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イナゴ群を抜けて

 宇宙生物のイナゴは、ヒトデというか球体の胴体から五本程度の触手が伸びていて、それにある吸盤や絡みつくことで体を固定してかじりつく。そして対象内の魔力を探り当てて捕食という流れだ。

 かじりつく際に腐食液を出して相手を溶かしながら捕食するので、宇宙船といえども長時間貼り付けたままだと船体に穴を開けられてしまうらしい。

 その暴食性から長い時間コンテナで確保する事も難しく、長距離輸送には向かないらしい。これが帝国への侵攻に使われなかった理由だな。

 しかも、王国のライブラリーを参照された今、対処法も把握されていて今後も侵攻には使えないだろう。


「何種類か混ざってるよ!」

「なるほどっ」


 虫除け術式でイナゴを避ける方法は、複数の種類を混ぜて運用する事で無効化される。イナゴが嫌がる魔力波というのは、種類によって変わるからだ。

 一部が嫌がったとしても、他のイナゴは気にせず寄ってくる。ただ別種のイナゴは、互いが敵同士でもあるらしい。同じ空間に複数種のイナゴがいると、互いを食い合い数を減らす事にもなる。

 時間をかければ自滅を誘えるだろう。


「まあ、そんな時間は与えてくれないよな」


 イナゴの群れから逃れようとすると、巡洋艦の主砲に狙われる。逃げる方向が限られると、そこを狙い撃ちにすれば良いからな。

 イナゴに取り付かれても装甲を破られるまでには時間がある。船体を振り回して引き剥がせば耐えられるが、そっちに気を取られすぎるとまた主砲が飛んできた。


「俺達一隻に豪勢な事だなっ」


 巡洋艦4隻にイナゴまで投入とは歌姫の奴、本気で俺を仕留めようとしている。この状況を脱するには、宙域からの離脱か。巡洋艦から離れようとする位置にばら撒かれたので距離を詰めれば、宇宙生物からは逃げられる。ただそうなると戦闘機が待っていることだろう。巡洋艦の対空砲火もある。

 イナゴを突っ切って外へと逃げると、巡洋艦は侯爵軍への砲撃を再開するのだろうか。

 いや、俺の撃破を優先しようとするなら付いてくるか。奴らもイナゴの群れへと誘ってやろう。


 俺はイナゴの群れを突っ切って、その外側へと抜けようとした。しかし、相手の方が更に上手を行っていた。

 その先にも更にイナゴを放っていたのだ。それらも別種で、今の虫除けが効かないタイプだ。

 船体をロールさせながら取り付こうとするイナゴの触手を振り払いながら、巡洋艦の主砲も避けてていく。光速の術式は見て避けるなんてことはできないから、狙われないように動き続けるが正確な表現か。


「くそっ、安全圏からバンバン撃ちやがって」

「反転して巡洋艦に向かいなさい」

「いや、でも、それじゃ戦闘機に……」

「私が魔導騎士で出ます」


 アイネは俺にとって戦闘術の師匠にあたる。その記憶はなくても、技術は覚えているらしく一対一では敵わない。そして俺と同じ転生者用の肉体を持つ今のアイネは魔力量も豊富。髪を使った魔法陣の構築など、制御面も優秀なので魔導騎士を扱わせたら俺よりも強いかもしれない。


「でも魔導騎士では戦闘機の機動力に追いつけませんよ?」

「魔導騎士の機体をこの船に連結する」


 船体からワイヤーを伸ばして魔導騎士をくくりつけ、引っ張って移動させろという事らしい。こっちもランダム機動で飛び回ると、引っ張れる魔導騎士も大変な事になりそうだが。


