか、テッドはニヤニヤ笑いながら俺が遅いのが悪いと言ってくる。
最終手段としては呪歌でバフを掛けるという方法もあるが、シミュレーターと違って本番では何時間も探し回る可能性がある。そうなると長時間バフを掛け続けたら魔力切れを起こしかねない。呪歌は掛かった本人の魔力を使って術式を発動させるからな。
「ま、本番ならこっちの探知能力も上がるし今よりはマシになるだろうが……失敗したら命がけだからな」
「わかってるって。兄ちゃんがやられそうでも、俺が倒していってやるぜ」
……ちょっと調子に乗り始めてるし、どこかでガツンとへこませてやらんといかんかな。
ヨロイを受け取り、いよいよコボルト狩りへと出かける。傭兵ギルドに行って探索場所を申請しなければならない。傭兵同士が現場でかち合って良いことなんかないからな。
今回は初任務という事で小惑星帯、その中で前回の探査から時間が空いているポイントを選び、探査を行う規模を申請。ギルド職員がバッティングしていないかを確認してから、許可が発行される。
「こちらで管理している中で近辺で活動している方はいらっしゃいません。ただモグリを完全に排除できている訳ではないので、その点はご了承ください」
「その場合はどうしたらいいんだ?」
「傭兵ギルドへ連絡を入れて撤退して頂くのが一番推奨されます」
「実力で排除するのは?」
「許可宙域内でしたら優先権があるので、罪を問われるのは相手側となりますが、戦闘で生じた被害については補償いたしかねます」
「ま、そうだよな。こっちが訴えられないという確約が貰えたらそれでいい」
海賊はいないがモグリはいると。まあ遠方の許可を取りつつ、成果がでなければ帰りにそれっぽいポイントを探しながら戻るとかはあり得るか。
「ただその場で勝てるからといっても、相手がグループの場合もあります。その場合は様々な局面で報復が考えられますので、無用な争いは避けるのが長く傭兵を続けるコツです」
「わかった。こっちから仕掛ける事はしないよ」
悪い事を考える奴はつるむもんだからな。こっちは面倒になれば他の星系に移動するだけだが。ここで生涯を終えたい訳じゃない。
そんな事を内心で考えつつ、ギルドを後にした。
この星系は大小合わせると13の惑星があり、岩石惑星は3つ。第3から第5惑星がそれに該当する。その第5惑星の衛星軌道上に管理ステーションがあり、第3、4惑星の軌道上にも鉱物などを集積するステーションがそれぞれ存在していた。
第6と第7惑星の間に小惑星帯があり、コボルト狩りが行われている。
傭兵ギルドが設置したブイが点在していて、それを起点に予約したエリアが区分されていた。
「宇宙船はこの位置で停泊。テッドとリリアは船内に残って、俺とアイネ様とで外に出る」
アイネは魔導騎士に戦闘機戦で使用したハンマーを装備している。あれはハンマー部分に魔石が使われているので囮として使用できるだろう。
俺は購入したヨロイで魔石が先端に付いたワイヤーを右手に持ち、左腕にはテッドが遠隔操作できる銃座が付けてある。
ヨロイは魔導騎士より小さいので格納庫のハッチから出撃できた。
宇宙空間に飛び出すとヨロイのスラスターで移動するが、出力が小さく心もとない。アイネの魔導騎士に引っばって小惑星へと連れて行って貰った。
予約した宙域にある小惑星の一つへと接近。全長1kmほどの大きさがあるサツマイモの様な形。俺を手前側に降ろしたアイネは、逆側から調査を行うため離れていく。
灰色の表面に足が付くと、表面の小さな砂が舞い上がる。細かな塵が小惑星の表面に積もっていた。辺りを見渡すと灰色の砂浜という感じだが、所々小惑星がぶつかったのか、削られた様な跡が残っている。小惑星の表面に積もる塵は少ない重力で長い時間をかけて引き寄せられたものだ。
ヨロイの右手に乗せた魔石をワイヤーを伸ばし10mほど先へと漂わせる。小惑星の重力は微弱なのでそのまま漂う感じになった。
「調査を開始する」
『周囲を警戒するよ』
『俺に任せとけっ』
「まずは見つけるのに集中な。食いつくとしたら魔石の方だから焦るなよ」
やる気を見せるデッドに注意を促しつつ魔力感知を広げていった。潜伏状態のコボルトは生き物らしい気配や魔力などを感じさせない。
見た目は小惑星の表面に転がる岩石と変わらぬ卵型。表面に岩を付けたようなゴツゴツした外皮らしい。
それら小さな岩石は小惑星上にそこそこある。大抵は砂が積もっているので長くここにある事が分かるが、転がった形跡があるものもそれなりにあった。
「あとコボルトは不要な鉱石を粉末状にして排泄する……だったか」
つまり自身の周囲に砂を吐き出す事で姿を隠す事もある。小惑星上全ての物を警戒しなければならない。
そしてコボルトが単体とも限らなかった。
「思ったよりも大変な作業だな、これ」




