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開拓惑星へ降下

 審査を受けて3日。俺達は第3惑星へと降りる事になった。運んできた簡易拠点用の資材を降下船で降ろして、組み立てて住むことになる。


「俺達は運ぶだけだからさ。後は現地の監督に聞いてくれ」

「そんな投げやりなんですか?」

「最初は親身にやってんだけどね。片道切符で届けてたら、擦り切れちゃってね。ドライに行くことにしたんだよ」

「はぁ……」

「生きてたらまた会う事もあるかもな」


 降下船のパイロットは軽い調子で去っていった。

 開拓民の生活は過酷だ。魔道具で保護されているとはいえ、宇宙服なしでは生活できない地表部で作業しなければならない。

 日中は50℃を超える気温が、夜には氷点下を下回る砂漠。気温差が激しいので風も強く吹いている。

 小石が凶器となって宇宙服を損なえば、即座に命の危機だ。


 俺達みたいにしっかりと準備をしてやってきた者など少数で、ほとんどは元の居場所を追い出される形で、新天地でやり直せたらと着の身着のままでやってくるのがほとんどだ。

 最低限の装備は貰えるとしても、それは生き残るのに十分ではないのだろう。

 降下船のパイロットが、運んだ人と再会する機会は滅多にないって事だ。


「おーい、新入り。早くこっちへ来い!」


 声を上げながら手を振る人影が見えたので、そちらへと近づいていく。0.8Gなので少しフワフワした感触がある。


「わわっ」

「ほら、兄ちゃんに掴まれ」


 突風に流されそうになるリリアをテッドが捕まえて難を逃れる。ゴロゴロと転がると、宇宙服が壊れるかも知れないからな。

 一応、それなりの装備を用意しているが、どれだけ耐えられるかを試す気にはなれない。修理もままならないだろうからな。




「女はあっち、男はこっちだ。早く入れ」


 人に近づいていくと、身振りで分かれる様に指示された。


「男女で別なんですか?」

「ああ。その方がトラブルが少ないからな」


 俺はアイネを振り返って確認すると、小さく頷いている。あまり離れたくはないが、まずは郷に入れば郷に従えって事かな。

 男の指示に従って、簡易拠点へと足を踏み入れた。


 簡易拠点はかなり古びた物で幾つかの拠点パーツをツギハギしながら使っているようだ。外壁には多くの傷が付いていて、ここでの生活の過酷さがしのばれる。

 入口はエアロックになっていて、外とは隔絶されていた。テッドと共に中へと入っていくと、2つの隔壁を抜けたところで、先導する男はヘルメットを外す。

 30過ぎのヒゲを伸ばしたままにしているいかにも現場の人間といった感じの男だ。

 俺達もヘルメットを脱ぐ。


「ふむ、若いな」

「俺はそれなりに体力はあります。こっちはまだ栄養不足からの回復中で……」

「ここに来る奴に五体満足な方が珍しい。働けないなら死ぬだけだ」


 まだウルバーンでの生活で成長に支障をきたしていたテッドに過酷な仕事は避けて欲しいと思ったが、状況的に他の人間も似たりよったりだと返された。

 使えないなら他へ行けということもなく、この場で朽ちろというのが方針のようだ。棄民の終点となるのが開拓地という認識なのだろう。


「お前がカバーできる範囲は勝手にしろ」

「はい」

「兄ちゃん……」


 テッドは不安そうな声を出す。ある程度覚悟はしておく様に言ってはおいたが、面と向かって死ねと言われたら不安にもなるだろう。


「まあ、大丈夫だ」


 ボンポンと頭を叩いて慰める。実際、他の棄民と違って、俺達には船がある。預けてはいるが最高権限者は俺なので、命令優先権があるので呼び寄せる事ができた。この辺境でセキュリティを破って権利の書き換えなんて事はできないはずだ。


