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中層への侵入

 いきなり飛び越えて出たとこ勝負なんて事をするつもりはないので、壁の向こうを先に確認する事にした。

 方法は簡単。魔力感知に引っかからない防壁の手前で飛行術式を使って、空から中を覗き込むという方法だ。


「壁際が見えないな……」


 壁から離れて上から覗き込んでいるので、死角となる角度は多い。ただ中の様子は確認できた。

 防壁から車道4本分くらいは建物がなさそうだ。車通り自体は見当たらない。


 防壁に近い建物は監視小屋ではなく、一般住宅の様に見える。監視小屋は死角になってる壁際にある可能性はある。ただ監視カメラが設置されている所を見れば、人の目で確認している範囲はあまりなさそうに思える。


「というか、住宅にも人の気配がないような?」


 マンションの様な建物の窓には洗濯物はおろか、カーテンのかかっている部屋も見当たらない。

 ガラス戸の奥は薄暗いが見える範囲に家具もなかった。

 ひとまず何戸かベランダから中の様子を伺ってみたが、人の気配を感じる部屋はない。


「中層の人口が少ないのか、壁際の住居は人気がないのか」


 壁際は都市の中心部から離れているので、住居として人気がないのは伺える。ただそうした建物は安いはずなので、そこに価値を見出す人はいそうだが、無人なのは気になる。


 そもそも中層の社会はどんなシステムなのだろうか。上層に管理されていそうなので、社会主義的だったり、ディストピア的な監視体制だったりするかもしれない。

 限られた土地の中で生活を維持するなら、人口統制などは必要そうだ。


「どちらにせよ人の気配がないのはありがたいな」


 道路など着地しやすい平な地面もあるので、人の目を気にしなくて済むなら、防壁を飛び越えるのはそこまで難しくはなさそうだ。

 俺は情報屋に中層に行ってくると一報をいれると、防壁を飛び越えた。




 高さ5mの防壁も身体強化した俺にとってはハードルの様なもの。跳躍の後で魔力を散らし、センサーに引っかからない様にして滞空。さっと死角になっていた防壁間際の様子を見て、人影はない事を確認。そのまま舗装された道路へと落下する。

 着地寸前で再度、身体強化を発動させ、五点接地の要領で地面に転がりながら勢いを殺し、素早く建物の影へと滑り込む。

 しばらく動きを止めて周囲を探ってみるが、人の気配は感じなかった。


「やってみるとあっさりだな」


 まずは死角で確認できていなかった壁際の様子を観察。思っていたような監視小屋はなく、ただただ壁が続いているだけだ。ダムのように取っ掛かりのない壁面は、継ぎ目の塔部分以外では登れない様になっている。

 周辺には建物もないので、身体強化なしで飛び越えるのは難しいだろう。

 こういった壁にありがちな落書きなんかも見当たらない。


「本当に人気(ひとけ)がないな」


 特に立ち入り禁止といった看板もないのだが、警備員を含めて人影はなかった。


「もっと中心部へ向かうか」




 道路沿いに都市の中心部へと向かう。

 本当の中心部、半径500mほどは上層部の管理エリアとなっているらしく、飛び越えた防壁よりもかなり高い、100mクラスと壁がそびえていた。

 その奥には軌道エレベーターだろうか、天に向かって一本の線が続いていて先は見えない。


 周囲の町並みは、上層の壁よりも低い建物で構成されており、碁盤の目の様に区画整理もしっかりとなされていて統一感があった。

 建物の形もあまりバリエーションはなく、だいたいは5階建てくらいの四角いビルが並んでいて、目立つ看板などもない。


「清潔で整頓された町並みだが、ディストピア感が半端ないな」


 街を歩く人どころか、まっすぐに伸びた道路にすら車の影がない。路上駐車も走ってる車も見えないというのは、異常だろう。といって荒廃した様子もないので、人は生活しているはずだ。


 今は住宅街の区画だとは思うが商店のような建物はない。スーパーや飲食店すらないとなると、どうやって生活している?


 そんな事を考えながら中心部へと向かっていく。半径5kmの都市は歩くには広い。しかし、整備された道路には車が走っておらず、タクシーを捕まえる事もできない。


「お、地下鉄か?」


 建物の一つに地下へと降りる階段を見つけた。十分な明かりに照らされた階段を降りると、乗り物が待っていた。

 車というよりはケーブルカーなどに近い、4人座りの椅子が対面に設置された操縦席もない箱だ。扉は開いており、乗り込めば動き出しそうではある。


 ここでの問題は支払い能力が無いことだな。共和国製の情報端末では決済できるかも不明だが、共和国製であると認識されること自体が危険だ。

 いっそ警備兵でもいれば、捕まえてそいつの端末を奪うとかできるんだが。


 箱での移動は逃げ場がないな……でも、人の姿がない外を歩くのも危険かもしれない。この乗り場にもカメラとかあったら、立ち止まってるのも怪しいか。

 とりあえず乗って、中を確認してみよう。


 4人がけの椅子が向かい合っていて、その先に画面がついている。行き先を指定できるみたいだな。タッチセンサーらしいので、情報を一通り確認するが、料金が書かれていない。都市部の交通機関だから、固定料金なのか端末なんかで管理、支払いが行われるのか、その辺もわからない。

 確認できたのは、都市全体の駅の場所と所要時間くらいだ。


「個人認証などのシステムもないよな。誰が乗ったかとかどうやって管理してるんだ?」


 乗り場までの階段で顔認証とかだったら、既に手遅れ。通報されてて警備員がやって来ている最中とかの可能性もあるか。


「もう、悩むのも面倒だし、行けるところまで行くか」


 少なくとも人と出会えるなら警備員でもいいやとタッチパネルで上層部に近い街の中心部を選ぶ。

 すると電子音と共に扉が閉まり、静かに滑り出す。

 ケーブルというよりリニアなのか。何にせよ地面を走ってるガタゴトという感じはしない。窓がないから外の様子もわからず、速度がどれくらい出てるかもわからないな。


 とりあえず着替えるか。下町で着ている農作業用のツナギでは、清潔な中層の町並みでは浮くだろう。

 学生服の様なブレザーにスラックスが無難かな。

 一通り着替えを済ませると、減速方向にGを感じて、そろそろ止まりそうだとわかる。


 さて支払い無しで降りられるのか、警備員が待っていないか、心配はあるがなるようにしかならないな。




 僅かな振動と共に箱が止まり扉が開く。中から見える範囲に人はいない。ゆっくりと外へと出ると、乗った場所とは違って電子ポスターが貼ってあり、服のセールの広告が表示されていた。


「少し生活感が出てきたな」


 箱を降りても特に警告音もなく、自動改札のようなゲートもなく、階段を上っていくと地上へと出ることができた。


「無料の交通機関って事なのか」


 ひとまず決済が不要のようなので、感謝しつつ周りを見渡す。そこはオフィス街なのだろうか、住宅区と比べると、少し建物の高さが高く、スーツ姿の人々が行き交っていた。

 丁度昼食時だからだろうか、かなり賑わっているように感じられる。


「ひとまず目立たないように行動だな」


 中層の暮らしがどういうものなのかも分からない状況なので、人々の動きからいろいろと情報を集めたい。

 スーツ姿の人間が多いからか、全体的にグレーな雰囲気を醸し出していた。もちろん、OLらしき人もいるにはいるが、前世の日本よりも数が少ないように感じられた。

 店舗としてはカフェっぽいものが多いか。

 屋台やキッチンカーみたいな出店はない。


 どんな食事があるか興味はあったが、一文無しの状況では確認できない。早々に資金を入手したい所だが、どうするべきか……。

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