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魔力採掘衛星へと

 子爵が管理している星系は、居住可能惑星を持たない星系だった。ガス惑星が大半を占め、鉱石を含む天体は衛星までとなっている。

 目標となる衛星は、第2惑星の衛星として存在していた。魔力が固まった鉱石である魔石は、自然現象の結晶のようだ。高熱と圧力が掛かった状況で炭素がダイヤモンドとして結晶化するように、魔力が高密度で長い年月をかけて固まるとの事だ。

 人工魔石も作れはするが、まだ天然魔石を掘り出すほうが遥かに安価なため、帝国全土で魔石鉱脈が見つかると採掘利権が発生した。


 当該星系はほぼ無人で、採掘を管理する役人と発掘した物を輸送する船員とがいるだけだ。

 採掘作業自体は魔道具により自動化されており、その採掘効率を確認して次の採掘所を指定するというのが現地役人の仕事。

 掘り出された鉱石は加工される事もなく、侯爵領の工業星系へと運搬される。炊事なども魔道具によって賄われるので、勤務する人間はごく少数。

 また役割としては新たな発展も見込めないため、閑職扱いである。安定した仕事であるがゆえに、何かできることはないかと悩む者がでやすい仕事でもあった。


「衛星の発掘で三世代、まだ終わりの見えない作業ではあるが、飽きても仕方ないだろうな」


 もちろんこの星系に子爵本人がいる訳ではない。また担当する採掘星系もここだけではなかった。採掘されるのは魔石のみではなく、他の金属類を産出する星系もある。

 子爵は鉱石運搬のターミナルステーションを拠点として、各星系への人材派遣や管理を業務としていた。


 一定の能力の者を定期的に入れ替えて横領などを防ぎ、産出の安定を継続する。大事な業務だがノウハウが確立されており、懐を肥やすこともなかった。

 そこに新規伯爵家の開拓話が転がってきて、住民を抱える惑星という発展する資産の獲得を目指した。

 普通に開拓に協力して、伯爵と利益を分け合う形にしても、今までの収益を遥かに越えるモノとなったはず。しかし、貴族社会に慣れていない駆け引き下手な伯爵の様子を見て、全てを手にできると算盤を弾いてしまった。


「人に迷惑を掛けないやり方なら付け入る隙も少ないはずなんだが……」


 などと考えながら目標の衛星を目指す。外縁部から第2惑星の衛星までは1週間は掛かりそうだ。

 ガス惑星の多いこの星系は、宇宙の色も漆黒というよりは緑かがって見えた。細かな気体、液体、固体が星系全体に広がっているらしい。

 惑星の重力に引かれて取り込まれた惑星の公転軌道だけが無の空間といった様子。恒星自体はやや小さく、惑星は4つしかなかった。

 星系として若く、形が定まる前の状態という事になんだろう。と言っても恒星ができて何万年と経っているんだろうが。

 第2衛星にある魔石も元々は別の星系にあった恒星が、超新星爆発で周囲に撒き散らした恒星の破片なのかもしれない。


「さて、アースドラゴンも飽きずに付いてきてくれよ」




 4日が経過して、第2惑星が視認できる様になった所で、引っ張ってきた魔力塊を切り離した。この星系にたどり着いた時には、私掠船のステルス機能を稼働させ、魔力感知に引っ掛かりにくい状態で飛行している。

 もし星系外縁から魔力塊を観測していたとしたら、遠くからやってきた彗星の様に見えるかもしれない。

 淡い光を発しながら恒星へと接近。直接ぶつかることはなく、恒星の重力で軌道を変えられて、また宇宙へと飛び去る。そういった雰囲気だろう。


 ただ今回はたまたま第2惑星の衛星軌道をかすめるというだけ。その際に彗星を追っていたドラゴンが、より魔力を秘めた魔石へと注意を惹かれても事故と処理されるだろう。

 速い天体は観測によって見つけやすいので、衛星で作業中の人々も既に気づいている。作業用ステーションからは、宙域に警告通信が発せられていた。


 ステーションから脱出する宇宙船が途絶えて3日目、遂に彗星と化した魔力塊は衛星の側を通過。それを追っていたアースドラゴンは、近くの衛星に惹かれて離れる……事もなく、そのまま魔力塊を追って行く。


「おいおい、ここで予想外の反応とかやめてくれよ」


 とはいえ魔力塊はガス惑星へと突入するコース。アースドラゴンはそのまま突っ込むのだろうか。動いていない衛星は後回しにして、先に魔力塊を捕まえようとしている?


