コボルト狩りの準備
傭兵ギルドには傭兵達がたむろする酒場も併設されているが、何の実績もない二十歳前後の俺やアイネ、更に幼いデッドやリリアが顔を出そうものなら要らぬちょっかいを掛けられるのは目に見えていたので、そそくさと撤退。
商店もあるにはあるが、基本的に食料は配給制。この星系で生産しているのは、ハビタブルゾーンに浮かべた食料プラントで半自動。後は外からの搬入品なので量が決まっている。
酒などは嗜好品として、金を払って良いものを求めたりはあるらしい。ステーション内なのでタバコは厳禁。幻惑術式が組み込まれた魔法ドラッグなんかはあるようだ。
「いかにも労働者向け商品ばかりだな」
傭兵のギルドカードや労働者用のIDカードで食料を受け取るか、店で食事ができる仕組み。食料プラントの出来が良いのか、新鮮な野菜が提供されていた。
「逆に肉類はバリバリ合成品っぽいな」
多くの飼料を必要とする畜産は星系内ではやっておらず、搬入品となっている。輸送コストを下げるために一度ペースト状にしてコンテナに詰め込み、食料プリンターで3D成形してから食材として使う形だ。
「これなら船の調理用魔道具を使った方が良いものになるだろう」
「任せて!」
すっかり調理担当として、様々な知識を得たリリアが元気に引き受けてくれる。一般的な料理については俺を上回っているだろう。
俺のアドバンテージは前世の記憶だが、再現するにも食材が違うのでそれなりに苦労させられる。
トマトっぽいモノからケチャップを作ったりはできそうだから、その辺で先駆者の威厳を見せておかねば。
などという食糧事情は問題なしとして、対コボルト戦の準備だな。基本は魔石を囮に動き出したコボルトを駆除する形。コボルトの大きさは数mから十数mとそれなりに大きいが、攻撃方法は噛みつきだけ。外側は小惑星に擬態している様に、鉱石並の強度がある。口を開けた内側を攻撃するというのが常套手段だ。
一番簡単なのは、魔石に術式を記入して爆弾にする方法だが、そんな事をすると魔石代で赤字になってしまう。魔石はそれなりに高いからな。
なので魔導騎士の白兵武器で突き刺したり、宇宙船の光術式砲台で撃ち抜いたりするのだが、いつ餌に食いつくかも分からない状況で反射的にコボルトの内側を撃ち抜くのはかなりの技量を求められる。
この辺を効率よく撃破することが、ここの傭兵としての技量を示す事に繋がっていた。
「宇宙船で釣って、俺が撃つんか?」
「いや、宇宙船の機動力だとコボルトがついてこれない可能性があってな」
「じゃあ魔導騎士?」
「アイネ様はそれで良いとして、手数が欲しいから俺用の鎧を探す」
「ヨロイ?」
かつてウルバーンで一悶着あった時に利用した強化装甲を王国ではヨロイと呼んでるみたいなのだ。
大きさは魔導騎士が5mほどに対してヨロイは3mほどと二周りほど小さい。
一番の違いとしては、魔導騎士は乗り込んで操縦する形だが、ヨロイは手足に装着してアシストする形で使用する。
扱い易い反面、人の構造を越えた動きはできないので、魔導騎士に比べて戦闘力がかなり低くなってしまう。
「思っていたよりも安いな」
「その辺のはジャンク品だ。動作は保証してねぇ」
中古のヨロイ屋の軒先に並んでいる品を見ていると、店の親父から注意された。
定期的に宇宙生物が出て、駆除する傭兵が多いという事は、怪我をする者も壊れるヨロイも多いという事だ。
生還する負傷者というのは、体の一部をもがれた奴が多く、残った部位を治療費に充てる者がほとんどなのだという。
ジャンク品として吊るしてあるヨロイは部位ごとに作りが違っていて、ツギハギである事が見て取れた。
「傭兵なんてやっとる食い詰めモンは、ジャンクでいいと出てって、リサイクル品を提供してくれるお得意様ってこったな」
などと嘯いてはいるが、ジャンクなんて使ってると怪我するだけだと忠告してくれているのだろう。
「兄ちゃん、俺のは!?」
「テッドは手足が届かんだろう」
テッドは15歳にはなったものの幼い頃からの栄養不足により発育が悪い。既製品のヨロイではサイズが合うものがなかった。
「固定砲座で良いのがあったら準備しよう」
宇宙空間に浮かべて有線コントロールする銃座などがあればテッドの能力を活かせるだろう。俺が運んで、それを撃って貰うのもアリか?
