開拓船の状態
魔力を転用するにしても大事になってくるのは、故障箇所の割り出しだな。
地球科学の燃料燃やしてエネルギーを生み出す機関部と違って、この世界の機関部は魔力を蓄えるタンク部分と、そこから出力する時の変換構造がソレに当たる。
魔力タンク自体は装甲が自動修復できていた通り、風と土に関しては問題なく機能している。火と水に関しては外部から魔力を取り込めていなかったのか、空の状態だ。ただこれは使い切って空なのか、タンクが壊れて空なのかは判別できない。
で、もっと便利に使うには、属性をなくしてマナとして蓄えるのだが、そのタンクも空のままだった。
属性ありの魔力はガソリンで、マナは電気と考えるとわかりやすい。ガソリンでエンジンを動かすと、バッテリーに電力を蓄えられる感じで、属性ありの術式を使うと同時にマナを回収する仕組みもある。
ただ装甲を修理する際に回収できていなかったのか、長い時間で放マナしてしまったのか、マナタンクは空である。
マナの状態は変化させやすいので、術式に使うのは便利だけど、不安定でもあるので長時間蓄えるのには向かない。バッテリーを放置してて電力が減っていくのと似ていた。
「常設系の術式を起動して、回生システムなんかが生きてるか確認するか」
幸いにも風の魔力は溜まっているので、分かりやすい空調を起動しておく。これから寒くなるので、暖かい部屋を確保できるのはありがたい。
次に船を訪問する1週間後まで動かしていれば、マナも貯められるはずだ。
「これが貯まってなければ、故障があるって事なんだが」
ひとまず結果が出るまで放置だな。
開拓船は当然ながら一隻の中で全てを完結できる作りとなっている。未開の星系を探索、惑星に降りての居住環境構築など、一通りの設備が備わっているだろう。
それこそ生産用魔道具だって存在しているはずだ。俺が持っていた物より、大型の物が。それを使えれば修理も捗るだろう。
「問題は機関部から魔力の供給ラインが切れてそうな所か」
いや、船内の供給はマナに変換して行ってた可能性が高いか。魔力のまま使えるのは同系統の属性だけなので、末端機器の方に変換コネクタを付けると設備が大掛かりになる。電化製品のACアダプターみたいな感じというよりも、ガソリンで供給して現場で発電機を使ってるくらい効率が悪くなる。
「となると船内設備が動かないのは、マナ供給ができてないからの可能性が高いな」
やはり根本の機関部にある変換回路が焼き切れてる可能性が高そうだ。推進装置は火属性がメインの術式になってるな。出力が大きいのは火なのだろう。
グライダーみたいな小型なら風の術式でも動くんだが、開拓船クラスはロケットの様な推進力が必要となる。
火の魔力を回収するなら、それこそガソリンなどを燃やしてやれば集めやすい。炎には火の精霊が宿るから。
そう思って船内を探っていけば、火の魔力タンクの側に、燃焼炉が設置されていた。ここで燃料を燃やせば、火の魔力を得られて魔力タンクへ供給できるだろう。
「密閉された船内で火を使うとか、地球科学じゃありえないんだが……」
この世界での燃焼というのは、物質に含まれる魔力を火に変えていると考えられている。火の術式はかなり簡素な物で、一度燃え始めれば燃料を追加することで継続できる。
火打ち石代わりに、術式が刻まれた魔道具が、ライターサイズで存在し、使うのも簡単で当たり前に普及していた。
酸素を消費しているのかどうかが不明なのは、風の精霊がいれば呼吸に支障がでないから。一酸化炭素中毒とかがあったとしても、風の精霊の影響などで処理されてそうだ。
医療が魔法によって発展していないように、科学、化学についても魔法や精霊で説明されてしまうため、解明を行おうという者が出てこないようだった。
「まあ魔法を使ってると、物理法則、何それってなるからなぁ」
物を投げたとしても、風の精霊が影響すれば、飛距離を伸ばすことも、叩き落とす事もできる。風向きが変わっただけと言うこともできるが、人が思っただけで風の向きが変わる世の中だと、物理法則を計測するのも難しくなってくる。
「郷に入れば郷に従え。全ては魔法で説明できるって奴だな」
ひとまず燃焼炉を動かせれば火の魔力も蓄えていけるだろう。そのための燃料などは確保したいところだが、この世界の車は魔力で動いているので、ガソリン的な燃料力の高い素材というのは一般的でない。
「この辺は情報屋に確認だな」
後は水の魔力だが、これも難しい。広場の井戸の様な濁った水は精霊の力が弱いとされているので、魔力の供給源となるような清らかな水というのは、山の湧水とかそうした場所で汲んで来るしかなかった。
そんな山はこの周辺には見当たらない。
「魔力の供給源を探すよりは、マナに変換して活用する方が確実かな」
そう考えて変換用の魔法陣をいくつかピックアップしておく。一番ストックがあるのは土の魔力なので、そこからの変換式と風からの変換式を大きさを変えながら調べておく。
「ひとまずはこんなところか」
翌朝、俺は情報屋に燃焼炉を動かすような燃料はないかを確認してみたが、やはり普段使いすることのない素材はストックが無いと言われた。
あるとしたら上層部が管理している宇宙港だろう。
宇宙港から燃料をかっぱらえるくらいなら、宇宙船自体を奪った方が早そうだな。もちろん、警備が厳重なので不可能だ。
中層の工場などにもある可能性はあるが、基本的には発魔設備からのマナ供給で様々な魔道具を動かしているだろうから、期待はできない。
「中層の地図とかはあるかな?」
「古いものならいくつかあるが、数十年単位で古いからアテにはできんぞ」
「大型施設は動かしにくいとは思うけど、発魔設備とかでも新技術が生まれたら作り直すか」
中層の今の様子を探ってみる必要はありそうだな。俺は今日の予定を中層への侵入に決めた。
中層エリアは半径5kmほどのエリアで、周囲を5mほどの防壁で囲っている。四方にそれぞれゲートがあり、外との行き来が行われていた。
運び込まれるのは採掘場で算出された鉱石が主だ。食料などは中層内部で賄えているらしい。なのでゲートの使用頻度は少なく、出入りも厳重にチェックされていた。
防壁については一定間隔でカメラが仕掛けられており、また上部にはセンサーもついていた。動体感知系と魔力感知系があるようだ。
「上位術者なら空も飛べてしまうこの世界だと、防壁の高さは安心に繋がらないよな」
ハシゴをかけたり、ロープを引っ掛けたりという手段は、カメラや動体センサーで見つかり、空を飛んで行けば魔力センサーに引っかかるだろう。
センサーの範囲を注意深く観察していく。動体センサーは防壁の上、2〜3mまでをフォローしており、魔力センサーについては20mほどの高さまで検知できてそうだ。
もっと上空になると長距離用の別のセンサーがフォローしてる可能性もある。
「最小限の魔力で突破するのが一番楽そうかな」
時間をかければセンサー類の反応を分析して無効化しつつ侵入というのも不可能ではないが、あまり時間は使いたくない。
なのでシンプルな方法で突破する事にした。
身体強化で高さ10mほどの跳躍を行い、向こう側に降りるというもの。空中にいる間は強化を切って、魔力感知をすり抜ける。
問題は壁の向こうの様子が分からない点だな。
防衛の観点から見れば、防壁間際まで建物があるとは思わないが、逆に見通しが良かったら飛び越える様子を見られる危険がある。
「姿隠しの術式を使う必要はあるけど、魔力感知に引っかかる恐れがあるな」
少し思案する事にした。