サボテン料理と下っ端ーズ
やりたい事は山ほどあるが、最初にやるべき分析は街に戻ってもできるので、今日の所は引き上げる事にした。
船に寄っていたのをカモフラージュするべく、道中で栽培しているサボテンなどを収穫してから街へと戻る。
乗っていた軽トラに少し魔力を補充して返却すると、情報屋のバラック小屋に帰ってきた。
「兄ちゃん、サボテンの収穫手伝ったんだから、晩飯!」
「ばんめし〜」
「おう、料理してやるよ」
サボテンはメキシコなどでよく食べられている食材だ。サボテンステーキなどが知られているが、基本的には野菜の一種でメインディッシュには中々しにくい食材である。
またカルシウムなどを含み、子供の成長にも良いのだが、熱を加えると壊れてしまうので、熱しない方が良い。
なのでサボテンを細かく刻み、果物と一緒にミキサーにかけてスムージーにしてみる。元採掘場で作っていた豆から豆乳を作ってそれをベースに、イチゴやりんごといった果物で味のバランスを整える。
多少青臭さはあるが、青汁よりは飲みやすいだろう。
これに合わせる食事としては、パンにベーコン、目玉焼き、さらに薄くスライスしたサボテンをレタス代わりに挟んで、ハンバーガーとサンドイッチの合間みたいなヤツを作ってみた。
「というわけで召し上がれ」
「うぉ〜これがサボテンかよ!?」
「かよーうまうま」
兄妹は美味そうに食ってくれるので、作りがいがあるな。まあ、他の子供達も腹を減らしているだろうから、作った分を持って外へと出る。
昨日のスープを真似て作ろうとしていたみたいなので、それに合わせてサボテンサンドを提供した。
「また美味そうな物を……」
その声に視線を向けると、昨日絡んできたゴロツキ共が性懲りもなく姿を現していた。
「ちゃんと並べよ」
「うっす」
俺の注意に男達は素直に頷き、配給の列の最後尾に向かっていった。どうやら昨日の特訓が効いたらしい。
ちゃんと行列に並び、スープとスムージーとサボテンサンドを受け取って、しっかりと食べていた。
「アニキ、俺達に指導して欲しいッス」
「んあ?」
使った道具類を片付けていると、ゴロツキ共が連れ立って俺の所へやってきた。昨日の今日で態度が全然違っている。
「俺達は腕っぷしを買われてスタルクにいるんっす。それなのにコテンパンにやられたじゃないッスか。このままじゃ居場所がないっつーか……」
「追い出されるのが怖いと?」
「いや、というより、役目を果たしたいんすよ。仲間を守るためにここにいさせてもらって、何とか生きてこれたんで、恩返ししたいんです」
昨日の柄の悪さはすっかりナリを潜めて、真剣な態度で訴えてくる。
「列に並ばず、子供を邪険にしてて?」
「その節はほんっっっとーにっ、スンマセンした。いつの間にか気が大きくなって、横柄な態度になってやした」
先頭で話している男が頭を下げると、後ろにいた3人もざっと頭を下げる。
「俺達、元々はベルゴの奴らにいたぶられている所を、スタルクの人に救われて仲間に入れてもらったんす。そこから、ベルゴに絡まれてる人を助けまわってるうちに、自分達のおかげで暮らせてるって意識が強くなってたみたいで……」
助けてもらう立場から、人を助けられる立場になって、気が大きくなっていたと。
「でも、このままじゃダメだと、アニキに気づかせてもらったんで。このままじゃ守れなくなるって、気づけたんで。俺達の性根を叩き直して欲しいッス」
「はぁ……」
いや、確かに下っ端ーズを何とかしなきゃベルゴに押されっぱなしで、先が無いとは思っていたが、ここまでの転身というのは、どうにも信用ならない。
「言いたいことはわかったけど、昨日の今日でそんな態度で来られてもね。正直、信用できないかなぁ」
「それは分かってるッス。なんで、何か課題を出して欲しいッス。それをこなして信用を得たいと考えたんス」
「ふ〜む……」
やる気があるなら戦力アップの為に鍛えるのはやぶさかではない。ただ強くなって増長したり、ベルゴに引き抜かれたりしたら面倒でもある。
どうやって信頼できるかを測ればよいか。
根気が必要でそれなりに大変な課題を与えるってのは、結構面倒な話だ。
