帝国への帰還
宇宙船に戻るとテッドとリリアにお土産をねだられたが、ここで手に入れられる物はなかった。お茶の一杯も出なかったからな。
まあ、あの薄汚れた雰囲気の場所で、パフェやらケーキを出してこられても、食べて大丈夫かと悩まされそうだが。
仕方ないので再びデザートを作る。前回はこし餡だったので、つぶあんを使った汁粉を作ってみる。餅や白玉団子もないので、ニョッキで代用してみた。食感的に似てるかと思ったが、やっぱり違和感がある。ジャガイモと小麦粉を使って作ったが、味も違うのでやや喧嘩してしまっている気がした。
それでも初めて食べる3人は満足してくれたようで何より。
3人の機嫌が直ったところで、俺は私掠船コミュニティを離脱。転移に支障がない空間へと船を進める。
前世のSFで語られていたワープやらワームホールを利用した超高速移動と違って、この世界の空間転移は重力などの影響はあまり受けない。
ただ魔力的な干渉はあるので、恒星に近すぎで強い光魔力を浴びてる様な状況だと転移に支障が出てくる。
なので星系外縁が主な転移場所とされていた。
無人星系なのでジャマーなどもないので、ある程度恒星から離れ、惑星の陰に入るなど光魔力の影響を減らせば、外縁まで行かなくても転移可能だ。
一応、アイネが倒した男達は治癒術式で治しておいたが、それでも恨みに思って実力差やらを無視して追ってくる可能性も考えられたので、早々に立ち去るのが賢明だろう。
帝国の国境星系へと戻ってきた。前回利用した空間転移検知エリア外の位置をマーキングしていたので、そこへと転移できた。警備隊に見つかっていないだろう。
それでも警戒はした方がいい。連続転移で隣の星系へと移動してから、光の魔力を補給していく。
帝国内の私掠船コミュニティの場所まではまだ何回か転移を繰り返さないと到着しない。
「途中でウルバーンに寄っていくか?」
「別にいい」
「そんなに時間経ってないし」
2人と行動を共にし始めて2ヶ月程度。家族であれば心配になってくる時間に思えるが、情報屋のおっちゃんや下っ端ーずは家族という程の仲でもないのだろうか。
「もっと腕を磨いてからでいい」
「迷子の子供扱いはいらない」
中途半端なタイミングで戻るのは、プライドに関わるものらしい。前世の記憶からしたら年の割に立派だと思うが、ウルバーンの環境では自分の身を自分で守らねばならない。
自立が生存の道だろう。それにはまだ力不足ということだ。
テッドは対空砲座の練習の他に、アイネから格闘術を習い始めている。まだ基礎体力をつけるところからだが、この2ヶ月で食生活が充実したからか、体格が良くなりつつある。14歳という年齢は、肉体的に成長しやすい頃合いだからな。
このタイミングでしっかりと動きを覚えさせれば、かなりの戦士になれるだろう。
……アイネが特訓を課し始めたら挫折するかもしれんが。治癒術式の魔道具を用意しておかねば。
リリアの方は調理用魔道具の扱いから、レーダーや通信といった船舶運用時に必要な情報機器の扱いを学び始めている。
幾つかの星系を渡り、その土地々々の文化に触れて、宇宙を旅する魅力を知りつつあるようだ。
アイネが助手になってくれそうにないので、リリアがそっち方面をフォローしてくれると、宇宙船を飛ばしやすくなるだろう。
空間転移ができるとはいえ、恒星間の移動は時間がかかる。長距離を一気に跳ぶことはできず、隣の星系へと転移したら、そこで魔力を補給して、次の星系へと跳ばないといけないからだ。
半月ほどかけてようやく共和圏の仕込んだ私掠船コミュニティがある星系へとやってきた。
もちろん無人星系で、めぼしい資源などもない捨て星系だ。
軍学校時代に起こっていた海賊騒動の時も、この星系は全く話題に上がっていなかった。
惑星も5つと多くなく、恒星から一定距離に小さな小惑星が雲のように密集している地帯がある。その主成分は水で、惑星になり損なった素材だと思われた。
その小惑星の帯からもう少し外縁にあるガス惑星の衛星にコミュニティのコロニーはあった。
緩衝地帯にあったコロニーと比べると、カムフラージュが厳密に行われていて、外観は自然石のままとなっており、一旦亀裂の奥へと進んで戻らないと入口に入れない作りになっている。
万が一、発覚しそうになれば入口の岩を崩せば出入り不可能になる感じだな。
そのため大きな船は入れそうにない。軍艦だと駆逐艦も侵入できないだろう。外壁を見ると機体をこすった跡もある。
操縦者の腕が悪いのか、整備不良で細かなコントロールができなくなっていくのか。ドッグ内で衝突されないか気をつけた方がいいだろう。
狭い入口を抜けると、開けた空間になっていてここは前のコロニーよりも広い。小型艇用の桟橋ばかりだが、ざっと百艇は停泊できる作りになっていた。
その半分以上が埋まっている。
『こちら管制。コードの確認を』
端的な声にこの船に与えられたコードを送信。
『78番を使用せよ』
「了解」
かなり外れた位置にある桟橋を指示された。まあ、新人にいきなり密集地帯へ入れとは言わないよな。
そう思いつつ指定の桟橋にたどり着いてみると、微妙に桟橋が曲がっている。そのまま横付けすると、船体に桟橋の先が引っかかりそうだ。
じゃあ逆に止めればと距離を測ると、乗降口を合わせるとバーニアが壁にめり込む。
桟橋から距離をとって先端が引っ掛からないようにすると、船が固定できないので桟橋につける意味がない。
「垂直に止める?」
そんな事したら下の桟橋に泊めてる船に文句を言われるだろう。
結論、桟橋の曲がりを矯正しよう。
曲がっているポイントを術式で加熱。ここは熱量の操作なので火ではなく水の術式だな。金属は鉄なので融点に合わせて調節、曲がっているポイントが柔らかくなったところで、念動を使って桟橋を真っ直ぐに。
再度、水の術式で常温に戻していって固定した。
「これで問題なく横付けできるな」
俺は宇宙船を操縦して、ピッタリと桟橋につけた。乗降口を繋げて、船体を桟橋に固定する。
新入りに対する試練なのだろう。俺の答えはどう採点されますかね。
ここでも中の様子が分からないので、子供2人は留守番させる。それぞれやる事があるので、ぐずったりはしなかった。
ただお土産を頼まれてもこんなところでは何もないと思う。
桟橋内部へと侵入。ここも重力はないな。一応、曲げ直した箇所を内側から確認。多少、バリが出ていたので整えておいた。
そして倉庫から納品する魔導回路を取り出す。2m四方のコンテナなので、台車に載せて運んでいく。先のコロニーで購入しておいた。
台車といっても車輪がついている訳ではなく、土の術式で重力を操作し、進行をサポートしてくれる感じだ。
大きさは月と同じくらいの衛星なのだが、重力は1/10Gくらい。中が空洞なのか、比重の軽い構成なのだろう。
軽く足で蹴ると、ずっと飛んでいける様な感覚だ。
ただ照明は薄暗く見づらい。術式は使わずに魔道具の灯りを使う。何が待っているか分からないので、手の内は隠しておくことにした。
通路を進んでいくがまだ人とはすれ違わない。停泊している数は多いが、出入りは少ないのか。
かなり外れの桟橋だったので、結構な距離を移動させられたが、徐々に前方が明るくなっていく。
ようやく桟橋の付け根に到着したようだ。




