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アイネの戦術

 相手の戦闘機部隊は結構な練度だったと思う。ギリギリまで引き付けて放った主砲を回避され、相手の攻撃は直撃コース。ギリギリ船体を回転させながら避けることで至近弾に収めたが、防御結界の魔力をごそっと削られた。

 しかも戦闘の機体だけではなく、後続の小隊3機が駆け抜けると、右前方から次の小隊が迫ってくる。間断ない攻撃に、防御結界がガリガリと削られていく。


 3小隊、12機の攻撃を何とかしのぎきるも防御結界の残魔力から次の攻撃は耐えきれないと判断できた。

 一度距離を空けて魔力の回復に努めるかと周辺の状況を確認する。


「え……」

「撃墜3、飛行不能2、損傷軽微3、ですっ」

『思ったより残りましたね。初めての機体なので仕方ありません』


 リリアが報告してくれて、アイネからも通信が入ったが、アイネの感想は物足りないような言い草だった。しかし、一回の交錯で約半数を撃破している状況に、俺は愕然としている。

 船体をランダム機動させながら、戦闘ログを確認。宇宙船に引っ張られて飛んでいる魔導騎士が何でそんなに攻撃できているのかを知った。


 魔導騎士自体の機動力は、戦闘機と比べると亀といえる。最高速はもちろん、加速力の面からも全く別領域だ。その分、魔導騎士には火力を積めるし、防御結界も厚くでき、戦艦の防衛など相手が突っ込んでくる状況で迎撃などに向いている。

 今回もシチュエーション的には近い。戦艦に比べるとかなりの高機動だが、宇宙船の防衛という立場で魔導騎士を一定距離で引っ張っている。戦闘機に背後を取られて一方的に攻撃されるくらいは防げるか……程度の認識だった。


 しかし、アイネはあくまで敵機の撃破を考えていたらしい。魔導騎士の両手両足に装備されていたのは白兵武器の一種。フレイルとかモーニングスターと呼ばれる鉄球などのオモリを鎖でつなげた武器だ。地上であればそこまで長い鎖は使えないが、宇宙空間だと伸ばしての運用が可能だ。

 アイネはそれぞれ100mほどの長さまで鎖を伸ばし、本来なら回転させて遠心力で叩きつけるところを、鎖を通して鉄球を操作する事で直接相手に叩きつける攻撃を行っていた。


 戦闘機の装甲はかなり薄い。身軽な方が機動力が上がるからだ。とはいえ防御結界で多少の物理攻撃は軽減できるのだが、そこにアイネのマジックキャンセルが発動、防御結界を無効化して鉄球が叩きつけられた。

 一撃で致命傷となりうる攻撃に、まともに食らった戦闘機は撃墜され、翼などを失った機体はコントロールを失って飛行不能となったようだ。

 魔導騎士の手足から4本の鉄球を操作して、交錯の一瞬で撃破してのける。鉄球の機動性は戦闘機を上回り、一度避けても追随して後方から薙ぎ払う。まさに悪夢のような光景だ。


「オールレンジアタックかよ……」


 有線の物体がヒュンヒュンと動き回って敵を屠っていく姿は前世のアニメを思い起こさせる。実際、4つの球を同時に動かすとか器用だ……と、思ったけど魔法を複数撃つ時に似たような事はしてるか。誘導のオンオフでもそれなりに動かせる。 

