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王国の魔導騎士部隊

「うひっ」

『回避が甘いですよ』


 近づくにつれて弾幕の密度が上がり、防御結界が削られるペースも上がる。複数の直撃弾がありそうな場合は、アイネが追加で防御結界を張り足してくれて何とかもたせている。


「3、2、1、上がります」

『パージ……射出』


 交戦距離まで何とか船体を持ち込み、急上昇をかける。重力術式を俺自身が補うことで、かろうじて分解を免れつつ、アイネの魔導騎士をパージ。ワイヤーを伸ばしながら離れる時間はごく僅か、すぐに限界を迎えて魔導騎士自体も上昇軌道になるだろう。

 その僅かな時間でアイネは手にしたジャベリンを投擲。宇宙船が加速してきたエネルギーも乗ったジャベリンは高速で王国の魔導騎士へと向かう。


 それに対する王国側の対応は、近づける前に撃ち落とすだった。先の小隊との戦闘で黒いジャベリンを潜ませる戦術も白いジャベリンをギリギリまで引き付けて打ち払おうとした結果、黒いジャベリンに気づく時間がなかったのだ。

 ならば多少軌道が曲げられたとしても避けられない弾幕を張って撃ち落とせば、白黒ジャベリンも脅威ではない。

 小隊1部隊では止めきれなかったかもしれないジャベリンも、3部隊で集中攻撃すれば破壊できる。


「デッド、目を閉じろよ」


 そう言いながら対空砲座の偏光フィルターを最大まで引き上げる。


『何がっうわっ』


 ちゃんと事前に言っとけばよかったな。アイネとは意思疎通できていたから忘れていた。

 破壊されたジャベリンはその瞬間にまばゆい光を放って消える。その光量は恒星を直視するほど危険な光量だった。


 迫るジャベリンを凝視して迎撃していた魔導騎士達はモロに見てしまっただろう。しかもそこにはサブリミナル術式も混ぜられている。呪歌ほど効果的な運用は無理だが、光の明滅により術式を起動し、ごく僅かな影響を与えられるサブリミナル術式。

 今回はちょっとした目眩を起こさせる程度だ。

 しかし魔導騎士同士の戦いで目眩を起こすというのがどれだけのデメリットか。しかも視界は白く塗りつぶされて視覚情報にも頼れない。

 狂った三半規管と閉ざされた視界、その状況を利用してアイネは隊長機を狙って潰しに掛かる。


 盾の後ろに備えてあった小振りの剣を手に接近戦を仕掛けていく。しかし、相手も隊長格。当然のように魔力で相手の位置を把握しているらしく、アイネの攻撃を受け止めていた。

 ただ知覚を揺さぶられている状態では、得られる情報が少ない。アイネが生み出した魔力炉を模したデコイにつられて機体を回転させ、無防備な背中をアイネに晒した。

 そこに的確な一撃を入れて戦力外へと追い込む。


『次』

「アイアイサー」


 狙われる事に気付いた隊長機は、状態回復のために一気に距離を取ろうと逃げ出している。反応の鈍い随伴機なら簡単に仕留められるだろうが、隊長機を残していた方が厄介になる。奇策もそんなに数はないしな。普通に体勢を整えられたら、物量の差で押しつぶされかねない。


 エメラルドグリーンの隊長機を追いかけて加速。速度差で追いつけるだろうが、時間は稼がれている。俺達が接近してくるのに気づくと、反転して迎え撃つ姿勢を見せた。得物は両手剣、踏ん張りが効かない宇宙では、切れ味に上乗せできる術式を乗せている事が多い。剣身を魔力解析すると風属性付与となっていた。


「風付与か掛かってるぞ」

『問題ありません』


 風属性は物体の動きに関する付与、両手剣だとそのスイングスピードをブーストしていると見るべきだろう。

 盾と片手剣を構えたままのアイネ機が白兵距離まで迫る。相手の方がリーチがあるので、先に攻撃動作に入った。

 まずはシンプルに横薙ぎか。スラスターを吹かせて機体ごと回転しつつ、アイネ機の胴体が狙われる。アイネは盾を構えて受けつつ、自身も同じ方向に動いて勢いを逸らす動きだ。


