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子爵のもとへ

 子爵は決まった惑星には拠点を置かず、商用船で各星系を巡る生活を続けている。その所在地を調べる事自体はウィザードであれば簡単らしい。

 その子爵は結構離れた場所の資源惑星へ向かっているところだった。開戦したことで、燃料となる魔石を増産せよとの侯爵からの命令で、採掘場所を増やす指示を出しに行くとの事だ。


 ドラゴンをけしかけた星系については、ドラゴンの姿を観測衛星が捉えており、星系全体の安全が確保されるまで、有人の宇宙船は派遣しない方針となっているようだ。

 転移門を開いて無人機を送り込み、星系の様子を調査して、回収しながら確認を行う計画。

 対応は堅実で、安全性に配慮したものと言えるだろう。

 ドラゴンが不在となれば、再開発も可能となるかもしれない。例のアレがどうなってるか分からないが、長く共生できてたなら大丈夫なのかも……。


 とにかく、今は子爵の所へと向かう必要がある。同道するのは、アイネとテッド、リリア、シャルロッテに加えて最初の拠点の現場監督だ。

 本当ならばテッドやリリアには、開拓の進捗管理をして欲しいと願ったのだが、宇宙船で星系を離れるとなると、置いていかれるかもという恐怖が抑えられないらしい。

 まあ、まだ子供だし仕方ないと諦める。そうなると、シャルロッテだけ置いていく事もできないので連れて行く事になる。


 宇宙船は6人乗りなので、元乗組員代表として連れていけるのは1人だけ。相談して決めてもらったら、一番俺達との付き合いが長いからと現場監督が選ばれた。そんなに親しくはしてなかったんだがな。




 ウィザードによる予定の書き換えで、第3惑星の軌道上へと呼び出された宇宙船へと移乗し、第4惑星のステーションに寄って、乗員を下船させてから子爵のいる星系を目指す。

 いくつかの星系を経由して進むので、一週間ほどの時間が掛かった。

 元は開拓船の乗員であった現場監督も、宇宙での旅は慣れたもの。過酷な航海が多い開拓船よりも快適だろう。


 開拓船は恒星を目標に転移門を使って移動する訳だが、隣の星系に飛ぶにしても数光年の距離を飛ぶことになる。

 僅かな角度のズレであっても、光が数年掛けて進む距離だ。何もない空間に飛んでしまう可能性の方が高い。

 また星系自体も高速で移動し続けている。太陽系も銀河の中を秒速230kmというよく分からない次元の速度で移動していた。

 もちろん目指す星系も、隣の星系もそれぞれに移動しているので、数秒のズレであっても何百kmのズレとなり得るのだ。

 隣の星系で情報を集め、恒星を観察してズレをいかに減らすかが鍵となる。


 しかし、光というのは直進するものでもない。空中から水に入れば屈折するように、密度の違いで軌道がズレる。僅かな屈折でも光が年単位で進む距離で考えると、届く頃には大きな距離のズレとなりえた。

 他にも鉱物で反射することもあれば、他の光と干渉しあう事もある。

 隣の星系にたどり着くまでの数年の時間は決して短くはなく、単純に移動した場所を予測して飛んても合致する方が稀であった。


 なので隣の星系で場所を変え、時間をかけて観測して誤差を無くす様に計算を繰り返して、跳躍するポイントを決める。

 そうやって飛んでみても恒星に当たらず、また隣の星系に戻って魔力を補給して、跳躍という工程を繰り返して、何とかたどり着けるというのが未知の星系への開拓作業だ。


 何とか恒星の近傍に転移でき、詳細な座標情報と、恒星ごとの光魔力の波長を記録する事で、安定した転移門の座標を取得できる様になる。

 より確実な転移を実現するために、誘導灯となる施設が作れれば、新たな開拓星系として認められるのだ。


 数年どころか数十年かけて1つの星系を開拓できれば幸運の持ち主。帝国から伯爵位を授けられるのも、それが偉業であるからだった。


 転移門を開いて無人機を送り込み、情報収集させる手段も試行されている。しかし、消費魔力の多い転移門を開けていられる時間はそれほど長くできないし、一度閉じてしまうと指標もない空間へと再び転移門を開くことが難しい。