 いきなり乗った魔導騎士でそんな事ができるのかとか思ってたが、俺が宇宙生物の情報を漁ってる間に秘密兵器を作ってたみたいだな。


「敵戦闘機、逃げてくよ」

「放って置くしかない。深追いしたら巡洋艦の対空砲火が待ってるだけだ」


 巡洋艦相手の最適距離は、対空砲火を受けないギリギリの距離だ。軍艦同士で撃ち合うための主砲の照準は、そんなに自由には動かせないはずだからな。

 4隻が補完し合う対空砲火の中に突っ込むのもなし。付かず離れずで時間稼ぎできればこちらの目標は達成だ。




「まあ、そんな楽に終わらせてくれないか」


 巡洋艦との距離を詰める様に動いたからか、巡洋艦も動きを変えて、こちらを包囲するように四方へと散っていた。


「各巡洋艦から魔導騎士が4騎ずつ発進したよ!」


 距離が近くなり主砲では捉えきれないので、包囲して魔導騎士を放ってきた。


「アイネ様、やっちゃってー」

『一度帰投する』


 リリアの声にそっけない対応のアイネ。まあ仕方ない。例の鉄球攻撃は、魔導騎士相手だと効果が薄いからな。

 戦闘機に比べて装甲が厚く、更には物理的に盾を構えていると完全に防がれる。白兵武器で繋いでるワイヤーを切断される可能性もあるな。

 戦闘機と違って、その場での旋回性能を持っている上に、全方位索敵センサーがあれば背後からの攻撃にもあっさり対応されてしまう。


 宇宙船と繋いでいるワイヤーを巻き上げて、船体とドッキング。武装を換装して槍と盾というスタイルとなる。

 宇宙での戦闘をベースに、機体は濃紺の配色となっているが、槍は白と目立っていた。


「しかし、敵の数が圧倒的に多いんだが……」

『包囲され続けるのは良くない』


 相手をかき乱して包囲網を崩しておかないと、最高速で振り切ろうにも加速前に捕まってしまう考えだろう。

 魔導騎士の包囲を強引に抜けたとしても、巡洋艦の対空砲圏内を抜けるのは厳しい。

 現状の最適解は相手魔導騎士に対して戦える姿勢を見せて、被害を出したくなければ手を出すなと威嚇して見せること。


「包囲を狭められる前に小隊1つを潰せるか……か」

『この部隊へ仕掛けます』


 レーダー上にアイネの指示が表示された。四方から迫る左手側の部隊だった。




「敵機確認、マーキングするよ」


 魔力レーダーでの検知は行えていたが、実際に視認できるようになるにはかなり近づかないと難しい。地上と違って大気はないので、遠方だから見えないという事はないのだが、それでも巡洋艦に比べてかなり小さい魔導騎士を視認するにはある程度近づく必要があった。

 天体望遠鏡で目的の星を見つけるのに時間が掛かるのと同じだ。遠方を拡大表示すると視野が狭くなるので、その範囲に敵の姿を捉えるには技術がいる。

 リリアはその点でかなり優秀になっていた。


「このエメラルドグリーンなのが隊長機だな」


 宇宙空間で戦うには背景に合わせて黒い機体にする方がよい。ただ敵味方入り乱れる中で、似た色の機体ばかりだと咄嗟の判別が難しい。

 画面に重ねるAR表示で敵味方の識別をするのだが、やはり実際の見た目での判断が一番早いので、隊長機を目立つ配色にするのが普通だ。

 また武勲を立てる意味でも戦場で目立ち、活躍する姿を見せる意図もある。


 当然、目立つ機体に乗る隊長が弱いと話にならないので、カラーリングされるに足る実力もあるはずだ。敵としてもその目立つ機体を倒せば相手の士気を下げられるので、集中的に狙うに越したことはない。

 俺は宇宙船をその隊長機へと向けた。



 宇宙空間で魔導騎士を使った戦闘というのは、地上とはかなり変わる。防御結界が厚く、射撃武器があまり有効ではないので、白兵武器で戦うというのは変わらない。

 ただ地上では足を止めて剣技で有効打を狙うのに対して、宇宙空間では機動力と合わせて一撃離脱を繰り返すような戦い方が主流となる。

 馬上騎馬戦で長い槍を手に騎馬を走らせながら相手を突く戦いに近い。


 得物も地上では重さを活かした両手剣などが主流に対して、取り回しやすさやリーチを活かせる槍が主流となっている。

 切る事も想定した薙刀やグレイブ、槍に斧を付けたようなハルバードなどが良く使われており、敵の隊長機はハルバードを手にしていた。


 対してアイネの槍はショートスピア、それも投げて使う事を主としたジャベリンだ。広い宇宙空間は左右だけではなく、上下にも避けられるので、投擲を当てるのが難しい。

 しかし、アイネにはフレイルを使った時の様にワイヤー越しに軌道を修正する力がある。リーチを活かして戦えるだろう。

 とはいえ投げた槍をハルバードで弾かれたら回収に時間が掛かり、その間は無防備を晒す事になるはずだがどうやって戦うのだろうか。

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