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王国内の警備事情

 国境星系は商人達にとって、ハイリスクハイリターンな場所と言える。国が違えば需要も違い、襲ってくる問題も社会ルールも変わってくる。

 ただ共通するとすれば、自分の身は自分で守らなければならないという点だろう。

 そのため、国境を跨ぐ通商を行う商人は、護衛を重要視する。そして需要があれば、護衛を生業とする傭兵もまた集まってくるのだ。


 共和圏で貰った私掠船免状には、傭兵として活動できるような身分証もついている。私掠船に襲わせといて、傭兵として追い払うとかマッチポンプもいいところだな。

 そういえば帝国に入り込んでいる私掠船達も開戦を機に動き出しているんだろうか。ま、あれはもっと帝国領の内部なので今は忘れておこう。


 ステーションのガイドに従いながら傭兵組合のビルへと向かった。




「いらっしゃいませ」

「王国内の情勢を知りたい」


 傭兵組合の受付に王国の様子を問い合わせる。


「このラインまでは帝国軍により支配されていて、その先は探査中。目立った交戦領域はございません」


 受付がマップを表示しながら教えてくれる。


「魔石運搬に同行して初めて王国入りするんだけど、気をつける事はある?」

「そうですね、王国は帝国とはかなり違っているので、気をつける点はそれなりに……」


 そう言いながら受付は丁寧に説明してくれた。ここまで丁寧な対応をしてくれるって事は、それだけ傭兵が重宝されてるって事なんだろう。

 傭兵はガラが悪いイメージだったが、登録制なので客を襲うとか横柄な態度のならず者には務まらないらしい。退役軍人などが組織する傭兵団がそれなりにあり、規律正しい運用がなされているようだ。


 そして帝国と王国の差についてだが、海賊国家と言われる王国内では、海賊がほとんどいないらしい。

 海賊は海賊を知るというのか、国内にいる海賊の多くは根こそぎ討伐されるか、王国軍へと採用されるとの事。元々海賊というのは、食いっぱぐれた者が犯罪に手を染めた集団なので、ちゃんと採用して食わしてくれるなら従うという者も多いのだ。

 しかし、勝手気ままに生きたいから海賊をやってる様な連中は、容赦なく討伐される。王国軍に採用された後で、犯罪を犯そうとする者が出ればそれもまたすぐさま討伐対象だ。


 軍内規律を守る憲兵隊の嗅覚が鋭いらしく、内紛は事前に鎮火され続けており、そのために反乱を目論む者を抑制できているとか。

 帝国で同じ様な事をしようとしても、反乱を未然に防ぐことができずに被害を出しそうだ。


 では王国内へ行くのに傭兵はいらないかというとそうでもない。王国内には宇宙生物がよく出るそうだ。

 ドラゴンの様に魔石を狙って襲ってくるらしい。

 流石にドラゴンほど戦闘力は高くないそうだが、クラゲの様に半透明でフヨフヨと漂いながら近づいてくる。魔力感知レーダーにも映りにくく、目視での発見が必要とのことだ。

 画像解析で見つけられれば良いのだが、リリア頼みになるかもしれない。

 宇宙に漂う宇宙クラゲの映像を貰って組合を後にする。




「よう、新入り。初めて王国に行くんだって?」


 組合を出た所で傭兵らしき男に声を掛けられた。革のジャケットにカーゴパンツ、腰には大振りのブラスターが下げられている。

 ツンツンとはねた金髪で、歳の頃は30代半ばといった辺りか。


「王国内は勝手が違う。案内ガイドを雇った方がいいんじゃないか?」

「それに立候補すると」

「たまたま手が空いているからな」


 そう言いながら傭兵組合のパスを提示してくる。情報端末で読み取ると、仕事の履歴が確認できる仕組みで、開戦後に王国内への輸送を何度かこなしているという記録があった。

 ちなみに俺のパスには国内で魔石輸送船の護衛を務めていた履歴が幾つか偽装されて載っている。ウィザードが離れる前にサービスで付けてくれていたものだ。

 つまりパスの情報自体はそこまで絶対的なものでもない。


 とはいえ不慣れな王国内、宇宙生物という未知の脅威があるというのも事実。経験者の同行はありがたくはある。

 問題は信用を置けるかという話だ。

 前世の記憶を思い出してみても、自ら売り込みに来る輩というのは怪しい。単に仕事欲しさにアピールしているだけならまだしも、どこか……公爵の手の者だったり、海賊などと通じている可能性は危惧せざるを得ない。


