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宇宙クジラと侯爵軍

 侯爵軍のいる星系へ輸送船に先立って転移する。同行のキースとタイミングを合わせての転移は、一応侯爵軍から少し離れた位置へと跳んだ。

 宇宙クジラという名の芋虫と交戦中の場合、巻き込まれる危険があるからな。

 約3時間ほどの距離へと転移すると、魔術光が走る戦場を遠景に捉えられる位置だった。


 侯爵軍は半円状に布陣して、迫りくる芋虫の群れに集中砲火を浴びせる形。対する芋虫は紡錘形で十数匹が固まって突進してくるようだ。


「真ん中のやつ、デカくないか?」

「推定500mほどです」


 戦艦並の巨大をくねらせて迫ってくる芋虫。正直、相対したくない相手だな。複眼の下の口の中がチラチラ見えるのが気持ち悪い。駆逐艦程度なら丸呑みされそうだ。

 若葉色の鮮やかさが宇宙に浮いて見えている。


 侯爵軍からの砲火を浴びても減速する事なく突進を続けている。最高速度が遅いのか侯爵軍は後退しながら応射しているが、相対距離は保てていた。

 芋虫の表面装甲はさほど堅くは無いようで戦艦の主砲により剥げているが、逆にそうやって剥げる事で威力を減衰しているようだ。そして装甲の再生速度はかなり早い。

 集中砲火では剥ぎきれずに再生されて有効打を与えられずにいるようだ。


 そして芋虫クジラの狙いは戦艦の魔力炉に搭載されている魔石。外して捨てる訳にもいかず、逃げ続けているので転移するのに必要な光魔力をチャージするための帆を張れない。

 最も大きい侯爵の旗艦が目標となっているので、囮を立てようにも難しい。小型の魔力炉を集めても、大きな魔力炉の発する濃度は出せないので、戦艦を集めて気を惹くような事もできない。

 魔石の輸送船を囮にできればあるいはといったところか。それでも出力という意味で旗艦は越えないだろうし厳しいだろう。更には輸送船だと芋虫にすぐ追いつかれる。


 結果として、芋虫を討伐するまではできなくても、追い返せないかと画策するしかない状況と。

 侯爵軍の一角では、対芋虫用の白兵装備を建造中。表面装甲を貫通して、本体へとダメージを与えなければならない。長さ500m、直径50mの芋虫にダメージを通そうとすれば刃渡りで10mは欲しい、できれば20m、長いに越したことはない。


 そんな長大な剣を5mほどの魔導騎士で振り回すことはできないので駆逐艦の衝角ラムとして使用するようだ。

 速度を出せる駆逐艦とはいえ、機動力では生物に敵わない。芋虫の足の様に生えたヒレは飾りではないらしく、波打つように動かすと滑るように真横へとスライドしてみせる。

 更には尾ビレを振り回して周囲のモノを弾き飛ばす。というか周囲の芋虫を弾き飛ばして加速させ、艦隊へと突っ込ませようとしてやがる。

 まあ宇宙空間は広いので、直線的に動く物体は避けやすい。機動力に劣る戦艦クラスでも当たるものではなかった。


「思った以上の機動力に、近接では体をくねらせてのヒレ攻撃と……大剣を作っても当てられるか疑問だな」


 アンカーを撃ち込んで10隻ほどの戦艦で引っ張れば多少は押さえ込めるかもしれないが、装甲に撃ち込んでも剥がれるだけだろう。


「ま、俺が考えても仕方ないな。それよりも気になるのは、この宇宙生物の強襲が偶然なのかどうか」

「ユーゴ兄、これじゃないかな?」


 俺は宇宙クジラによる侯爵軍襲撃は偶然の産物ではなく、仕組まれたモノだと考えていた。ターミナル星系から次のターミナル星系へと移動中に、遭遇率が低いはずの宇宙クジラに出会うのはあまりにもタイミングが良すぎるからな。

