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呪歌の発信源と王国の狙い

 侯爵軍が宇宙クジラと戦闘を繰り広げる中、俺達はこそこそと呪歌を発信している巡洋艦へと近づいていく。

 巡洋艦はレーダー感度も高く、機動力、火力のバランスが取れた艦だ。魔導騎士や戦闘機も搭載されており、汎用的な働きができる。

 その分、艦隊運用となると器用貧乏にもなるわけだが、単艦行動には申し分ない。


 呪歌の発信源を追って、光学最大望遠でその姿を捉える事に成功。相手がずっと止まっていて、魔力を極力抑える方に注意して光学迷彩は行ってなかったのが幸いした。

 連中は侯爵軍の観測に集中しているのだろう。別方向から近づく船に気づくとするなら、魔力感知に引っかかった時のはず。

 隠密航行で加速をやめて、慣性で近づいていくだけならそれなりに接近できるだろう。


「さて、更なる動きがあるかだが……」


 現在の所、侯爵軍と宇宙クジラは膠着状態にある。クジラは侯爵軍に追いつけず、侯爵軍の攻撃はクジラの装甲を抜けずにいた。

 侯爵軍は巨大白兵武器を作って突貫するつもりで、その準備は着々と進んでいる。


 王国サイドとしてみれば、時間稼ぎはできたものの侯爵軍に打撃を与えられないままだ。宇宙生物を操れるという情報を与えた結果としてみると、マイナスの戦果と言えるだろう。


「普通に考えれば、足止めしている間に王国軍を集結して叩くとかだが」

「呪歌の効果を考えると、王国軍にもクジラが向かうでしょう」


 アイネの指摘通り、呪歌はクジラの神経を苛立たせて戦闘に駆り立てているだけで、襲いかかる勢力を選べるほど制御している訳では無い。

 侯爵軍に近づけばクジラとの巴戦に突入し、被害が膨らむ可能性が高い。


「転移の気配も全然ないよ」

「まあ、魔力を検知できるのは転移してきてからだからな」


 リリアの報告に応じる。転移は大型の術式なので、かなり大量の魔力を撒き散らす。とはいえ魔力の伝搬速度は光速と同程度なので、星系規模だと検知までに何時間も掛かってしまう。

 現時点で検知していなくても、転移してきている可能性もあった。とはいえ、王国軍の到来はないだろうと予測している。


「次の攻めも宇宙生物を使うだろ」


 呪歌である程度でもコントロールできるなら、宇宙生物が多いというのが王国のアドバンテージになる。

 兵力を使わずに敵にダメージを与えられるのだから、チートもいいところだ。ただ転移させてまで連れていけないなら、攻め手としては使えないのだろう。


「ああ、だから帝国にちょっかいを掛けて自国内に引き入れたのか」


 最初から帝国本星の占領にも不足する兵力で攻めたのも、早々に引き上げて自国へと誘い込み、宇宙生物を使ってダメージを与える戦略と考えると理屈は通りそうだ。


「となると……撤退戦こそ地獄になりそうだな」


 王国の狙いは帝国の戦力を削ぐ事。自国内に引き込んでから叩く戦法を取ったとすると、こうやって侯爵軍を襲い始めた段階で、準備は整ったと見るべきだ。

 そして元々は王国の戦力が乏しいから仕掛けるならどこか一軍に集中すると考えていたが、宇宙生物でそれを補えるとすると、三軍同時に攻撃するのも可能。

 その地の宇宙生物しか使えないなら、それぞれの地方で叩くしかないだろうしな。


「侯爵軍をここで足止めしたのは、王都を守るための時間稼ぎではなく、攻めのため……帝国への退路を封鎖する時間稼ぎ……か?」


 王国内に引き入れた帝国軍に壊滅させるほどのダメージを与えられたら、帝国内の戦力は限られる。再反転で攻勢を掛けられたら、防ぐ戦力が足りずに大幅な後退を余儀なくされるだろう。


「えらく大きな図を描いている。歌姫の経験か、王国の参謀が優秀なのか……」


 何にせよ、侯爵軍はかなりの窮地に追い込まれているようだ。




『ええ、その可能性は考えていました。ただ宇宙クジラをどうにかしないと動けない状況は変わりませんから。呪歌の情報はありがとうございます、そちらも加味して今後の戦略を立てさせていただきます』


