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アースドラゴン

 竜種。

 それは生物の頂点とも言える存在。単独で宇宙へと飛び出し、星系間の転移も行えるそうだ。伝説によれば、最大規模に成長した古竜は星すら呑み込むと言われている。

 さすがにそれは眉唾としても、戦艦クラスの巨体を持ち、艦隊を全滅させたという報告もあった。

 その巨体を維持するために魔力を求めて宇宙を彷徨っているという。そのため、戦艦などの持つ巨大魔力炉などは餌として狙われやすい。

 度々艦隊が襲われるのもそのためらしい。


 目の前のアースドラゴンは、ハウリングウルフの魔力か俺の魔力に反応して出てきた感じだが、そもそもテラフォーミングで大きな風の魔力が働いているので、それに引き寄せられてこの惑星に来た可能性が高い。

 つまり、大気が満ちて風の魔力が落ち着くまでは、居座る可能性があった。


「ドラゴン避けをちゃんと用意してあるかね」


 俺はドラゴンに魔力を気取られないように隠蔽術式を起動して、砂に半ば埋もれるようにして観察する。

 大きすぎる生物というのは、目測で測りにくい。あの砂鉄ドームを丸呑みにしたので、口の大きさは8mほどだろうか。そこから細く見える首が伸びて体と同じくらいの長さ。

 ブラキオサウルスだったか、陸上で首が長かったとされる恐竜。あれが2足立ちになっていて、前足はティラノサウルスの様に小さく見える。

 その背にはコウモリの様な被膜が張られた翼を持っているが、あれを羽ばたいたところで飛べそうもない。空を飛ぶのは魔力を使うのだろう。アースドラゴンなら重力操作くらいできそうだ。


 全長は50mくらいになりそうか?

 スケールが大きすぎて分からんな。翼を広げたら100mとかになりそうか。俺達の船よりデカいのは確かだ。ただ戦艦と比べると小さいと思うので、艦隊を殲滅するほどの力はないかもしれない。

 どちらにせよ、生身でどうにかなる相手じゃないな。魔導騎士があっても一騎じゃ足りない。生物なら頭を潰せば何とかなるかもしれないが、ドラゴンは魔術を使える。生半可な術式では、防御結界で防がれるとの事だ。戦艦の主砲クラスでもダメージを与えられるかどうか……。


 なので竜に遭ったらやり過ごすのが一番。

 魔力を餌にしているので、魔力を隠してより強い魔力に引かれて去るのを待つしかない。

 この惑星はテラフォーミング中で、風の魔力に溢れている。それが一定の密度になると、ハウリングウルフの様な精霊となり、周囲の魔力を集めて成長していく。

 そうした純度が高く、育った魔力を竜は好んで食すのだ。


 そのため竜から逃れる為に魔力を隠蔽するのが最低限。周囲の魔力も薄れさせると効果は上がる。

 開拓村で防風ドームを展開すれば、周囲の風魔力を取り込んで術式として利用し、ドーム内は風が収まるので魔力も薄い土地ができるはずだ。


 そしてドラゴンの嫌う音というのがあるらしく、それを発生させる魔道具があれば完璧たが、そうした用意はあるのかね……?