 王国てきこく内とはいえ支配している星系に、魔石に向かって襲いかかってくる宇宙生物がいるなら一報が入るはず。ターミナル星系が起点なので進む経路を変えられる。わざわざ面倒な生物のいる星系を通る必要はない。


 となると侯爵軍の本隊が来るまで潜んでいたと考えられる。宇宙クジラは待ち伏せするより、自分で動いて狩りをするタイプらしいので、元々その星系にいたなら、先遣隊が来た時点で襲いかかっていたはず。

 しかし、襲撃時の様子から星系内に潜んでいたのは明白。となれば宇宙クジラを制御する方法があると踏んだ。


 王国には歌姫がいる。

 前世の記憶でもクジラは音でコミュニケーションをとっているとか聞いたことがあった。ならば歌で何らかの制御を行う可能性を考えていた。

 その辺をリリアに探ってもらっていたのだ。


「微弱な魔力を感知したよ。解析を始めてるけど、明確な術式ではなさそう」

「呪歌ならそれ自体が術を発動するわけじゃなく、相手に作用して術式となすはずだ」

「ふむ、これは簡単な精神制御マインドコントロールです。ちょっと苛つかせる程度の」


 リリアの感知した魔力をアイネが見て判別した。歌姫から聞いて知った俺と違って、研究所で解析した結果を刷り込まれているアイネはより詳しく知っている。


「人への呪歌がそのまま宇宙生物に効いているのか?」

「魔力による干渉なら通じるでしょう」


 言語を聞かせてる訳じゃないから通じるって事か。


「魔力の発信源は?」

「この辺り」


 ディスプレイ上にAR表示が追加された。その反応は極小さい。戦闘機などではなく、魔力を伝達するだけのブイみたいなものらしい。


「アレを止めても獲物を見つけた宇宙生物が大人しくなるとは思わないが、止めておいて損はないよな」


 俺は針路を表示された目標へと向けた。




 接近してみるとやはり簡素な機械。アンテナの集合体みたいなモノだった。防衛機構などはないみたいだったので、魔導騎士で近づいて回収する。

 大きさは1mほどしかない。30cmの球体から四方八方に針のようなアンテナポールが伸びていた。

 これは中継地点というだけで、直接呪歌を発している訳ではない。受けた魔力を増幅して広範囲に発信する装置だな。

 恒星からの光魔力を使用しているので、長時間の稼働が可能だった。


「呪歌の送信元は分からないか」

「魔力はこちらから来ているので、あちらからです」


 アイネが送信元を割り出してくれる。それをリリアがディスプレイへと追加してくれた。


「これは魔力量が多そうだな。巡洋艦クラスか」


 帝国が攻められた時も呪歌の発信を行う巡洋艦が戦場に配されていた。記録した呪歌を流す装置を積んでいるのだろう。


「しかし、巡洋艦となると俺達だけじゃ止められないな……情報を集めて侯爵軍に伝える方向でいこう」


 ひとまず具体的な場所と相手の確認の為に接近を試みる。元々が帝国のスパイ船なので隠密航行が可能だ。しかし、同伴者がいるのを忘れていた。


『次はどこへ行く気だ?』

「潜伏している船を見つけた。多分、王国の軍艦だ。場所を特定して、侯爵軍に伝えるために接近するから、キースは侯爵軍に合流しといてくれ」

『いやいや、ここまできたら付き合うぜ』

「相手は軍艦だぞ。生半可なステルスだと見つかる」

『おいおい、国境を渡る傭兵舐めんなよ』


 そう言って隠密装置を発動させた。確かにある程度の隠密航行はできそうだ。軍用レーダーをごまかせるかと言うと疑問は残るが、近づき過ぎなければ大丈夫か。


「そっちが発見されても見捨てていくからな」

『おう、その時は見捨ててくれて構わん』


 宇宙クジラを見たいと言ってたのに、どうしてこっちについてくるのか。付き合いがいいのか、何か別の目的があるのか……元々が自ら売り込んできた手合。油断はしないようにしておこう。

 推進光を極力抑えた隠密航行で目標座標へと向かった。

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