 などと考え、どうやって軌道修正しようかと思っていたら、更なる予想外が起こった。




 第2惑星は、ガスが集合してできた惑星。太陽系で言えば、木星や土星の様な感じで明確な大地が見えない型だ。

 表層は気体だが徐々に液化した分子が出始めて、核に近づくと液体となっているらしい。形として見えるのは、そうした液化した気体が対流する様子なのだそうで。

 水蒸気が冷えて湯気として見える感じだな。


 そんな半分気体、半分液体の様な表層部が大きく波打ったかと思うと、何本もの柱が飛び出してきた。

 うねる柱の一本が、魔力塊の彗星を絡め取る。

 そしてアースドラゴンはその柱に向けて襲い掛かった。


 魔力を取り込んだ柱は徐々にその形を鮮明にしながらドラゴンの攻撃に揺らめく。吸盤のないタコの足といった感じで、ドラゴンを絡めようと囲むように動く。

 それに対してドラゴンの腕が振るわれ、土の術式で作られた即席の刃が足を切り裂いた。


 体長30mのドラゴンが小さく見える柱の群れが、次々とドラゴンへと集まっていくが、ドラゴンも術式を展開して柱のような足を切っていく。

 そうするうちに惑星の表面には、巨大な何かが浮かび上がってきていた。

 名状しがたい表面のうねりは、ムンクの叫びの様な波打つ人の顔のようでもあり、無数に蠢くイソギンチャクの触手のようにも見える。

 惑星規模の生き物なのか、何かの群生体なのか。


「イアイア! ンンマッフタグン」


 無意識に何かが口から溢れていた。

 見ていると吸い込まれそうになる意識をなんとか引き剥がし、意思を保とうと努力する。大いなる意思に神秘性と畏怖、同一になりたい、取り込まれたいといったよく分からない感情が浮かんでくる。

 周囲に防御結界を張り巡らして、精神を侵食してくる余波を遮って、何とか自我を保った。


「いや、無理でしょ、これ」


 俺はこのまま観測は無理と悟って、転移門を開いて星系から脱出した。




「宇宙クラーケンとか、そんな感じなのかなー」


 あえて軽口風に評してみるが、そんな次元じゃなさそうだ。

 コズミックホラー的な名状しがたい畏怖すべき存在。アースドラゴンでも脱出できるのかどうかを確かめたいとも思わない。忘れるのが一番だろう、追求してはいけない。

 この手のモノは、考えると呼び寄せたり、共感させられたりして、ヤバいはずだ。


 あの星系には近づかない方向でいこう。あの衛星がどうなるのか、人が戻るんだろうか。魔力に反応して動くなら……いや、考えちゃダメだ。考えるな、感じろ。いや、感じるのはもっとダメだろ。


「しかし、計画としてどうなるんだ……アイネに話したら見に行きたいとか言い出しそうなので黙っておくしかないな」


 あの星系が封鎖されて、子爵の管理不足が追及されるのかどうか。収益が得られなくなったら、侯爵としては責任を問うと考えていたが、原因がはっきりとしないなら、天災として諦めたりするか。

 子爵の管理範囲としては一番の稼ぎ頭ではあったが、侯爵レベルから見ると子飼いの一部でしかないから、そこまでのダメージでもないんだよな。

 単純に子爵の収入が減っただけに収まりそうだな。


 そうなった時に、子爵は仕方ないと諦めるか、伯爵領の乗っ取りを早めようと動き出すか。とにかくあの星系は放置して、子爵の動きを待つとしよう。

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