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開拓村の進捗と今後

 俺達がいなかった半月ほどの間にも、開拓村の建築は進んでいた。各開拓村間の連絡網を再構築したのもあって、成功した結果の共有などがスムーズになり、食料事情なども改善の傾向が見られる。

 砂を固めて建材にする魔道具は小型の物ばかりで、そのままだといつまで経っても作業が進まないと判断して、1つの開拓村に集めて運用する形にしていた。


 もちろん、奪われた側には不満も出るだろうが、全体で等しく苦労するよりは、一カ所でも早く作業を進める事でノウハウを確立。順次魔道具を回していく方が効率が良いだろうと皆で話し合って決めた。

 おかげで最初の村では1つ目の住居が完成している。そのまま数件、今の開拓民が住める数を確保できたら次へと回す予定だ。


 開拓村へ渡ってくる民は、後が無いと実感しているので、みな必死に作業を進めている。それぞれにアイデアを出し合い、時に対立しながらも着実に前へと。コミュニケーションを密にすることで絆も生まれ、連帯感も増していく。


「まだ富の概念が存在しない状況だからうまく回るはず」


 生き延びられるだけで幸せと感じられるうちは、足を引っ張り合うよりも助け合って生活をより良くする事を考えられる。

 他人を蹴落としてと考えられるのは、自分の安全があればこそなのだ。まあ、自己保全が十分でないままに手を出して破滅する人間も多々いるが、それは生きるための最低限が不足したからではなく、より強い相手に挑んだ結果。今の開拓村の生存条件とはかけ離れた状態だ。


「一通りの建築が終わって、食料も自給できるようになるまでは、助け合い優先でいけるだろう」


 そしてその頃には伯爵が統治を始められるので、より大きな力で守る事ができるようになるはず。

 ロガーティ子爵もより協力してくれるはずだ。


「ということで、開拓惑星でやれる事は終了かな」

「新たなモノを探して、無限の宇宙へ!」

「僕達の戦いはこれからだ……?」


 俺の言葉に勢いよく追随したデッドと、映像作品から本質を理解しないままに流用したリリアが続く。


「打ち切りエンドではないとして、当初の目的である公爵へ対抗手段を育てるという意味で開拓村に手を貸すのは終わりでいいかなと」

「次はどうするのですか?」


 落ち着いた雰囲気で先を促すアイネに頷きながら続ける。


「そろそろ王国領に行ってみようかと」

「ふむ」


 新たな土地へ向かうという発言に、アイネは満足そうに同意した。


「公爵に対抗できる勢力として、ハイドフェルド侯爵を使いたいのですが……」


 開戦してから帝国軍は王国領へと侵攻している。王国が奇襲で帝都を攻めたのとは逆に、帝国は国境星系から順番に領土を広げる形で侵略していた。

 これは帝国の方が国力があり、兵站にも余力を持てるので着実に進められるからだ。


 しかし、一方で帝国国内も新皇帝が即位したものの安定には程遠い。皇帝自身も今回の逆侵攻で成果を出さねばならないが、第2、第3皇子を擁立していた貴族にとっては皇帝を上回る成果を出して、現皇帝を弾劾する方向に持っていきたい。

 大きく分けて3つの軍が、それぞれに王国へと侵略を進めているのが現状だ。


 ハイドフェルド侯爵は元第2皇子派。今回の戦争でも第2皇子を支える形で参戦している。多くの星系を支配下に置いている侯爵は、私兵も多く抱えており、帝国軍を統括している皇帝と大差ない軍勢を率いていた。

 第3皇子についた派閥は、小貴族の連合体という感じで、一発逆転を狙ってはいるものの本質は功績を立てることで現皇帝に取り入ろうという者も見受けられる状況だ。


「ヴェルグリード公爵にとって目障りなのは、ハイドフェルド侯爵。この戦争を侯爵の勢力を削るために使おうとしてくるはずです」


 侯爵側としても便利使いされて激戦区へと配される覚悟はあるはず。厳しい状況を打破できれば、それだけ戦功を重ねる事ができ、一歩先に行かれている国内情勢をひっくり返せると考えているだろう。

