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開拓民の拠点

「じゃあここは、弱ってる奴らに使わせるから、お前らはあっちの拠点に戻れ」


 そんな感じでさっさと追い出される。設置した拠点を自分の物にするようだ。

 何となくそうなるだろうなとは思っていたが、ここまであからさまだと清々するな。この監督者の権限がどの程度か分からないので下手に反抗するのもまずいだろう。

 実際、ここの開拓作業を進めるには疲弊しきっている開拓民を回復させる所から始めた方が効率がいい。



 古い簡易拠点へと戻ると活気は全くないな。壁を背に座り込んでいる人がひいふう……5人。虚ろな様子は単なる疲労ではないだろう。

 ただ即座にどうこうと変化する訳でもなさそうなので、まずは環境の改善からだな。


 空気が澱んで感じるのは、風の魔道具がきちんと動作してないからだろう。魔力感知で装置の場所を発見し確認してみる。


「単純に魔力不足か」


 回路などに焼き切れたりといった不具合は見られないのて、魔力供給する魔石が問題だろう。運んできた中にあった魔石と交換し、起動し直すと部屋の空気の浄化が始まった。


「兄ちゃん、こっちはダメそう」


 キッチンの方を確認していたテッドから報告があった。近づいて確認すると、調理用の魔道具に繋いだ情報端末からエラー表示が出ている。


「回路が焼けてるな……むう、錆びついてる」


 魔道具を開けてみると魔導回路が錆びついて魔力がショートし、周囲の回路を巻き込んで焼き付いていた。こうなると専門家じゃないと修理は厳しいだろう。


「部分的に動いていたとしても、根本がやられていたらどうしようもないな」

「食べ物ないのか!?」

「いや、食料庫はあるみたいだな……ふむ、コンロなんかもあるから、魔道具を使わすに料理してまかなってる感じだな」


 そう思ってキッチンを確認して転がる空き缶の山を見ると、まともな調理はしてなさそうだ。レトルト的な物もあるようだが、包丁の類は見当たらない。


「なるほど、皆の不調は栄養失調か航海病に近いものかな」


 缶詰などの偏った食生活が続いた為に、ビタミンなどが不足しているのだろう。長い航海で船員達が掛かったとされる壊血病、生野菜やフルーツが食べられなくて起こったはずだ。

 帝国貴族も酷く偏った食生活を送っているが、彼らは定期的に治癒魔術を受ける事で病にはならない。

 労働階層はそうした治療は中々受けられずに、健康を害する事がある。


「治療用の魔道具は……備え付けにはなさそうだな」


 事故の多い開拓地に医療器具がないとは思えないが、この程度の症状では使えないとの判断だろうか。

 しかし、壊血病は死に至る事もある病気だったはずだ。もしかすると使い切ってしまったのかもしれない。


「ひとますは俺が治癒術式を使うとして、根本原因を解消しないと意味はないな」


 俺は食料庫へと向かう。




「なんだ、色々とあるじゃないか」


 缶詰ばかり食べている様子だったので、食材が枯渇しているのかと思ったら、ちゃんと小麦粉の様な穀類や冷凍された野菜なども揃っていた。

 調理できる者がいなかったということか?

