宇宙生物との戦闘
宇宙クラゲと名付けられている宇宙生物は、魔石に反応して寄ってくるらしい。半透明の体を持ち、ヒラヒラと漂いながら近づいてくるが、前世で見たクラゲとは形が違う。
正方形のハンカチの中央部分が少し膨らんでいるかなといった見た目だ。触手の様なものはなく、体で包み込むように獲物を捕まえて魔力を吸い上げるらしい。
動きはかなりゆっくりなので、戦闘機よりは魔導騎士で対応する方がやりやすい。
俺は久々に乗る魔導騎士に大剣を握らせて斬っていく。ハンカチの中央部分に重要な器官が集まっているので、そこを貫くなり、切り裂くなりすればあっさりと討伐できる。
大きさがピンキリで、一辺50cmほどから10mを越えるものまで存在した。もしかしたらそれ以下のサイズもいるかもしれないが、的にするには小さすぎるし装甲を貫いて魔力の吸い上げができなくなるので無視した。
ハンカチの攻撃方法は包み込むだけではないというか、半分エネルギー体であるらしく不安定な状況に陥ると魔力を放出する。
単体ではそこまで問題はないが、群れが不安定になると連鎖爆発を起こして周囲を巻き込む。
「ほいっと」
なので一定数倒したら重力爆弾を投擲して、周囲の破片を集めて起爆、エネルギーを発散させて処理する。
このエネルギーを有効利用できれば魔石を遠くから運搬する手間が省けるんだろうが、今のところは技術が追いついていない。
「前世でも石油を作る藻とかの研究されてたが、どうなったのかねぇ」
最終的にはコスト次第となるのが市場経済の常だな。
「こんなもんか?」
『警備隊から状況終了の通達がありました』
「そんじゃ帰りますか」
30分ほどで寄ってくる宇宙生物はかなり減り、後は艦の対空砲で対応可能な範囲となったようだ。
魔石に集まる習性がある宇宙クラゲは、魔力感知で魔石を捉えると寄ってくる訳だが、その一定範囲内のモノを処理すれば、転移する魔力を貯める間くらいは休める。
輸送の度にこれだけ駆除していても絶滅する事はないらしい。海で言うプランクトンに近い存在なのかもしれないな。となるとコレを捕食する宇宙生物もいるのだろう。例えばドラゴンなんかだと丸呑みにしながら進んでいても不思議ではない。
「宇宙の生態系か……面白そうだが、海とは規模が違うから、俺達も餌となりそうな予感」
ミリ単位のプランクトンが数m単位のクラゲになるとすると、それを捕食する種は数百mとかキロ単位になってくるのか?
艦隊を壊滅させたドラゴンが300m級くらいだとすると、もっと上がいるのか。あのガス惑星に巣食ってたアレがキロ単位の生物なのか。体が大きくなると自ら移動するのが難しくなってくるので、触手を伸ばして捕食するスタイルになっていくと考えると、辻褄が合いそうだな。
より捕食を完全なものにするために近づく者に何らかの精神攻撃を行って、麻痺とか仮死状態にするとか。
体が大きければそれ自体が重力で獲物を引き寄せられるかもしれないか。なら触手もなく引き込むだけの存在もあり。ブラックホールも一種の生物だったり……?
