補給艦攻略
小隊ずつ、4機で挟み込むような針路を取る相手に対して、俺は向かって右側の小隊へと突っ込む。
急激に詰まる中、目標を1機に絞って寄せていく。相手は体当たりをされるかと思っている事だろう。
そして周囲はそれを見取って包囲、十字砲火を浴びせられる位置に動く。互いの射線に味方が入らないようにしつつ、命中率を上げるように角度をつける。
弾幕の中へと突っ込む羽目になるが、そこは防御結界を信じるしかない。アイネは中和の為に追加で防御結界を張ることはできないしな。
僅かな針路修正で、命中弾を減らしながら、ターゲットへと接近していく。
「捕まえました」
アイネの言葉。まだ100mには遠く及ばないはずだが、中和へと入ったらしい。あくまで目安として100mだったのだろう。
「これ以上、離れないように近づきなさい」
「了解」
最初の課題より緩くなったノルマに、実現性が上がった様に感じられ、不可能が可能になる。目標になった敵機は逃げようと針路を曲げるが、元々正面から近づいていたので、離れるより詰まる距離の方が近い。
「デッド」
『いきますっ』
船体上部のドーム状に備えられた砲座から放たれた術式が、多少の誘導性で曲がりつつも戦闘機へと直撃。本来なら防御結界を削るに留まる程度の攻撃だが、機体へとダメージを与えた。
防御結界で攻撃を止める戦いを基本とする戦闘機は、直撃を受ければひとたまりもない。そのまま宇宙の深淵へと流されていった。
しかし、1機落としただけで戦局が変わるはずもなく、逆に態勢を整えた後続による十字砲火に晒される。機体を捻りながら回避行動を行うが、何発も被弾してしまった。
防御結界の耐久力が削られる。
更には別小隊も接近してきた。
敵弾を誘導する囮を射出しつつ、機体を限界まで加速させる。下手に旋回させても戦闘機の機動には敵わず追随されるだけなので、接敵時間を最小にする事で被弾を減らそうとした。
「次はコレです」
「お兄、3番」
『わかった』
かなりの速度ですれ違うはずだが、アイネと兄妹はもう1機仕留めるつもりのようだ。3番はアレか、そっちに少し寄せようかね。
加速しながら小隊へと突っ込む形となる。
相手も2機ずつに散開して十字砲火の軌道をとっていた。その片方へと寄せるように針路を変えて、突っ込む。
船体の軋むギリギリまで軌道修正しつつ、モニターでは点にしか見えない目標へと寄せていき、それが少し大きくなったかと思った次の瞬間には、間近にまで迫っている。
「テッド」
『うぉっ、速っ』
相対速度にビビりながらもしっかりと射撃は行った様だ。宇宙船からの火線が戦闘機のいる辺りへとばら撒かれる。的確に仕留めるというよりは、当たればラッキーという感じでばら撒いたな。
多少の誘導で当たるかは運次第。その結果を確認する前に俺達の乗った船は戦闘機とすれ違う。
流石に体当たりしてまで止める気はなかったな。まあ、宇宙船と戦闘機じゃサイズが違うからダメージは戦闘機の方が大きく、掠っただけでも撃墜される可能性もあるからな。
「ダメージチェック」
「左舷後方に被弾、でも装甲に傷がついた程度だよ、ユーゴ兄」
ほんの僅かの交差で防御結界を削りきって本体にまで当てられたらしい。それは船体の揺れで感じていたが、表面のコーティングに助けられたみたいだ。
共和圏の技術に感謝だな。
正面からすれ違った戦闘機とは凄い速度で離れていく。俺はそのまま補給艦へと向かっていた。
戦闘機達は反転して加速を開始しなければならず、最高速で追ってきたとしても宇宙船には敵わない。そもそもの用途が違うからだ。
交戦を続けるならまだしも、俺達の目的は補給艦にあるはずで、相手にしなくていいなら無視するに限る。
帝国の補給艦は甲虫を思わせるずんぐりとした船だった。首というか羽の付け根辺りに対空砲座が並んでいて、羽の下辺りが格納庫となっている様だ。羽を開くとカタパルトとなるのだろう。
