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王国内からの撤退

 宇宙生物はその名の通り、宇宙空間で活動する生物だ。この世界でも宇宙は真空であり、そこで生きる生物というのは、地上の生物とは全く異なっていた。

 体内に気体を含んでいると、気圧差で破裂するので呼吸という概念はない。全ては魔力の循環によって体を作り、活動するエネルギーを得ている。

 一番確実なのは恒星から放たれる光魔力を取り込んで生きる事。植物が光合成するように、光魔力で体を維持する栄養を蓄えた。

 それらは単独でも生きていける植物の様な生物だ。


 そして植物があれば、それらを捕食して生きる草食動物が生まれる。これは宇宙クラゲの様に、魔力を蓄えている物を探してさまよい、捉えて養分まりょくを集めて生きている。

 そうした動かない獲物を捕食して成長した生物を狩る肉食生物もまた存在した。よりアクティブに動き、他の生物が蓄えた魔力を奪い、強力な存在へと成長する。

 宇宙クジラは肉食に分類されるだろう。

 肉食同士で食い合うクラスがドラゴンだ。こうなると飛び道具まで使って獲物を狩る様になってくる。

 そんなドラゴンを捕食しそうな存在もあの惑星にはいたしな。前世の地球の生態系、それこそ銃を持った人間以上に他を圧倒する生物まで存在するのがこの世界の宇宙生物だ。


「光学迷彩を行ってくるカメレオンみたいなのとか、魔力を撃ち出し獲物を弱らせる鉄砲魚みたいなのとか、戦艦でも対処に困りそうな宇宙生物もいるみたいだな」


 宇宙クジラはデカかったが、相手を呑み込もうとしたり、体当たりを仕掛けてくる程度だったから、まだマシな方だったのだろう。

 強力な肉食生物となると逆に体はそこまで大きくならずに、機動力を活かして襲いかかる様になるモノが増えていく。

 宇宙を移動するのに魔力を使って噴射推進する感じだな。魔導騎士などのスラスターとかもこの辺の宇宙生物を参考に開発されたのかもしれない。


 王国のライブラリーに登録されている宇宙生物を確認しているうちに、3日が過ぎて侯爵の乗る旗艦がターミナル星系へと戻ってきた。




 予定ポイントへと出現した旗艦へ、周辺で待機していた補給船が寄っていき、魔力を供給しはじめる。自力で恒星から魔力を集めるよりは早いが、それでも丸一日はかかるそうだ。

 その間に上層部では今後の計画を詰めるのだろう。

 俺達は魔石運搬船の護衛を外れて、侯爵の旗艦と共に行動する事となっている。運搬船も外部から補給を受けないと転移魔力を貯めるのに時間がかかるので、補給を受ける旗艦に比べるとどうしたって足が遅くなる。


 本来なら帝国内に戻るまで護衛を続けるのが筋だが、帝国軍が引き上げる中、鈍足の輸送船を守りながら逃げるのは現実的じゃないしな。

 輸送船の乗組員は、軍艦などに移乗させて輸送船は外宇宙で停泊させておく。取りに来れるかは分からないが、戦争状態が終われば何とかなるかもしれないし。


 利用していたステーションなどはそのまま放置、特に罠を仕掛けたりもしない。

 王国が再支配するだろうが、相手に利用させないように焦土作戦をとると今後の交渉にも影響が出てくる。

 帝国としてはここで引いて痛み分け、停戦に持ち込みたいが、被害を大きくして恨みを買うと徹底抗戦を叫ぶ人が増える。

 戦争が長引くのはどちらにとっても負担が大きい。決着を付けられないならどこかで手打ちするしかないだろう。


 まずは帝国軍が王国内から出て、王国の再侵攻を阻止して、互いの国境線を侵さない形で停戦が望ましい。

 王国側の作戦で、ほとんど交戦は行われず、仕掛けてきたのは宇宙生物。王国側の人的被害はほとんどないので、大きな恨みつらみは募っていない。

 後は相互不可侵など、適当な手打ちに持ち込めば、痛み分けで終われる……かもしれない。


 帝国は今回の親征失敗で、皇帝の権威が低下する。戦争に参加した第2、第3皇子の評価もどうなるか不明。継承権4位以下が台頭するかもしれず、国内をまとめる方に注力せざるをえないだろう。