 結果、無人機が回収できないという問題がある。

 そのため現時点では有人飛行で確認を繰り返す必要があった。


 そうした根気のいる作業を繰り返してきた開拓戦の乗組員というのば我慢強い者が多く、逆にそこを利用されて苦境に放置されても耐え忍んで過ごしてしまったようだ。




 一週間の旅程で元乗組員から開拓船の様子を色々と聞けた。転移する魔力を恒星座標の割り出しに使いたいので、隣の星系に居座り続ける事になる。

 そのために開拓船の内部で食料プラントを作って、自給自足の生活を送っていた。しかし、潤沢な資金があるわけでもないので、かなり偏った食生活を強いられていたようだ。


 星系内に簡易なステーションを持ち込み、そこを基地ベースとして、恒星からの光魔力を利用して、葉野菜などを主に生産。肉類は調理用魔道具にセットする素材パレットからの合成がメインだったようだ。

 見た目はそれっぽく、栄養的にも多分、タンパク質を豊富に含んでいるであろう合成肉だが、噛み応えという面では魚肉ソーセージの様に頼りなく感じさせる程度。

 それも焼き目を付けたり、調理を工夫すれば食感を変える事もできるのだが、この世界の住人はそこまで工夫しようとはしていないのが現状だ。


 魔道具による自動調理に慣れてしまって、出てきたモノはそのまま食べるといった慣習となっていた。

 特に魔道具に囲まれて生活している宇宙生活者や貴族にその傾向は強い。結果として噛む楽しみを忘れ、妙に辛い刺激物で誤魔化すような食文化が進むという斜め上の変化を遂げている。


 偏るのは食生活だけでなく、衣類なども最低限だし、魔力の溜まり次第跳躍といった状況で睡眠時間も乱れがち。

 度重なる跳躍に船体へのダメージが蓄積されると、思わぬ故障が発生して暗闇の中で修理を強いられるなんてことも多々あったそうだ。


 ホイホイと星系間を転移できるのは、そうして恒星の座標を特定してくれた先人のおかげだというのをしみじみと感じられた。




 目標の星系についたら、子爵へと面会打診を行った。あの星系の管理を行っている役人の顔と名前を借りて面会を求める。

 ウィザードに子爵からの指示を確認してみると、あまり細かい指示はなく現地の役人に任せている雰囲気があった。どうしても指示を仰がないといけない場合、上申するルートがあったのでそれを利用する事にした。

 顔の情報を元に幻影データを纏って、その役人になりきる。


 専用コードを発して、接舷許可を取って近づけば、船が違っていても怪しまれることもなくドッキング。

 ハッチが開くと警備兵に迎えられた。

 武器の類がないかはチェックされたが、幻影の術式は調べられなかったのでそのまま案内される。

 特にやましい事はないと考えているのか、身内に裏切り者はいないという信頼なのか、思っていた以上に警戒心がない。


 船から降りたのは俺と元乗組員だけだ。テッドやリリアはもちろん、アイネも役人に同行するには若すぎるという判断だ。

 以前、侯爵の船で捕らえられた教訓を活かして、魔力によるリンクをアイネと繋いでおき、もし強制的に魔力を遮断されるようなら、駆けつけてもらう形で予防している。

 元乗組員は服装を変えて、少しヒゲを足す程度の変装だが、こちらも特に止められる様子はなかった。


 シンプルな応接室へと通されてしばらく待つ事となる。子爵の思惑がどこにあるか、弱みの一端でも掴まないといけなかった。

 手探りの交渉にやや心配はあるが、悠長に時間を掛けても好転する要素はないなら、早めに仕掛ける方がベター。

 前世の営業を思い出しながら、子爵を待った。

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