対艦の主砲などはないので、正面火力は考えられていない。元々補給艦にしろ、空母にしろ、単艦での運用を考えるような艦種ではない。護衛艦がいない事が特殊な状況なのだ。
「正面から主砲で攻撃するとして、テッドも重火力弾を撃ち込む方向で」
『了解』
宇宙船の船体下部に備えられた主砲は、進行方向にしか撃てないが、長い銃身を持った高威力術式を放つことができる。
こればかりは船体の向きで調整しなければならないので、テッドに任せる事ができない。
相手は船体の大きい艦で機動力も乏しい補給艦、誘導式も込められているので当てるのは難しくない。
ただ防御結界は厚いので、結界内に入ってから放つ必要があった。タイミングだけが問題だが、そのくらいは何とかする。
攻撃するのは相手を撃沈するためじゃなく、追い返すためなので、致命打を狙う必要もない。繰り返し攻撃したら落とせるよと見せることができれば成功だ。
「それじゃ、突っ込むぞ」
補給艦に襟巻き状に配置されている対空砲座がこちらに向き始めているのだろう、ロックオンを知らせる警告がコックピットに鳴り響く。
「ジャミングしましょう」
アイネが警告音に眉をしかめて、誘導を外す術式を展開し始める。宇宙空間で誘導もなく当てるのは至難の業。防御結界にかすることも稀となる。
余裕ができたので多少、減速しながら狙いをつけて、補給艦とすれ違いざまに主砲を発射。正面左下辺りに着弾を確認しつつ、通り過ぎていく。
テッドも連射速度は遅いものの威力重視の火力弾を何発か撃ち込んでいた。
それとは別に通信用アンカーを撃ち込んである。ウィザードが船内情報を解析するための通信回線を無理矢理構築するための物だ。
船内回線へと接続すれば、多少のセキュリティは容易く突破して、必要な情報を集めてくれるだろう。
再加速しながら大きく弧を描いて針路を補給艦へと向ける。その頃には戦闘機も戻っていて、補給艦の周囲を固めていた。
こうなると命中精度を上げるために減速する事ができないので有効打は望めなくなる。
「無用なリスクは避けて、頼んだぞ、ウィザード」
『はいはい、これだけお膳立てしてくれたら後はちょちょいと……ほい、突破』
帝国のセキュリティは共和圏よりも一世代遅れているとの事で、ウィザードはあっさりと解除を進め、内部の情報を漁る。
補給艦の所属は、色々と転属されて最終的にはとある伯爵家の所有となっているが、大元の所有者は、ヴェルグリード公爵となっていた。
王国の侵攻に対する反攻戦で当時の皇太子を擁立して指揮をとり、帝国再興の下支えになっている公爵家だ。
そしてその際に目障りと判断して俺を拘束、洗脳やら記憶読み取りを行おうとしてきた当面の復讐相手。
ついでに言えば、うちで保護している皇族の末娘シャルロッテを幼妻として婚姻しようとして、逃げられた奴でもある。
現在の補給艦保有者である伯爵家も公爵の子飼いの1人みたいだな。
『さすがに直接の命令書は補給艦には記録がないな……まあ、伯爵家のデータバンクを漁れば何か出てくるだろうけど、ちょっと時間はかかる』
魔力の伝搬も電波と同じくらいの速度で、光速に留まる。他星系の情報を集めようとすると、転移陣ごしになって、膨大な魔力が必要となる。
それよりも当該星系に飛んで、直接触る方が楽で、発見もされにくい。
「じゃあ、そっちは任せる。俺達は子爵の船に戻るかね」
「あの船はいいの?」
リリアが尋ねてくるが、セキュリティを掌握した船なんて、まともにやり合う必要もない。
「魔力炉の1つを暴走させてやれば、逃げるしかないだろうさ」
俺はウィザードが開けた穴を使って、本来ならあり得ない出力を魔力炉に要求。臨界を突破すれば、船内から爆発する事になるが、さすがにその前には魔力炉を強制停止させたようだ。
とはいえ、内部がハッキングされた状態。まともな思考があれば、逃げの一手しかなくなる。
「じゃ、子爵との交渉再開だな」




