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開拓作業の開始

 朝食を終えてひとごこちついたところで、俺達は改めて自己紹介をした。新たにやってきた開拓民です、よろしくと。

 5人の先住者もそれぞれ名乗ってくれて、それぞれに何をしてきたか、どうしてここに来ることになったかを説明してくれた。

 さすがに逃げてきた貴族だとか、賞金首で追われる身だからとかいう者はおらず、元の惑星で借金を返せなくなって仕方なくという者がほとんどだった。

 隠している可能性もなくはないが、身のこなしからただの庶民だとは思われる。


 この地に来てから半年ほどが経過しているが、作業は全く進んでいない。元々はもっと大気が馴染むまで時間を掛けてから、入植を始めていくところを、時間的余裕のない伯爵の命で強引に作業が開始されたという。

 その割に装備品はもっと気候が落ち着いてから使う物でしかなく、ポール1本立てる事もできぬままに、飛んできた石が当たって負傷したり、作業者自身が風に飛ばされたりと、怪我人が増える一方で、人数が減っては作業が進められないと拠点に籠もる様になっていた。


 追加の人員は中々派遣されず、怪我人を治療する魔道具も不足がち。偏った食生活から体調を崩すものが増えていて、行き詰まっていた。


「監督役の男も最初は怒鳴ったり殴ったりしながら作業させようとしてたが、怪我人が増えてきたらどうしようもなくてな。上に増員要請してそれからはどうなってたのか分からんよ」


 具体的な解決策もなく根性でやれと言っても無理なものは無理だよな。


「では問題点を1つずつ洗っていきましょうか」


 俺は拠点の図面を用意しながら作業計画を立てていった。




 拠点の周囲を開拓するのが最初の段階だ。そのためには防風ドームを形成する必要がある。惑星全体が防風に晒され、細かな砂塵が舞っており、時には石や岩までもが動かされて、飛んできたりする。


 元々大気のなかった惑星に風の魔石で大気を生成。そのままだと拡散してしまうので、術式によって制限を掛けてあった。その中で人が住むのに適した大気圧まで持っていく。

 大気を生成している所と離れた所では気圧差ができて風が吹く。また、砂漠が広がる中は、寒暖差が激しく、それが気圧の差を生んで強い風を吹かせていた。


 大気の生成が終われば、風の強さもやや収まるので、そこに水の魔石を投入して雲を作って気温差を軽減。徐々に大気の動きを自然に近づけていく事になる。


 しかし、時間を惜しんだ伯爵は、まだ大気の生成が終わる前に作業を開始させた。そのため、防風ドームを作ることすらできずにいるのだ。

 伯爵としては、早くできれば良し。最悪は風が収まっていけば問題なく開拓村を作れるので、損をすることはない、前倒しで作業が進めばラッキー……などという考え方だろうか。

 そのラッキーを俺達で提供しようではないか。




 防風ドームを作るには、ドームを張る外周部に魔力伝導率の高いポールを立てていく事になる。これに魔力が通うことで、その内側に防風の魔法陣を構築するのだ。

 ポール自体は、棒高跳びのポールの様にしなやかな素材となっていて、石などが当たっても曲がって受け流すことで壊れにくい。

 なので立ててしまえば維持は楽なはずだ。


 そのポールを立てるのに失敗している理由は、地面の表層を砂が覆っている事が大きい。砂に立てた所で、風によって倒されてしまうので、ちゃんと固い地盤へと突き刺す必要があった。