 しかし、開拓民になるような庶民は調理用魔道具を使わずに料理してきたと思うんだが。


 家事は女性にという考え方が染み付いていたとしても、直ぐ側に女性用の拠点もある。食事を作ってもらう事もできたはずだ。


「男女間を完全に分けてしまっているのか?」


 地表に降りるなりすぐさま分けてしまうやり方は、開拓民の間でも同様だったのだろう。それは家族であろうとお構いなしで分断するとかだったりするのか。

 基本的に開拓民は立場が弱い。行き場を失って仕方なく参加せざるを得ないので、言われるままに従っているのだろう。


 帝国の支配というのは抑圧的だ。ウルバーンでもそうだったが、力で押さえつける。

 現場を監督する男は軍事的な訓練を受けた気配はあった。庶民に過ぎない開拓民では多少束になっても敵わないはずだ。武装していたらなおさら抗えないだろう。


「でもそれって効率悪そうなんだよな」


 嫌々作業するのと、モチベーションを持って作業するのでは全く違ってくる。

 歴史でも開墾地を自分の物にできるというお触れを出して耕作地を増やしたという例はあった。

 自分のためにやると言うのが、最終的にはより良い結果をもたらすはずだ。


「開拓民としての契約は衣食住を保証する程度のものだったからなぁ」


 開拓を指示している伯爵自身にも経験がなく、また惑星を見つける過程で多大な出費をしており、早く回収したいという思いが強硬な施策となっていそうだ。


「俺が関わったブロックで環境改善をして、進捗率が上がっていれば、考え方も変わるかもしれない」


 帝国式に染まっていない考え方を広めて、内から現皇帝の施策を覆す。なんて気の長いことはやらないが、それでも足場くらいは作っておきたいところだ。


「まずは食の改善だな」




 具材も設備もあるので調理自体は特に問題はなかった。体調不良で胃腸も弱ってそうなのでスープをメインにする。具材は少なめでも味わい深いもの、コンソメスープみたいなのが良いだろう。

 じっくり煮込むんで味を出す時間はなさそうなので、缶詰やレトルトをベースに時短を図る。


「つっても帝国の料理は香辛料使いすぎなんだよ……」


 夏場のカレーは食欲を刺激するとはいえ、弱った胃腸に過度のスパイスは逆効果。かなり薄めてミルクを足して口当たりを良くしながら細かく刻んだ野菜を煮込む。


「ミルクを加えた時点でコンソメからは離れたな……」


 それでも缶詰の汁に溶け出た肉汁や香辛料に、細かくした野菜の旨味が溶け出したスープは、シチューとも少し違った味付けにはなっている。


「ありものスープ……としか言えんな」


 明確な料理とは言い難い何か。まあ、飲めれば良いだろう。

 料理をしているうちに、暗く沈んでいた開拓民も顔を上げてこちらを見る様になっていた。


「テッド、まずは小鉢に少量入れて配ってくれ」

「おうっ」


 見知らぬ男が作ったスープ。警戒されているだろう。まずは少しでも食べてもらえたら害がないのは分かってくれるはず。

 そう思って試飲程度のものを配らせたが、杞憂だったようで受け取るなり一気に飲み干していく。

 そして空になった小鉢を見つめ、こちらを見るが何も言わない。口を開くが言葉にはせず、また俯いていく。


「お気に召したならこちらへどうぞ」


 こちらから声を掛けるとばっと顔を上げたが、立ち上がろうという者は居なかった。立ち上がるだけの体力もないのか?

 そこまで弱っている様にも見えないが。


「テッド、ご苦労さん。こっちで食べていいぞ」

「はいっ」


 部屋の端まで小鉢を配ったテッドを呼び寄せてテーブルで食べさせる。食べ盛りのテッドには、缶詰の具をトッピングして、量も増してやった。


「俺達は今日、ここに来た新人開拓民です。先輩方にご挨拶がてら手料理を用意しただけです。気に入らなければ仕方ありませんが、できれば少しでも食べて頂けると嬉しいです」


 そう言って呼びかけると、先輩方は互いに顔を見合わせながら牽制しあっている雰囲気があった。

 その様子は開拓民の間にも何らかの壁が存在しているようだ。秘密警察的な密告システムでもあるのだろうか。

 反乱を危惧し過ぎて開拓が進まないなんてのは、本末転倒だろうに。



 後の調査で判明したのだが、伯爵による開拓事業がはじまると、その利権に割り込もうとする貴族や逆に潰そうとする貴族が手飼いの民を派遣してきて、開拓地を占拠しようとしたり破壊活動をしたりとやりたい放題。

 一番テラフォーミングしやすい第4惑星の開拓時は、伯爵自らが現地を駆けずり回ってようやく事態を収拾できた。

 しかし並行して開拓を進めようとした第3、第5まで伯爵が巡ることはできない。

 同じ轍を踏まないようにするには強圧的な支配体制を敷くしかないと判断したようだ。


 今は王国の侵攻や反抗作戦で開拓地へちょっかいを出す余裕は他の貴族にもないのだが、最初の一歩でつまずかされたイメージは強く、体制を変えられないままであった。

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