「科学が進歩したら、人の小ささが良く分かるようになる感じかな」
宇宙のスケールにはついていけそうにないので目の前の事に集中しますかね。
星系を転移する度に宇宙クラゲを駆除しつつ、侯爵の軍を目指していく。キースはかなり優秀らしく、第一発見者となる事が多かった。
リリアが対抗意識を持ったようで、宇宙の映像からクラゲを見つける練習を繰り返している。キースが長年培ってきた技術だろうから一朝一夕で身につくものではないだろうが、努力する事に意味はある。
クラゲだけでなく、他のモノを見つける技術にも繋がるだろう。ざっと宇宙を見渡して、動くものがあれば、それは極近い存在。光学迷彩を使って近づこうとする船も、星の光の歪みを捉えて発見できるようになるかもしれない。
その成長に期待しよう。
対するテッドは操縦の方を勉強しているが、こちらは自分の位置を把握するのに苦戦中。自身が固定されている砲座で訓練していたのが少し仇となっているのか、相手が動いているのか自分が動いているのか、その相対速度を把握するのが難しいらしい。
その辺は計器を読んで把握する必要があるのだが、砲手として相手を見て判断するクセがついて視覚情報に頼りがちになってしまったようだ。
砲手としては有能で、その方向で職を探しても十分だろうが、やはり自分で自由に操縦する方に憧れるらしい。
学校に通わせてやれない以上、やりたいようにやらせる程度はしないとな。
「次の転移で侯爵軍に合流できそうだな」
帝国が支配した地域を跳んでいるので、さしたる脅威もなく侯爵軍の隣接星系へと到達。国境星系で侯爵がいるとされたターミナル星系だ。
3つ先にある次のターミナル星系を先遣艦隊が制圧したので、そちらに向けて移動を開始していた。
できれば移動を開始する前に合流したかったが仕方ない。艦隊規模での移動は時間がかかるので、次で問題なく追いつけるはずだ。
しかし事態は待ってくれなかったらしい。
転移用の魔力回復を行っていた所に、星系間通信が届けられた。侯爵軍の艦隊が宇宙生物の襲撃を受けたとの一報が入る。
それはもちろん宇宙クラゲではなく、艦隊に損害を与えるレベルの生物ということだろう。まさかドラゴンが……と思った所に続報で、宇宙クジラだと判明する。
クジラかと思ってデータベースを参照すると、クジラとは似ていない姿が映し出された。どちらかと言えば、芋虫にヒレが生えた様な生き物だ。筒状の胴体を持ち、足の代わりに多数のヒレが生えていて、終端部には大きな尾ビレがある。
頭部分は虫の複眼を思わせるドーム状の感覚器が2つに2本の大アゴを生やした口。大きさは数十mから数百mで強い生命力を持っているらしい。
基本的に宇宙クラゲを捕食しながら宇宙を飛んでいるらしいが、その進路上ある多少の岩石を大アゴで割り砕きながら進むらしい。宇宙船も捕まればひとたまりもない。
「それが群れで現れたって……」
転移の補充待ちをしている艦隊に少なくとも十頭を越えるクジラが襲いかかってきたらしい。現在も迎撃中となっているが、長距離砲ではなかなか有効打が与えられず、かつてドラゴンを退治した時の教訓から巨大白兵装備を持つ魔導騎士を準備しているとの事。
そんな備えはなかったので、大剣を大急ぎで繋ぎ合わせて即席の兵器を作ってるらしい。
転移して逃げられれば良いのだが、侯爵の乗る旗艦は大きく転移に必要な魔力量も多い。魔石を使用して急速補充も行っているが、まだしばらく動けそうにない。
迎撃に戦力を出せるようなら援軍を送ってほしいとターミナル星系へと要請があった。
「キースさん、宇宙クジラの迎撃ってどうなんです?」
『俺は参加した事はないが、1頭を討伐するにもかなりの戦力を集めるな。宇宙船が10隻に魔導騎士が20とか』
「倒せるんですね」
単体としてみてもかなりの難敵ではあるだろうが、多少の群れたとしても艦隊なら問題なさそうだ。それが隣の星系まで援軍を求める事態に陥っていると。
何らかのプラスアルファな要因がありそうだな。
こちらは魔石輸送船の魔力補充に時間が掛かるので足止め状態だが、この船単体ならもう跳べる。元々2、3回の跳躍が可能な船だしな。
「先行して情報を集めるか」
今の任務は輸送船の護衛だが、優先順位としては侯爵の安全。警備隊に先行していいか問い合わせたら、特に反対もなく許可された。
キースも同行してくれるらしい。
『クジラを生で見る機会も早々ないからな』
「未知の生物、楽しみです」
脳天気なキースの無線に、アイネが頷きながら同意した。