 そこで相手の両手剣が術式を起動、盾を押し込むように加速する。アイネ機の動く速度より速く振り抜かれた両手剣の一撃は、盾をへしゃげながら割り切った。

 耐えられないと見切ったアイネは、途中で盾をパージ。最後に剣身を押すようにして軌道の下へと回り込む。


 宇宙空間での戦闘は地上と違って縦横奥の三軸をフルに使った戦闘となる。特に地上では使いにくい上下の空間をいかに使うかが大事だ。

 下から回り込む様にして、アイネの片手剣が隊長機の胴体を狙う。両手剣で加速した相手の機体に対して、鋭く斬りつけると表面装甲をかなり削った。

 しかし、相手も剣の軌道から身を捻るようにして逃れているので、致命的なダメージは与えられなかった。


 相手の視力も目眩も完全に治ってるな。近距離での白兵戦に入っているが、アイネの変幻自在な移動に対して、両手剣の加速を利用した立ち回りで対抗している。

 となると……やはりもう一騎の隊長機もこちらに向かって近づいてきていた。


「アイネ様、もう一騎が合流するまであと30秒です」

『……離脱します』


 仕留めるには時間が足りないと判断したアイネは離脱を選択。瞬間的な加速力では宇宙船の方に分があるので、ワイヤーを巻き取りながら移動すれば、追随は許さないで済んだ。




 隊長機2騎が揃い、他の小隊機も陣形を整えつつある。そして巡洋艦もじわりと包囲網を狭めていて、包囲を抜けようとすると濃密な対空砲をくぐり抜ける必要がある距離まで迫られていた。

 四方から包囲されているので、上下方向に逃げれば脱出は可能だが、そうなると戦場への復帰にもかなり時間を要する事になる。

 そうなると侯爵軍への援護はできなくなると考えつつ、軍の方を見て驚いた。


「何があった……?」


 侯爵軍は皇帝軍に押し込まれていた。王国軍が使ったサンイーターの姿はもうないが、皇帝軍が積極的に攻撃を開始している。


「あれは……公爵の旗艦か」


 王国への反抗戦で俺も乗った船だ。公爵本人が乗り込んできたことで日和見ができなくなったという事か。

 皇帝の御座船は別にあったはずなので、皇帝は別行動なのだろう。

 公爵の旗艦は親衛隊に囲まれつつ後方に陣取り、皇帝軍を前面に押し出している布陣。侯爵軍はサンイーターに対するために円陣を少し崩していたので、そこを一気に押し込まれた感じだな。


「アイネ様、どうしましょう?」

『あそこから立て直しは無理ですね。戦域から脱出しましょう』

「アイアイサー」


 俺は周囲に閃光弾をばら撒きながら、星系の垂直方向へと一気に加速する。魔導騎士はもちろん、戦闘機も咄嗟の反応ができなければ最高速で優る宇宙船には追いつけない。

 転移ジャマーが張られているうちは転移できないが、光魔力も減っているのでしばらくは補給に徹するしかないだろう。


「見事に負けたなぁ……」


 公爵と王国に繋がりがありそうなのには気づいていたが、まさか王国内で侯爵をとりにくるとはね。それだけ侯爵の存在が帝国内で大きかったという事が、現皇帝の統治に影響を与えていたのか。

 侯爵が討ち取られるにせよ、捕縛するにせよ公爵の良いように情報が書き換えられて帝国内には広められるだろう。

 王国侵攻失敗の責任を侯爵軍の裏切りとかなんとか理由を付けて侯爵領の一部を没収。陪臣貴族に圧力を掛けて侯爵派の勢力を削ぎつつ、皇都を遷都して皇帝派の勢力を安定させていく。


 王国へも何らかの報酬を払うんだろうな。賠償金代わりに国境を譲歩する辺りか。遷都するなら今の国境線を死守する必要も減るし、もっと攻められにくい場所を選ぶだろう。

 王国領は何故か宇宙生物に悩まされ続けているので、宇宙生物の少ない領地を求めている。国境線を押し広げられるのなら、帝国と手打ちするのはやぶさかではないはずだ。

 実際、帝国による王国侵攻で失った兵はほとんどおらず、損害は一時支配されていた星系の資源くらい。新たな恨みがそれほどないのであれば、適当な所で手打ちにできるなら国民の反感が募ることもない。


「しばらく公爵への手出しは無理そうだ」

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