報告への反応
返事どころか通信衛星への通信も中々行われなかった。早い報告が出世の鍵だよと伝えたつもりだったが、あの現場監督はのんびりと動画を確認してドラゴンの脅威度を自分で考えていたようだ。
結果として、通信衛星からの連絡が先に届く事となる。上空から通信パケットが送られて来た事は魔力感知で分かるが、内容までは分からない。単なる定時連絡かもしれないし、地上で検知されたドラゴンの魔力についての緊急報告かもしれない。
内容を確認するには解除キーを入力するか、暗号を独自に解析するしかないが、そこに時間を掛けても得られるモノは少ない。
通信衛星からの連絡があったということは、拠点からの送信もいずれ行われるだろうと再び待機。たっぷり30分ほどの時間があってから、ようやく簡易拠点からの送信が行われた。
アイネが準備していた魔法陣が送信される魔力につられて展開され、通信パケットに便乗する形で通信衛星へと打ち上げられる。
一般通信のプロトコルで書かれたメッセージは、この辺境星系のステーションで一時保管された後、一定量の情報が集まったところで星系間通信に乗せられて発信されるはずだ。
光速ですら年単位で時間が掛かる星系間の連絡には、転移ゲートを使った通信が必要となるが、消費される魔力量も大きい。
恒星からの光魔力で行うはずだが、その魔力は通信だけに使う訳ではないので、何度もゲートを開く無駄消費はしていられない。
日に一回は通信していると信じよう。
「今日のタスクは何とか消費できました。アイネ様、ありがとうございました」
「ここの管理者は無能。早く排除すべきです」
「そうなんですけどね。クーデターを起こすわけにもいかないので」
「ドラゴンは初めて見れて楽しかった。でもあまり未知の探訪が停滞するのは認められない」
「テラフォーミングに立ち会う機会もそうそう無いので、まだ見ぬ世界はそれなりにありますよ」
宇宙を旅して新しいものを見せる。
それがアイネに対する約束ではあるが、闇雲に宇宙を飛び回っても、人の生活圏で新しいモノというのは頭打ちになるだろう。
それよりも特異な状況を観察してゆっくり回る方が、かえって未知に遭遇する可能性がありそうだ。
テラフォーミングはある程度確立された技術ではあるが、やはり星ごとに起きる出来事に差もあるだろう。
それこそドラゴンがやってくるというのは、かなりレアな状況。それにより、どんな影響が出るかというのも未知の探求と言えるはず。
これから新たな畑ができて、そこで作物が実っていく過程もまた初めて見るなら未知のもの。普段の食事がどうやって作られていくかを見ておくのは良いことだと思う。
実際、俺も前世で畑仕事をした経験はない。資料動画やテレビなどで栽培する様子は見たことあっても、自分では家庭菜園などもやった事はなかった。
それに魔法のあるこの世界は栽培自体も違う部分がありそうなので、それも楽しみだ。
「もう少し身近な未知を探していきましょう」
それから3日、上層部からの連絡も無いようで現場監督からも何の通達もなかった。
なので俺も畑作りに参加している。
耕運機を押しながら畑を拡張していくのだが、やはり地面が砂ばかりの状態なので土壌改善に時間がかかるらしく、あまり早く移動させると表面だけしか変化せず、ちゃんとした畑にならないようだった。
砂が多いと水はけが良すぎて植物の育成に向かない。植物の根が生えていけば、そこに保水力も生まれるのだろうが、卵がなければ鳥は生まれないので、魔道具で耕すしかない。
拠点にあるプロペラの様な貯魔装置で風の魔力を携帯タンクに溜めて、それを耕運機にセットする事で動かしている。
土の魔力に変換しているので、直接土の魔力を溜められれば効率があがるのだろうが、こちらは地熱発電の様な深い層へとボーリングを行って純度の高い魔力を組み上げる施設が必要で、簡易拠点に設置することはできなかった。
俺はこっそりと自分の魔力を直接耕運機に流す事で少し長い時間作業を行う程度でしか効率を上げられていない。
