王国で潜伏
新章突入
「思ったより封鎖が解けるの早かったな」
「帝国からの情報が飛び交ってるよ……反乱? 蜂起?」
「んん?」
リリアの声に帝国からのニュースを確認すると、帝国内部で新ハイドフェルド侯爵が独立を宣言したらしい。第2皇子を擁して真の帝国を名乗るようだ。
前侯爵が亡くなったばかりなのに大胆なと思ったが、元々の計画だっただろう事が見受けられて納得した。
第2皇子、フレンツェン大公がフレンツェン公国を建国し、帝国領を取り戻した際に改めて皇帝となるらしい。
「なるほど、簡単には公爵の統治にはなりそうにないな……だけどそれだけに公爵に近づけそうにない」
元々侯爵の支配する領地は広く、子飼いの貴族家も多い。流石に帝国全土からすると二分すると言うにはやや狭いが、王国と同規模の国力となりそうだ。
その大きさが帝国から独立。それを許せない帝国としては武力を持って制圧に向かうのだろうが、侯爵の保持する戦力もまた大きい。
帝国での内戦だが、規模で言えば王国との戦争よりも大きくなる可能性が高かった。もちろん公爵は後方で構えるだろうし、戦時中となれば身辺警護も厚くなる。拮抗した状態では近づくのは難しい。
何より攻撃的な状況に突っ込んでいたら命が幾つあっても足りないだろう。
「一旦、公爵は捨て置いて王国内で遊ぶか」
「それが良いですね。未知の生物が待っています」
ひとまず俺達を捕捉している船はなさそうなので転移してしまおう。侯爵軍の残存部隊も転移していっているので、それにまぎらるように逃げられるだろう。
隣の星系へと転移して、光魔力を補充する間に船の外装を改造する。ドッグに入れる訳じゃないので、あくまで今までの船と違うシルエットに見せる程度だ。元々共和圏で私掠船として改装した船は、追跡を逃れるために偽装工作が行える様に作られていた。
魔導騎士を使って外装を外し、居住ブロックの位置を組み替えて、外装をひっくり返して付け直す。
元は紡錘形の中央が膨らんだ流線型の黒い船体だったが、居住ブロックを前方に移動させて頭としたオタマジャクシの様な姿の赤褐色の外装となった。
宇宙空間は空気抵抗がないので、船の形自体は航行能力に影響を与えない。装甲板も防御結界で防げない時点で致命的なので裏表を返しても支障はなかった。
対空砲座は船体中央の上部、魔導騎士のアタッチするポイントは中央下部で変わらない。居住区から離れてしまったので緊急事態に駆けつける時間が延びることにはなるが、30mの船体内の移動だから誤差の範囲だ。
「カッコ悪いけどな」
「前の形は王国にも知られたからな」
テッドが新たな形に不満を言うが、巡洋艦に捕捉されたのでそのままの姿でいるのは危険だった。
王国内を飛び回って不自然じゃない肩書は欲しいところだな。傭兵として帝国内がヤバくなりそうだから王国にやってきた……辺りならいけそうか。
これから帝国内での傭兵需要は高まるだろうが、それはかなりリスクを伴う任務となるだろう。敵地偵察とか、局地戦への参加なんかだな。
交戦必至、死に直面する可能性が高い。
王国には海賊がいないので、傭兵が担当するのは宇宙生物になる。王国のデータは拾ってあるので、既存のものについては対処できるだろう。
しかし、王国でも新たな宇宙生物はちらほら発見されていて、新種に遭遇する危険はあった。
「新種、楽しみですね」
アイネとしては未知の生物に好奇心を刺激されるようだ。俺としては安全にいきたいんだけどな。
「もう少し船の規模を大きくしたいですけどね」
小型宇宙船と魔導騎士一騎ではやれることが限られる。今回、巡洋艦4隻を相手に立ち回れたのは相手の利点を潰すように時間稼ぎをしながら逃げ回ったからだ。
倒そうとしていたらあっさりと潰されていただろう。
「とにかく傭兵として動くとしても街を目指さないとな」