 侯爵軍へと俺の考察を伝えると、そんな返答があった。クジラ以外の宇宙生物にも気を付けながら、とにかくクジラを撃破して転移できる魔力を補充する。それが侯爵軍の考えらしい。


『すでに隣のターミナル星系には、第二報として退路の確保を伝えてありますので、護衛の方は本来の任務に戻ってくださって結構です』

「潜伏している王国の巡洋艦は?」

『こちらから艦隊を派遣して制圧します』

「了解」


 侯爵軍の参謀はかなり頭の回る人間らしく、俺がもたらした情報で軌道修正しつつ打開策を即時に打っていっているらしい。

 人の思惑が絡む範囲は即座に対応できるが、宇宙生物の様な物量で掛かられると純粋に時間を浪費させられる。

 宇宙クジラを何とかしなければ、旗艦が動けない状況は変わらない。


「いっそ旗艦を囮に侯爵様を逃がせば良いのでは?」

『御座船を乗り捨てるというのは、最終手段です。軍全体の士気に関わり、一時しのぎにはなってもその後の統率に大きな影響を残します』


 個人で行動するなら己のプライド1つで我慢もできるが、多くの人間を動かすには信頼やら安心やら、求心力がモノを言うらしい。

 侯爵軍の旗艦を乗り捨てるというのは、結果として敗北。逃げ帰ったとなればレッテルに傷がつき、従う人を減らす結果となる様だ。




 状況を整理すると、侯爵本軍はこの星系で足止め。時間を稼いでいる間に後方の補給線が狙われている危険がある。

 王国の狙いは宇宙生物で兵力を補填できる王国内で極力帝国の戦力を削りたい。

 他の2軍も同様の仕掛けで殲滅を図られている可能性は高い。


「となると侯爵軍の勝利条件は……?」


 王国が帝国を追い詰める条件は、どれだけ王国内で戦力を削れるかに掛かってくる。十分に戦力を削げなければ、再侵攻は叶わないだろう。

 なので侯爵軍を極力無傷で帝国内に戻せれば、ひとまず王国に対しては抑えが効く。


 帝国内については、皇帝軍、侯爵軍、第3皇子勢力の中で被害を抑えつつ帝国内に戻れた勢力が有利になる……と言う感じか。


 逆に手勢だけで王国の首都を攻めるのはどうだ。ここまで王国内へ侵攻できたのは、王国がカウンターを狙って国内に引き入れたから。ここから首都を目指すとなれば、相応の防衛隊と戦わなければならないだろう。

 単に王国軍だけというなら、歌姫の存在はあるものの奇策に頼らなければならない程度には戦力差があると思う。

 しかし、王国には宇宙生物がいる。クジラよりも戦闘力の高い生物が首都の守護にあてられている可能性は高い。


「王国を制圧できれば文句なく第一戦功で帝国内の影響力も上がるが、3分の1の兵力で未知の戦力を撃破するというのはリスクが高いな」


 やはり退路を確保して、帝国へと下がるのが一番だろう。王国がここで侯爵軍を潰す算段があるかが問題だけど、クジラでは打撃は与えられない。より強力な宇宙生物を引っ張って来れるなら可能性はあるが、そんな戦力があれば最初からぶつけているはず。

 となれば王国の狙いが王国内で孤立させての兵糧攻めであろうというのは順当なところ。


「退路の確保を優先で問題なさそうだな」

「既存のルートを避けるべきです」


 アイネが宙図を表示しながら幾つかの星系を指差す。流通の要所を抑えるべく、ターミナルとなる星系を優先的に攻めて支配下に置きながら侵攻した帝国軍。ただターミナルとなる星系は複数の方向から攻められる危険もはらんでいる。

 逃亡するなら隘路。

 細くて自由の少ない一本道は待ち伏せされる危険もあるが、その一本に当たる可能性はそれなりに低くなる。王国軍の兵力が乏しいのであれば、網を広げる事は難しいはず。

 足の遅い輸送艦でも逃げられるルートを確保できれば、旗艦も逃げられるだろう。


 帝国が押さえていなかった辺境星系を通っての帰還ルートを確立。それが次の目標だな。

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