 履歴によれば仕事は民間船の護衛で、方面も偏りなく三軍全てに向かっている。強いて言うなら、最後の仕事が皇帝軍への納品護衛で期間が長めだったという事。

 これは開戦から日が過ぎて前線が進んでいる事や、皇帝軍が最も規模も大きく商団も大きめだったのでそこまで不自然でもない。

 疑心暗鬼になって不要な苦労を背負う事もないか……。


「そうだな……雇用主に確認が必要だから話が通せたらお願いするよ、先輩」

「色よい返事を期待してるぜ、後輩」


 前向きに検討しますという返答を行って俺達は別れた。




「キース・グラッド、傭兵歴は10年以上で、大きなトラブルはなしと……」

「表向きの情報ではという条件ではそうですね」

「傭兵組合に所属してるベテランだろ? そこまで心配しなくてもいいんじゃないかな」


 アイネ達に合流して、王国内の情勢や案内を持ちかけてきた傭兵キースの話をする。リリアは悩みを見せていて、テッドは気楽そうな雰囲気。

 アイネはキースの船を確認していた。カタログスペックだと10年ほど前の民間警備船で、3年前にキースは入手。帝国内仕様から幾つか変更点はあるようで、武装回りのシルエットが変わっている。


「問題ないでしょう」

「では雇用主に話を通します」


 雇用主というのは、侯爵への補給を担っている子爵家だ。ロガーティ子爵が採掘した魔石を王国内にいる侯爵軍へと届ける任務。

 もちろん、俺以外にも護衛はいて、そちらは王国内での経験もあるので、あえて新たにキースを雇う必要はない。

 ただ子爵子飼いの警備隊とフリーの傭兵とでは視点や知識、経験に差がある。侯爵軍は前回の補給時よりも先に進んでいる事もあり、新たな知識を入れるメリットはあった。


 警備責任を担っている子爵家、フリース家は軍務系の家系で帝国軍に勤める人間も多いが、警備会社も運営している。今回はそちらの警備会社経由の仕事となっていた。

 新たな傭兵の雇用は、思っていたよりスムーズに済む。どうやらキースの評定が基準を満たしていたらしい。直接雇用の経験はなくても、助っ人や中途採用を見越して市場の傭兵についても調査するのは、警備会社として当然とのこと。


 ちなみにロガーティ子爵は、こうした軍務系の家に対して安定的に魔石を提供してきているので、信頼が高いようだった。

 採掘所の1つにドラゴンをけしかけたのはかなりまずかったと思うが後の祭りである。それでも供給に滞りを出していない子爵の仕事に感謝だな。


 国境ステーションには3日ほど滞在し、輸送船団の出航に合わせて俺達も出発する。新たに雇い入れたキースも自前の船で同道する。俺達の船よりは小さく、戦闘機に星系間航行能力を追加した様な規模で、長距離護衛を受ける時は母船から補給を受けつつ、船内で休憩させてもらうスタイルらしい。


 王国内を護衛する上で期待されるのは目だ。

 魔力感知レーダーでは拾いにくい宇宙生物の発見能力が問われる。


「早速おいでなさったな」


 キースは自らの価値を発揮して、警備隊より先んじて宇宙生物の接近を報告してきた。輸送船は星系間転移後の魔力補給タイミング。

 その周囲に展開して、向かってくる宇宙クラゲを駆除するのが俺達の仕事だ。


「テッドは補給船に接近してくるのを討ち漏らすなよ」

『分かってるって』

「リリアは撃破優先の割り振りを頼む」

『はいっ』

「それじゃ、俺はリハビリも兼ねてひと暴れさせてもらうよ」


 ロガーティ子爵から貸与された魔導騎士を駆り戦場へと踏み出した。

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