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開拓民の反応

「ドラゴンは魔道具なんかの魔力に反応して襲ってくる。この拠点なんかは魔力を遮断するようにできているから心配はない」


 防風の魔道具程度の魔力では、ドラゴンの気を引くこともないと一応は伝える。

 テラフォーミング中は風の魔力は溢れていて、逆に風を抑えている状況は、魔力が少なくなっているからな。


「ドラゴンが襲ってくるとすると、またハウリングウルフの様な奴が近くに来て巻き込まれるパターンだ」


 精霊が保持する魔力なら餌になる。当然、俺も。ただ、俺は魔力感知に引っかかりにくくするための隠蔽術式を覚えているので、気を引かないように立ち回る事はできる。


「ハウリングウルフは、魔力が高まったら出現する可能性が出てくる。それを阻止するには、周辺から風の魔力を減らす。防風ドームを完成させるのが一番の近道になる」

「やることは変わらないって事か」

「兄ちゃんが言うなら問題はねぇわな」

「正直、そのハウリングウルフ? とか言うのも、俺達はよく知らんしな」


 などと先輩方は気にすることはなかった。戦ってる所を見ないと実感がないというのはその通りなのだろう。

 前足の一振りで人間を両断するカマイタチを放てると言われても一般人の理解を越えている。

 実体が希薄だから普通の攻撃が効かないというのも、そもそも攻撃が人間の拳程度の一般人にはそれがどこまでの脅威なのか伝わりにくいだろう。


「分かりました。対策はこちらで行っておきますので、皆さんは作業を進めて下さい」

「おう、任せときなっ」




 結果から言うと、あれからアースドラゴンはもとより、ハウリングウルフが出ることもなく、6日目にはポールを予定範囲に立てることができた。

 現場監督の男を呼び出して防風結界を作動させて、直径500mほどの範囲が微風の領域として確保される所を見せてやる。


「まだスタートラインってところですけど、他の進捗よりはマシでしょう?」

「むむむ……」


 自分主導ではない部分が引っかかるのかもしれないが、防風結界が張れたのは紛れもない前進。それを自分の功績にしていいと言ってるんだから、素直に受け取ってくれたらいいのだが。


「まだカラカラの状態なので、植物を育てるにはもう少し土壌の改良が必要だと思いますが、次のステップの計画はどうなってますか?」


 ここまでで活躍できなかったのが悔しいなら、先の計画で主導権を取れるように誘導してやる。


「それは水の魔石を撒いて、土の魔力となじませるところからだ。道具は倉庫にあるだろう。おい、用意しろ」

「まあ、もう午後も遅い時間ですし、実際の作業は明日からで。まずは伯爵様に報告されては?」

「あ、ああ、そうだな……」


 現場監督は釈然としない雰囲気を出しながら俺達が持ってきて建てた簡易拠点へと向かう。通信設備なども整っていて、使いやすいはずだ。

 この1週間、奴はあの拠点をずっと占拠している。

 食事なども備え付けの物を消費しているようだが、リリアに探らせる為に食事を持って行かせたりしたら、それもしっかりと食べてはいるらしい。

 まあ、開拓村の食事など必要最低限。食べられるならいくらでもといったところか。


「じゃあ、俺達はささやかな宴会でもしましょうか」

「おうっ」




 簡易拠点の女子棟については、早いうちから医療用魔道具を使用して魔力切れとなり、その後寝たきりになる人が増えていった為に、機能停止に陥っていた。

 リリアに魔力を補充した魔道具を持たせて回復させつつ、食事を流動食から始めて徐々に胃を慣らしていって、何とか起き上がれる者が出始めたところだ。

 長い間寝たきりで、筋力も衰えているため、リハビリが必要となるだろう。


 本来ならステーションに上げて治療させるべきなのだろうが、そのコストと新たな人を雇うコストで後者が勝るような貴族社会。単純労働力としてしか開拓民をカウントしていないのが現状のようだ。