 その砂を退けながら地盤を露出させて、ポールを打ち立てる訳だが、その砂を退ける作業に手間取っていた。


 掘った側から突風で砂が運ばれてきて、穴を埋めようとする。ポールを立てるには穴が埋まるより早く掘るか、埋まらないように風をせき止める必要がある。

 今までは風を止める方法がなかったので、人数をかけて穴を掘る速度を高めようとしていたが、飛んでくる石などで負傷者を出して作業は進まないという状況に陥っていた。


「俺達が持ってきた機材の中に、簡易防風結界を張れる物があるので、それを利用して風を止めて、その間にポールを立てたいと思います」


 簡易拠点を建てる際に使用したものだ。実際は、魔道具を使うと見せて俺自身が術式で結界を張っていたのだが、まだ魔術師である事は伏せておきたい。

 現場監督の男がどう動くか分からないからな。力で制圧するのは楽だろうが、伯爵に報告されると面倒な事にもなりかねない。

 魔術師の存在はそれなりに希少だ。その分、尾ひれがついて何でもできると便利使いしようとしてきたり、逆に何かを企んでいると排除しようとしてきたりされる可能性がある。


 なのでまずは実績を重ねて信頼を勝ち取ってから、打ち明ける方向へと持っていきたかった。


「俺達で風を防ぎますので、その間にポールの設営をお願い致します」

「ほ、本当に、大丈夫なのか?」

「まずは風を防げる所を確認してもらえたら、作業できると分かってもらえるかと」


 論より証拠。百聞は一見にしかず。まずは風を防げるという所を見てもらおう。




 昨日持ち込んだ魔道具……実際は情報端末のサーバーの様な物で、タワーPCの様な縦長の箱……を外に持ち出して起動している様に見せつつ、風の結界を張る。

 俺個人の魔力で張るので数時間しかもたない。半径5mほどの範囲で風を抑えて作業できる環境を作り出す。


 魔道具を中心に結界を張って、ポールの設営ポイントへと移動する。穴を掘る為の魔道具が砂を噛んで壊れたとのことで、スコップで掘っていくしかない。

 土の術式で掘ることもできるが、一緒に作業をする事で連帯感を得ることも大事だ。


 小一時間ほど穴を掘っていき、ようやく地盤が見えてくる。先端がドリル状になったポールを地盤へと押し付け、魔道具を起動するとポールが自ら地盤へと埋まっていく。

 安定する深さまで刺さったら勝手に止まってくれるので、後はざっと砂で固めて一本目が終了した。


 一連の作業をやった所で拠点に戻って休憩。今まで達成できなかったポールの設営に成功し、興奮した様子の先輩方にそのまま作業を続けさせると要らぬ事故を起こす可能性もあるからな。

 クールダウンが必要だと判断した。


「昼休憩を挟んで、あと2本くらい立てて、今日は終了としましょう」

「もっといけるぜ」

「おう、がんがん進めよう」

「いえ、魔道具の魔力がなくなるので……」

「そうか、それじゃ仕方ないな」


 そう言いながらも先輩方の表情は明るい。明確な進展があれば労働意欲は湧いてくるものだ。開拓村を作り上げるにはまだまだだが、進んだという実感は大きいだろう。


 昼はリリアに用意してもらったサンドイッチだ。女子拠点の方で作ってもらい、男子拠点まで運んでもらった。もちろん、俺が防風結界を張ってエスコートする。

 アイネとシャルロッテも一緒だ。

 配膳をアイネやシャルロッテに任せて、俺はリリアから女子拠点の情報を聞いていく。


「医療用魔道具は魔力が切れてますね。皆さん、体調を崩されていて、なかなか起き上がれないみたいです」

「そうか……一度、治療に行った方が良さそうか?」

「いえ、魔道具を動かす魔石を頂ければ、こちらで治療していきます。どうしてもダメそうなら、その時にお願いします」


 拠点の設備自体も掃除されておらず、色々と不具合が見つかっているらしい。調理用魔道具も動かず、空調も不調で空気が澱んでいたらしい。

 その辺りのメンテナンスは、リリアに仕込んでいたので改善してくれたようだ。

 ただ体調が悪く、気力も失っている女性陣は、自発的な行動をできずに寝たきりといった様子。

 徐々に体力を回復させる必要があるようだ。


「じゃあ、そっちは任せるから必要な物があればいつでも言ってくれ」

「はいっ」


 リリアがかなりやる気を見せていて頼もしい。他2名の動きが怪しいので、彼女には負担を掛けるな。

 ポールを立て終えて、防風ドームができれば、行き来もしやすくなるだろうし、負担を軽減する事もできるはずだ。

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