 開拓用の魔道具すら満足に揃っていない現状、来るかどうかも分からないドラゴン避けなんか用意してないだろうな。


「ならば魔力を隠蔽するのが一番だな」


 拠点自体は風の魔力から中を守るために、魔力を遮断する素材でコーティングされている。中に籠っていれば、ドラゴンの気を引くことはないはずだ。

 ただ外で作業する為に魔道具を動かし始めると反応する危険はあるかもしれない。


「ドラゴン避けの術式を調べるのが得策かな」


 そんな事を考えるうちにドラゴンは別の魔力を感知したらしく、首を巡らして俺とは別の方を向くと、翼を動かし始めた。

 ドラゴンの起こす風で、周囲の暴風が打ち消され無風状態を作り出される。その中で重力を操作して体を浮かばせ、首が向いた方向へと飛んでいく。


「なんちゅう魔力だよ」


 何十か数百トンか分からないが、あの巨体を浮かせる重力場は、周囲を圧する魔力を放っていた。

 魔力それ自体に攻撃力はないはずなんだが、体が飛ばされそうな感覚を受ける。本能的に防御結界を張りたくなるが、それでドラゴンの気を引くわけにはいかない。

 必死に死んだふりをしてやり過ごす。

 時間にしたら一分もなかったはずだが、その巨体が見えなくなるまで、俺はその場にうずくまる事しかできなかった。




 アースドラゴンを見送って、周囲に何の気配もないことを確認して、更に10分ほど待ってから拠点へと戻った。


「大丈夫かよ、兄ちゃん」

「ダメかもしれんね……」

「ええっ」


 エアロックから入るなり絡んできたテッドを適当にあしらいながら拠点のリビングへと。宇宙服を脱ぎながらソファへとダイブ。

 ハウリングウルフとの戦闘もそれなりに疲れたが、全く敵わない相手を息を潜めてやり過ごすというのはかなりの疲労だった。


「一体何があったんだよ」

「とりあえずコレでも見てみな」


 情報端末で録画していたハウリングウルフとアースドラゴンの様子を再生。周囲には先輩達も集まって来ていた。


「こ、こいつぁ、精霊とやらか」

「このでっかいトカゲも?」

「ど、どど、どうすんだよ。こんなのが襲ってきたら、こんな拠点なんて」


 ザワザワと言い合う先輩達。テッドは無言で映像を見ている。

 そんな中、空腹に訴える香りが部屋へと漂ってきた。匂いの元へと視線を向けると、カートを押したリリアが入ってくるところだった。

 アイネとシャルロッテも同行している。


「ユーゴ兄、お疲れ様でした。朝食の準備は終わってるよ。詳しい話はその後でいいでしょ」


 ざわつく室内も食欲には勝てぬ。

 リリアが準備を進めれば、自然と意識がそちらへと向く。俺もゆっくりと立ち上がり、ダイニングへと向かった。




 朝食は塩豆のスープに、ライ麦っぽい茶色の濃いパンだ。噛み応えのある食感は、目を覚ますのに向いているかも知れない。

 シンプルに塩だけで味付けされたスープに浸しながら食べる事で、パンの旨味が引き立てられる様に感じる。

 素朴な味わいにほっこりとした時間を過ごせた。


「さあ説明なさい」


 そんなほっこりとした気持ちを吹き飛ばしたのはシャルロッテだった。無駄に偉そうだな。立場としては偉いんだろうが、命令慣れしているという訳じゃなく、自分の意を通すことに慣れているだけだろう。

 まあ、情報を共有しないとダメな状況なので、説明を開始する。


「最初の狼みたいなのは、ハウリングウルフ。風の魔力が高まると出現する精霊の一種だ」


 軍学校の図書館で魔法に関する書物の中に、召喚術式の1つとして載っていた。風の魔力を集めて疑似生命体とするような印象。自然発生する事も知られていて、制御されない強い魔力は危険視される理由にもなっている。


「こいつに関しては、テラフォーミングが行われる際に出没例があるので予測はできて、対応も可能だ」


 ハウリングウルフが近づいてくるのを感知してから準備するのは可能だし、魔力が強まって生まれるタイミングも感知範囲なら分かる。

 大きさ的にも今日遭った奴より、もう少し大きくなったとしても大丈夫だと感じた。まだアイネという戦力もあるしな。


「問題はこっちの竜。アースドラゴンと呼ばれる奴だ。これには手持ちの戦力どころか、帝国の軍隊を呼べたとしても倒せるか分からない」


 過去に討伐例がない事もないが、その際には対ドラゴン用の魔導騎士部隊を編成し、魔力加工のされた高出力の近接戦武器により成功はした。

 しかし、被害も甚大で8騎で討伐にあたり、生存3名という有り様。対したドラゴンは20m級で今回のドラゴンの半分以下のサイズ。

 50m級との戦闘は、艦隊が襲われて被害を出しながら逃亡したというのが報告されていた。


「なので対処法としては、去ってくれるのを待つしかない」

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