「伯爵様は新星系の探索で成り上がった貴族家だから、もっと庶民が分かってると思ったんだがなぁ」


 やり方が貴族的過ぎる。元々が探索者であれば、場末の辺境を見てきてその暮らしが大変な事も分かっているはず。そこで暮らす人々の辛さなど、身近に感じられそうだ。

 しかし、頭ごなしに人を入れれば勝手に何とかするだろうといった上からの指示は、下々の生活を知っている者の配慮に欠けている。


「惑星開拓の仕組みを調べていかないと、効率の悪さが改善されそうにないな」


 軍学校であればその手の知識も豊富にあるんだろうが、今は指名手配の身上。調べる伝手がない。

 ハッキングなどで情報を漁るにしても、俺は専門家ではないので、できるとしても時間がかなりかかるだろう。

 自分ができないのなら外注へと投げるのが楽だが、信頼を置ける仲間となると……。


「シャルロッテ、お前の支援者との連絡はついたのか?」

「何のことですの?」

「いや、公爵の手を逃れた後、支援者に連絡を入れたんだろ?」

「そんなの無理ですわよ」


 そうだった……こいつからは連絡を入れる手段がないのだった。発信機があるとしてもパッシブ、相手から見つけてもらう必要がある。

 追手から逃れるためとはいえ、何とも無策だ。

 もしかしたら支援者も限界を感じて、おざなりにしか探していないとか……。

 帝国内部の情報だから、支援者連中は情報を持ってると思ったが仕方ないか。


「となると……共和圏?」


 本国の方なら何とかなりそうだが、私掠船コミュニティの方は潜伏第一で情報収集すらどれだけやってるか不明。もう少しちゃんと繋がりを作っておけばと思わなくもないが、あの空間で時間を過ごすのは避けたいと思わせる雰囲気があった。

 組織のスラム化みたいな、どこか諦めた雰囲気たったからな。

 どちらにせよ、アテにはできそうない。


「伯爵家自体にアクセスするしかなさそうか……」


 外にコネがないのなら、内に侵入するしかない。ルートさえ掴めれば、術式を手繰って遡る事もできなくはない。辺境惑星ウルバーンの中層などより、貴族家のセキュリティは何倍も堅いだろうから骨が折れるだろうが……。

 現場監督の通信に紛れて、ウィルスを侵入させて情報をかき集めさせるか。もうちょっと共和圏で最新の情報を仕入れていれば、伯爵家に通じる技術もあったんだろうがなあ。

 生半可なウィルスでは、あっさり駆除されて終わり、履歴を辿って開拓村まで掌握される可能性があった。


「いっそ見つけさせて制圧に送り込まれた部隊から遡る……いや、伯爵家と敵対したい訳じゃないからなぁ」


 伯爵家に辺境で力をつけさせて、帝国中枢へと反撃する足がかりにしたいのが今の方針だ。伯爵家自体と敵対しては先がなくなる。


「まだステーションからなら調査範囲を広げられるんだが」


 惑星から降下船は片道切符。戻る者はいないとあの諦めた雰囲気のパイロットが言っていた。

 何らかの理由がなければステーションに戻る事はできないだろう。

 それは開拓村に防風結界を張った程度では無理。せめて作物を作れる段階まで進めて、納品できるようになってから……順当にいっても半年はかかるな。


 しかし、伯爵家の内情は早めに調べないと、この開拓村の発展結果を納品してからだと、他の開拓村へと波及するのに半年以上かかる事になる。

 そんな速度でしか開拓できなければ、テラフォーミングを終えるのに十年単位での時間が掛かってしまう。


「ここが1週間でできた事を半年遅れではなぁ。無駄時間が長過ぎる」


 もっと緊急性のある何かで伯爵家の尻を叩く必要がある。


「ああ、あるじゃないか。惑星規模で緊急性がある事象が」


 俺はその方面から伯爵家へ迫る方法を検討し始めた。

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― 新着の感想 ―
追いついた!面白いです! ただ個人的には思ってたより放浪してないと思う。 SF(宇宙)に出てくる巨大生物とか珍生物めっちゃ好きでドラゴンとか良いけど、魔法要素があるからなのかモンスターがSF系よりも…
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