 王国は現有戦力では帝国に敵わないと認識すれば、これ以上の侵攻は停止しなければならない。

 元々が国力で敵わない相手に挑んでいるので、呪歌や宇宙生物で倒しきれなかったら次の手法を見つけないと侵攻は成功しない。


 両国とも内政に重きを置くことになるだろう。

 まあ、俺にとっては目的が達せられたら今後がどうなっても構わないのだが、皇帝の力が落ちて公爵も共倒れになってくれれば、復讐がしやすくなる。

 侯爵軍を減らさずに連れ帰る。それがまず第一歩となるはずだ。




 1つ星系を挟んで次のターミナル星系へと進み、状況を確認。次のターミナルが転移ジャマーを受けており、通信が途絶しているので避けるために迂回路へ。3つの星系を渡って1つ先のターミナルへと到着。国境までターミナル星系をあと1つという所で、こちらの到着を待っていたかの様に転移ジャマーが発動された。


 転移ジャマーは、転移先を狂わせるシステムなので、妨害を解除せずに転移を行うとどこへ飛ぶかも分からない状態に陥る。

 なので無事に脱出しようと思ったら、ジャマーを起動している存在を倒さないといけない。

 ジャマーを発信するのは魔力を撒き散らしている状態なので発信源の特定は容易だ。


「ここで始めるのか、キース」

『悪いね、こっちも仕事なんだ』


 侯爵軍の旗艦が到着するやいなや転移ジャマーが発動されて、星系が孤立させられる。ジャマーの影響下だと外部への通信も散らされてしまう。

 入ってくる方には影響がないので、次々と転移してくる魔力が感じられた。


「これは……皇帝軍か」


 その艦影に照会をかけるとすぐに相手が判明する。本来なら3方向にそれなりの距離を隔てて侵攻していた帝国軍。かち合うことはなかったはずだが、次々と転移してくる艦隊は間違って転移してきたとか、王国に追われて逃げてきたという雰囲気は全く無く、整然とこれから攻撃を仕掛ける布陣を敷いていた。


『いやぁ侯爵閣下が敵前逃亡したのが悪いって事らしいですよ』


 皇帝軍の言い分としては、勝手に撤退を始めたと批難する、敵前逃亡は銃殺刑という大義名分を掲げるつもりらしい。

 まあ本音はこの侵攻戦のうちにどこかで侯爵軍の勢いを削いでおくつもりだったのだろう。

 そのタイミングを測る内通者として、キースを始めとした傭兵を侯爵軍に同行させていたと。


 転移ジャマーはキースの船だけではなく、幾つかのポイントから発せられており、影響をなくす為にはそれなりの時間を要するだろう。

 もちろん、それらの船は転移してくる皇帝軍の艦隊圏内へと入っている。


 速度重視で万全の態勢ではない侯爵軍は、補給を受けるために停泊しており、身動きが取れない。それを3方から包囲するように転移してきていた。

 旗艦の補給は全く行われておらず、ジャマーがなくてもすぐには転移できない。

 襲撃してきた皇帝軍を退けないと撤退も厳しいだろう。


 幸いなのは旗艦の所在は侯爵軍の中で共有されているので、旗艦のいる星系がジャマーされている事はすぐに伝わる。転移してくる事は可能なので、後続や先のターミナル星系を確保している艦隊なども集まってくるだろうという事。

 時間を稼ぐことができれば、援軍がやってくる状況だ。


「だから相手も速攻を仕掛けてくるだろうな」


 転移が完了し布陣を終えたらタイミングを合わせて猛攻開始といったところだ。こちらは足の遅い旗艦の周囲に集まり、円陣を組むのが精々。


「はてさて王国内で帝国軍同士で戦うとか、何を考えているのかねぇ」

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