俺が魔術師だとバラして大々的にやるのは、上層部の対応が分からない現状では時期尚早という判断だ。
どのみち個人で耕せる範囲は限られているし、惑星全体のテラフォーミングで言えば微々たる成果。ここはのんびりと耕運機に頼る開拓を進めた。
「ん?」
昼食後、のんびりと土壌改善作業をしていると、情報端末に通信が入った。外部ネットワークには接続できないので、リリアかテッドからの連絡だろうかと思って見てみると、通信はウィザードからのもので驚く。
情報端末を見ると外部通信がオンラインになっていた。簡易拠点へのローカルネットワークにしか繋がってなかったのが、簡易拠点の通信機を通して衛星までのリンクが利用できる様になっている。
この辺の接続にはパスワードが必要なはすだが、それを解除したと言うことか。
『この映像を見れているということは通信が繋がったはずだな。久しぶりの連絡が中々衝撃的な映像でかなり興奮できたよ、ありがとう』
知識欲旺盛なウィザードを能動的に動かすため、先のドラゴン対ジンの戦いの前半戦部分を前報酬として送っていた。
最初の口に捕まって振り回されている所だけなので、ドラゴンの戦闘力までは分析できないだろうが、機密を探っても戦闘映像などはほとんどないはずなので、貴重な情報だ。おかげでウィザードをかなり積極的に動かす事ができた。
『星系間通信を通してだとラグが酷いから自立型術式で通信の確立まではやらせた。ただ貴族のセキュリティ突破となると、近くまで行かないと効率が悪すぎるから移動に時間がかかる。もうしばらく待ってくれ』
汎用通信機のパスワードを割り出すくらいはウィルス的な術式でも可能だが、外敵から情報を守るファイヤウォールを突破するには自分で作業しないと無理らしい。
どこからやってくるのか分からないが、意欲的に関わってくれそうなので、追加報酬でアイネがジンを操作して戦う所までを送っておこう。
ブラックホールの術式部分は成果報酬だな。
外部ネットワークに繋がった事で一般的なニュースなどは見れる様になった。開戦に向けた準備の様子などが戦意高揚の為に流れているが、まだ開戦には至っていないらしい。
国際ルールなどを無視して王国は不意打ちで戦争を開始してきたけど、帝国は協調政策でやってきた国だから、攻める際には宣戦布告を行わないといけないだろう。
でないと周辺諸国から批難される事となる。
元々王国の侵略戦争に対して、帝国に援軍を求める声もあったが、対外戦争はしない方針だった帝国は黙殺してきた歴史がある。
帝国を恨んでいる国が王国との戦争中にちょっかいを掛けてこない様に牽制するためには、国際ルールに則った行動を示さなければならない。
不意打ちで攻めた方が有利なのは間違いないが、帝国の武力は王国より勝っている事を対外的に示すには不意打ちによる占領ではなく、正々堂々と戦う事も必要だった。
そのために準備をしっかりと整えてから仕掛けるのだろう。
「まあ、王国側も帝国の様子は見てるだろうから、完全な不意打ちは不可能ってのもあるだろうけど」
王国との国力差からまさか攻めてくるとは思わずに警戒を緩めていた帝国側と違って、王国はずっと帝国を偵察しているはずだ。報復されるのも計算のうちなのだろう。
「先の首都星への攻撃も、帝国軍を引き入れる為の仕掛けという可能性もありそうだな」
帝国を完全に抑えるには全く足りない軍だけで侵攻してきた王国は、反抗を受けて首都星を奪還されたら、あっという間に引き上げた。
本当に帝国を制圧するつもりなら、確保した星系を守るために軍を派遣するくらいはやっていないとおかしい。
元々の国力の差を考えると、補給が必要な敵地で大掛かりな戦を仕掛けるより、自国内に引き入れて叩くというのは歴史的にもままある戦略。
もちろん肉を切らせて骨まで断たれる可能性もある両刃の戦略なので、国同士の戦いでやることでもないはずだが、侵略国家ならやりかねないか。
「何にせよ、現帝国への復讐を考えている俺としては、現首脳陣が打撃を受けるのは好都合だな」