「問題ない」


 との事なので試してみるしかなかった。元々主従が逆転してるしな。




 俺は巡洋艦に近づく軌道へと進路を変える間に、アイネは魔導騎士へと移乗。テッドがワイヤーでの連結を行った。

 ワイヤーの長さは500mほどで、巻き上げ機で長さを調整できる。魔導騎士自身の機動力も使えるとはいえ、かなりの無茶だと思う。

 しかし、船長であるアイネの命令は絶対。やってもらうしかなかった。


「イナゴ圏を抜けるよ」


 巡洋艦隊に近づくことで、イナゴの脅威から逃れた船だが、そこには当然のように戦闘機が展開されていた。

 イナゴ散布に何機か出払っているが、4機編成の小隊が3部隊展開している。




----------------王国軍パイロット視点-------------

「目標確認、アルファ隊が正面から、ベータ隊が左翼、シータ隊が右翼から包囲せよ」

「了解」

「ターゲット、魔導騎士をパージ」

「質量を下げて機動力を上げる気か」

「いや、魔導騎士も起動している。ワイヤーで吊ってるみたいだな」

「なるほど、背後を取られない様にか」


 小型宇宙船と戦闘機では最高速では宇宙船に分がある場合もあるが、加速力では戦闘機に遥かに劣る。

 ドッグファイトとなれば、自分達が一方的に背後を取り続けられるだろう。それを防ぐために背後に魔導騎士を置くというのは、即席の手としては悪くない。

 魔導騎士は戦闘機に比べて防御結界が厚い。まともに正対したらやられる。


「一撃離脱でいくぞ、フォーメーションメテオだ」


 部隊に指示しながら音響の魔道具を起動する。ヘルメット内にセディナの呪歌が流れ始める。


見つめ合って恋をして

五里霧中を追いかけて

だけどもっと知りたくて キラキラしてる


 呪歌により集中力が上がり、身体強化の効果もあってGにも耐えられるようになる。

 相手の船は30mそこそこの小型星間宇宙船。武装は船体下部の主砲と、船体上部の対空砲座か。主砲の直撃でも戦闘機の防御結界を一撃で抜かれることはなさそうだ。


「恐れず、近距離で一撃を撃ち込め!」


願うほど謎が増え

思えほど熱になる

だからもっと飛び込むの 未完の世界


 呪歌に支えられた精神が恐怖心を薄れさせる。それは決して蛮勇などではなく、相手の力を見極めた上での度胸を増してくれるのだ。


ギリギリ愛 引けないボーダライン 難易度Gでも

すべて壊してみせる


 相手の操船もなかなかに見事。ランダム機動と自身の操船を組み合わせ、巡洋艦の砲撃を避けていた。そして今はこちらの攻撃をギリギリまで引き付けて発射の瞬間に回避する気のようだ。


ヒリヒリ舞い さらなるGへと 意識が溶ける

想いは制御不能 いっちゃうかもね


「ここだっ」


 相手の主砲もこちらを捉えて術式に魔力が収束する。機体を捻りながら脇を駆け抜けつつ高威力の光撃弾を撃ち込む。

 相手も船首の向きを変えてスライドするように軌道をずらして直撃を回避した。しかし防御結界を掠めれば魔力を奪える。後続も含めて至近弾を浴びせていけば、防御結界を飽和して船体へのダメージに繋がるだろう。


「!?」


 呪歌で強化された感覚が何かを感じて機体を大きく回避させる。しかし、直後に激しい振動が機体を襲った。

 制御を失った機体が旋回をはじめ、重力制御術式でも抑えきれない。

 回転する視界の中、淡く光を放つ何かが横切り、自分に追随していた僚機へと突き刺さる。防御結界が一瞬光を放ち、そのまま砕かれてしまった。視界から消えた僚機をレーダーで追うと、深刻なダメージが入っているとアラートが鳴っている。


「一体、何がっ」


 回転を続ける戦闘機の中、姿勢制御を試すがかなりダメージがあるらしくバランスが狂っていてオートでは立て直せない。


「こちらアルファ、自力での飛行困難。救助求む」

『何がっぐわあっ』

『見えない何かが、これはっ』

『こちらベータ、リーダーがやられた! 何かがリーダー機を叩いたみたいだ!』


 何が起こっている。敵の宇宙船へと連続的に突撃して、一撃離脱を行った。交差するタイミングで何かにカウンター攻撃を食らったようだ。

 一瞬見えた淡く光る何か、防御結界が反応していたがすぐに壊されてしまった。ダメージチェックを行うと、自分の機体も防御結界が壊されている事に気付いた。過負荷で魔力切れを起こしたのではなく、防御結界の回路自体が壊されている。


「何らかの手段で防御結界を壊している、相手に近づくなっ」


 そう声を発した時にはシータ隊もカウンターを受けて3機が撃墜された後であった。

デルタ小隊は不在

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