探知に関しては魔力で探す俺の方が適しているが、見つけてからの反射、照準に関してはもうテッドには敵わない。
「ヨロイで持つタイプの銃を遠隔操作できるようなのってあるか?」
「ふむぅ、ちょっと待っとれ」
店の親父に聞いてみると、店の奥へと探しに行ってくれた。どうやら地上で使う遠隔射撃用の銃座はあるので、それをヨロイの手に持てるのがあるかを確認してくれるらしい。
地上だと地面に固定して撃てるが、宇宙だと反動を抑えられないと吹き飛ばされるからな。
「一応、あるにはあったが、ヨロイとセットだな。このタイプじゃねぇと耐えられん」
コボルトを撃破するのに足る威力を確保するにはやはり反動が大きい。それを保持できるヨロイとなるとそれなりに高出力の物が必要だった。
「ちと値が張るが……どうだ?」
「そうだな……流石に手持ちじゃ無理だが、魔石の買い取りをやってる所はあるか?」
「大きさにもよるが、うちでも扱ってはいるぞ」
ロガーティ子爵から襲撃を撃退した報酬として魔石を幾つか融通してもらっていた。王国の通貨はほとんど持っていないので、魔石を買い取ってもらって資金に充てるつもりだった。
空間収納から純度が高めの塊を取り出す。手のひらに載る程度のサイズだが、価値は高めの物だ。
「ほう、こいつは……ちょっと調べさせて貰うぞ」
魔導騎士やヨロイにも部分的に魔石を使用できるので、この手の商人なら取り扱っているだろうという予測はあった。親父は検査機を取り出して魔石の性質を調べていく。
魔石には属性付きと無属性があり、基本的に採掘で得られる魔石は無属性となっている。生物が体内に魔素を溜め込んでできる魔石は属性が付くことが多い。
ロガーティ子爵に貰った魔石は衛星で掘られた物なので無属性だ。
「こいつぁあ一級品じゃねぇか。盗品じゃないだろうな?」
ギロリと睨んでくる親父。流れの傭兵が出すにしては品質が良すぎたのだろう。
「ちょいとお貴族様絡みの仕事で貰ったんだよ。襲撃を退けた命の値段とすりゃ、悪くないだろ」
「ふん、まあ俺が出処を聞かれたらお前さんの名前を出すからな」
「で、支払いとしては十分だろ?」
「ああ、そっちについては文句ねぇ」
ということで、ジャンクではない正規のヨロイ一式と、遠隔で操作可能な銃座を一丁買い付ける事ができた。
宇宙船に戻ってリリアの料理を食べてゆっくりと休む。
まずは小型のコボルトを狙う。体の大きさに比例して力も強くなるので、大きな個体は岩石惑星表面で魔石を探してうろつくらしい。
惑星内部にある魔石を見つけたら、ワシワシと表面を噛み進み、周辺の岩もろとも食らっていく感じだ。
そうして魔力を蓄え、重力圏を飛び出し、小惑星帯で産卵。孵った幼体は小惑星から魔石を探して捕食、成長していくという流れだ。
人間が利用するには小さな魔石をコボルトが捕食することで体内に蓄積。上手く倒すことができたら魔石も回収できるが、大抵は体と共に砕いてしまって宇宙の藻屑となってしまう。
周囲の宙域を吸い集めても砕けた魔石だと価値がないので、コボルトの価値はその他の溜め込んでいる鉱石の値段となるのだ。
「倒すことを考えたら魔石を砕くのが早くて確実。儲けを出したいなら魔石を避けろと」
そこが傭兵としての技量の差となる。魔力感知でおおよその魔石位置は把握できるが、そこを外して致命傷を与えられるか。そもそもレーダーでも動き出すまで分からない擬態能力を見破れるか。
新たなことへのチャレンジとなる。