 公爵の思惑を侯爵が上回れるかが鍵となる。


「そこで我々が侯爵が有利に立ち回れるように手助けすれば、公爵を追い落とす事が可能になるという算段です」


 もちろん、宇宙船一隻が加わった所で戦局を変える事なんてできない。軍艦ですらない私掠船、戦闘機よりはマシレベルだ。

 それよりも戦場に影響を与えるのは情報。

 王国側の戦力を把握し、弱点となる場所を見繕う。更には亡国の歌姫が戦場に与える影響を把握できるかがかなり大きな要素となりうる。


「呪歌に関する情報は、俺やアイネ様の方が多いですからね」


 研究所で共に過ごしていた俺と、研究所の情報を刷り込まれているアイネ。

 呪歌の恐ろしさや有用性を知っている。攻撃に使われた相手を昏倒させる呪歌は対策も容易で、知ってさえいれば防げる。

 それよりも厄介なのは味方にかけるバフ、戦歌バトルソングの方だ。歌で高揚した戦士は死を恐れず、集中力が増す。歌姫本人の魔力を使うのではなく、聞いた当人が自らに付与する形なので、歌さえ届ければ1人だろうが一軍だろうが関係なく強化されてしまう。


 特に戦場で戦力に影響するのは士気であり、恐怖心だ。味方を奮い立たせ、恐怖心を払拭できるというのは、軍を一回りも二回りも強くする事になった。


「他にも治癒効果を高めたり、ぐっすり眠らせるのも軍として運用するなら効果的です」


 砲弾飛び交う戦地では疲れをとるというのもままならない。気持ちが昂ぶって眠れない、いつ襲われるかという恐怖があっても眠れない。

 呪歌はそれらにも等しく眠りを与えられる。

 術師が一人一人に掛けなくても良いというのは、軍で運用する上でメリットが大きいのだ。


 公爵が内通しているかは不明だが、侯爵軍を激戦区へと向かわせるなら、どうしたって歌姫の存在が出てくるだろう。

 呪歌への対処を知らせるだけでもそれなりに恩を売れるだろうし、呪歌を妨害しなければ侯爵の戦力が削られて公爵の対抗勢力として効かなくなる。

 侯爵の損耗を抑えて、戦功を上げさせる事が公爵を追い詰めるために必要だった。


「とはいえ、あの姫様も向上心旺盛だったから、俺達も知らない呪歌を生み出してそうだけど……」


 転生者として喚び出された者達の経歴は様々だったが、1つ共通点を探すとするならば、「現状に満足しない者」だったのではなかろうかと今は思っている。

 負けず嫌いで、諦めるよりも打開策を探す。

 そんな者が死という絶対的な敗北にも諦めず、次の機会を得る事ができたのではないかと。


 亡国の歌姫はその名の通り、王女の立場にあったが敗北して追い立てられたが、そこで諦めずにずっとゲリラ活動を続けた末に死んだと語っていた。

 前世で叶わなかった国の再興をこの世界で成し遂げようと画策しているだろうと思う。実に厄介な相手である。


「一番の問題は、皇帝がどこをゴールとして定めているか……だな」


 王国を滅亡させるとなると、王都を落とせたとしてもゲリラ化した歌姫に悩まされる事になるだろうし、今の手法で王都を目指すなら年単位で時間を掛ける事になる。

 正直、新皇帝として即位して、内政をほったらかして何年も戦争なんてしてたら、いくら戦功を上げても国内からは不満が出るだろう。


「かと言って中途半端に辞めると、ずっと王国に狙われる事にもなるし……」


 国境線をある程度押し込めたので、帝国側が適当な所で手打ちにすると宣言したところで、王国側としては失った領地を取り戻すと息巻き、自分達が勝てると踏んだ時点で仕掛けてくる事になるだろう。

 何より歌姫が黙って受け入れる事はない。


「戦争は始めるより終わらせる方が難しい」


 ま、そんなのは皇帝が決めればいい事で、俺は自分の目的を果たせればそれでいい。

 まずは王国に乗り込んで侯爵を助けて、恩を売るとしますかね。

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― 新着の感想 ―
第一皇子および公爵への復讐はしつつ王国ではなく帝国を勝たせようとするあたり、なんやかんやで愛着はあるんですね
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