「そうだな……じゃあ、ここへ行ってもらおうか」
情報端末に周辺地図を表示させる。現在地と目的地が見える様に縮尺を調整して、男達に見せる。
「この採掘場跡に、僕が作った畑がある。ここに来る前に時期の良いもんは回収してきたけど、残ってる物もそれなりにある。なので、残った収穫物の採取と、この辺に植え替える為の苗を取ってくるというのはどうかな?」
元採掘場へはホバーバイクで2時間ほど。昨日使った軽トラなら3時間ってとこかな。足があるならそんなに苦になる距離ではないが、徒歩でいくなら半日はかかるだろう。
そこから収穫物を運んでくるというのは、中々に骨の折れる作業だろう。
何より、この場所の栄養価を考えても、畑を移築しておきたかった。
「で、でも、俺達、農業なんてやったことねーし」
「人からモノを教えて欲しいと言っときながら、やったこと無いからって断るの?」
「いや、戦い方と農業じゃ全然ベツっていうか」
「それをベツと捉えるか、戦闘に活かせる場所があるのかを判断するだけの知識もないでしょ」
「う……」
「マニュアルは端末に転送しておくから、やる気を見せてみてよ」
「……分かったッス」
採掘場の畑は結界を切ってしまったので、荒れるまでの時間はそう長くはない。一人だと諦めるしかなかったが、作業員を確保できるなら確保したい。
下町の栄養状況はかなり悪いからな。
思っていたのと違うといった風情で肩を落としながら去っていく男達を見送りつつ、俺は俺でやることがたくさんあった。
情報屋のバラック小屋で開拓船とのリンクを起動させる。この世界の情報端末はスマホサイズからタブレットサイズまで画面が可変なのが素晴らしい。
画面部分を魔力で構築した水晶で作り出してるおかげだな。まあ、この可変型端末となると消費魔力が高いので一般人向けではないのだけど。
「さて、まずは魔力を集めてる装置からかな」
外壁を修復するのに使われた魔力を供給した装置の確認から始める。船体自体は砂に覆われていたので、ソーラーパネルではないだろう。
風力を使うにもプロペラ類こそ劣化が激しく、数百年単位での稼働は期待できない。
最悪は経年で発魔力機関は失われてて、それまでに蓄えていた魔力を使ってたってケースではあるが……ふむ、土と風の魔力供給機関があるな。
地球科学と違って、精霊という存在が影響するこの世界では、精霊の協力があれば魔力の供給を受ける事ができるのか。
情報端末の情報と、脳裏に刻まれていた刷り込み知識がリンクして何が行われていたかが分析されていく。
「脳みそがもう一個あるような感覚だな。自分で理解してない事が分かってくっていうのは」
脳みそに記憶があって、魂で判断してるとかなのかな。人類の進化とかじゃなくて、魂のありようとか、そういう研究ならマッド認定されなかったか……いや、赤子の魂を上書きしてる時点で倫理観が欠如してるか。
クローンに魂が宿るのか、宗教が絡みそうな話題は地球科学でも尽きないもんなぁ。
それはさておき精霊から魔力を引き出せているなら、まだ機関としては使えそうだな。魔力タンクも十分な容量があって、既に満タンの状態。
これを使っていけば、修復やら生産がスムーズに行えるだろう。
ただ精霊の力は属性が偏っているので、他に転用しようとすると変換してやらないといけない。その辺りが焼ききれてるっポイから実際に修復に入ると面倒かもしれない。
装甲なんかの金属類は、土魔法の領域だから土の精霊が協力してくれたらスムーズに進んだだろう。
銃の魔法陣には、それぞれの属性に合わせて刻みつける必要がある。土属性での攻撃は難しい。弾を生み出す事はできても、それを飛ばす力が出ないからな。
風の精霊なら衝撃波を生み出すとかできるから、そっちで攻撃武器を作れるか。エアガンとの違いは弾を飛ばすんじゃなくて、空気自体を飛ばす感じだから、威力は出にくいし射程も短いわけだけど。
複数の属性を行使しようとすると、魔法陣同士が干渉したりするので、かなり精密な陣の構築が必要になってくる。
生産用魔道具で作るのは無理だった。
「ま、下町制圧程度なら、非殺傷の風武器が良いかもしれないな」