「そいつは頼もしいな。早速だがお前達が運んできた資材の設営を頼むわ。元気な奴がやらねぇと無駄にするかもしれねぇからな」


 簡易拠点のロビーには、力なく座り込んでいる者がほとんどだ。落ち窪んだ目からはまともな生活が送れていないのが伺える。


「行くぞ、テッド」

「おう」




 俺達と共に降下船から降ろされた荷物はコンテナに入った状態で運ばれていた。それを取り出して組み立てていく。

 監視役として男もついてきていたので、建築予定の場所を確認した。


「ふむ、寝所にキッチン、ロビーと一通り揃っていて10人用か……ならこの辺りだな」


 元々俺達だけで使う予定だったが、男女で分けるという現場の方針にしたがって、男用の拠点と連結する形で設置を行う。

 ここに設置されている物より新しく、外壁も丈夫なのを見て取って、風当たりのきつい場所を指示された。

 俺としても既存の拠点が潰れてもらっては困るので異論はない。


 コンテナを展開すると部品ごとに分けられて格納されており、設置して起動すれば自動で組み上がる形式だ。

 ただその為には地ならしが必要だった。

 俺は設置予定の区画に目印としてポールを打ち込み、四角く区切る。


「テッド、歪みがないか確認してくれ」

「はいっ」


 情報端末の扱いもここ数ヶ月で慣れてきて、ポールから送られてくる信号から表示される図面とにらめっこしながら指示をだしてくれる。


「3本目はあと半歩外で」

「この辺か?」

「ちょっと戻して……そこです」

「了解」


 新設拠点のサイズに合わせてポールの設営が終われば、作業中にイレギュラーが発生しないように風のドームを作成する。

 俺が魔術師だと知られるのはもうしばらく避けたかったので、それっぽい魔道具らしき物を敷地の中心に置き、術式を発動した。


 第3惑星のテラフォーミングは、大気を制御して惑星に縛りつけている。そのため、風の精霊力が強く働いているため、常に暴風に晒されている様な状況だ。

 そこへ干渉して無風のエリアを作り上げると、今度は地面への作業。絶えず巻き上げられて砂や石が飛び交っているので、地盤の上には大量の砂が積み重なっている。

 そのまま拠点を置くと、風などで土台が崩される危険もあるので、土の術式で地盤から上の部分をコンクリ並に固めていく。

 余った砂を吹き飛ばして敷地を平らにした上で、簡易拠点を展開した。


 一応、簡易拠点の機能として足場が悪くても杭などを打ち込み固定する機能はあるが、ちゃんと土台を用意して建てた方がもちが良くなる。

 地質調査も満足に行えていないので、地震が起きるなんて事もありえるからな。


 拠点の設営自体は自動で行われるので、後は見守るだけだ。風避けのドームに石でもぶつかってきたら流石にまずいので警戒は続ける。


「えらく高性能な魔道具を与えられたんだな」

「これは持ち込みですよ」

「なんだと? こんなモンを持ち込めるほど余裕があるのにこんな所に来てるのか?」

「地元で色々ありまして……」


 ちなみに降りた時点で顔の偽装も外している。絶えず術を行使しているとボロが出やすいからな。髪型などは手配写真と変わるようにオールバックに撫でつけて、視覚強化ゴーグル風のサングラスを付けている。


「ですので、できればお嬢様達と定期的に会える様にはしていただけますと幸いです」

「……まあ、考えておく」

「下手な手出しは控えてくださいよ。彼女付きのメイドは戦闘訓練を受けた護衛なので」


 良からぬことを考えないように釘を刺す。

 本当はアイネの方が立場が上だが、やはりシャルロッテの従者と見せた方が無難という事で役割を割り振っている。

 リリアが身の回りの世話係だが、この辺は違和感もないだろう。


「お、おう、そんな元気な奴もいないがな」


 俺が警戒してるのはアンタだよとは言わない。

 そんな感じで俺達の立場を匂わせている間に設営は進み、特にイレギュラーもないままに終わった。

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