戦場となった星系から4つほど王国内部へと移動した。ターミナルとなる星系からも少し離れた帝国に支配されなかった星系だ。
居住可能な惑星はなく、第4惑星の軌道上にあるステーションによって管理されている。大気のない岩石惑星が3つほどあり、テラフォーミングは行われていないが、資源採掘プラントは幾つか設置されていた。
元々は王国の領土ではなく、小国が管理していたが占領された星系だ。とはいえ住民はおらず作業員が数千人ほど住んでいるだけなので、反乱が起こるような場所でもないだろう。
こうした資源星系は海賊に狙われやすいが、王国内では駆除が徹底しているので被害もない。
しかし、宇宙生物は生息しているので、傭兵の仕事はあるらしい。
「よう、新顔だな。こんな辺鄙な所に来るとは酔狂な奴だな」
「この前の戦争で色々あってな。ほとぼりが冷めるまでちょっとな」
「おいおい、面倒事は持ち込むなよ」
「それは大丈夫だ。帝国はしばらくごたつくからな」
「ああ、帝国で悪さしたのか。なら問題ないか」
入国審査では特に止められる事はなかった。
一応、俺は帝国で指名手配されてる身だから帝国にいるのがまずいというのは事実だしな。ちなみに幻影で顔を変えるのは辞めている。忘れる事もあるし、術式検知に引っかかってもまずいからな。指名手配の写真は王国にも伝わってはいるだろうが、帝国ほど探られる事もないはず。
ひとまず髪色を緑に染めて、瞳をカラーコンタクトに近い技術で蒼に変えている。
「しばらく頼むわ」
「宇宙生物は定期的に沸くから、ちゃんと駆除してくれるなら歓迎だ」
この宙域に沸く宇宙生物は、小惑星に擬態するコボルトと呼ばれる奴らだ。前世の犬型モンスターとは違って、クズ鉱石としての名付けらしい。
小惑星帯や岩石惑星の表面で活動し、魔石を見つけたらにじり寄り、岩に見える体がパカッと開いてかじり取る感じだな。
岩に擬態している間は魔力なども発しておらず、見つけるのは困難。魔石で釣って駆除するのが一般的らしい。
そんな生態なので、体内に色々な金属を取り込んでいる。そのため駆除したコボルトの死体を製錬所で買い取りしていた。
「そんな訳で、鉱石類は充実した星系で、造船所なども多いんだ」
「ここで新しい船を買えるのか!」
今の形に不満を言っていたデッドとしては、新たな船に乗り換えたい様だが、船はそんなに安くはない。
「割の良い中古でもあればな」
「えー、お古かよ」
造船所がある所には、リサイクル工場もあり再利用できるものは再利用して次の船に活かされる。
「後は仲間も探さないとな。船を大きくしてもっと広い範囲を移動しやすくしたい」
「そうですね。手近な船を襲いますか」
「それはダメですよ、アイネ様。しばらくは大人しくしましょうね」
短絡的に結果を求めてしまうのは記憶がない副作用的なものだろう。経験が足りないので、思考も単純になっている。
「まずはこの星系でのお仕事を楽しみましょう」
傭兵ギルドへも顔を出してみる。定期的に宇宙生物を駆除してきている傭兵ギルドは、この星系ではかなり頼りにされる存在だ。
また常時仕事があるので、所属する人数も多かった。それだけコボルトがはびこってるという事でもあるか。
擬態が上手く魔力感知では見つけられないので、人海戦術で虱潰しに探索するしかないのだろう。
「あ、新顔の人ですね。ギルドカードはありますか?」
「帝国のものだが、これでいけるか?」
「ええ、大丈夫です」
受付は若い男だった。といって今の俺よりは上だろう。20代前半くらいに見える。共和圏で与えられた私掠船の許可証を兼ねた帝国の傭兵ギルドカードというややこしい代物だが、王国でも普通に使えるようだ。
「こちらの星系にどんな仕事があるかは分かりますか?」
「ああ、コボルト退治だろ。具体的な方法については教えて欲しいが、おおまかな流れは聞いている」
「それでは……」
俺は受付からコボルト退治の基礎を教わった。




