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共和圏を出立

 帝国に最も近い星系へと戻ってきた。空間転移も問題なく行えている。今のところ、船内に盗聴や発信といった不自然な魔力は発生していない。情報局というスパイ機関が、そう簡単に外部の人間を信じる事はないと思っているのだが、今のところ明確な監視はなかった。

 とはいえ共和圏を移動していたら、魔力炉のパターンは把握されているので、追跡は可能だろう。


「どう思います、アイネ様」

「魔道具による監視は、発見のリスクが高いでしょう。そして発見された時に一気に悪感情を抱かれてしまう。互いに信頼がないがゆえにそういった手は取れないでしょう」


 俺のことは魔術師だと知られている。余程の技術がなければ、その痕跡を隠すのは不可能だ。特に俺はオールセンが独自にチューニングした検知器類を間近で確認して、どういった魔力反応があるかを研究した。

 帝国と共和圏の差はあれど、この手の最新技術は一方が飛び抜けて優秀とはならないだろう。そんな技術差があれば容易に併呑できるはずだ。


「なので奴らが仕掛けてくるとしたら帝国領内に入ってから、人を使って調査してくる可能性が高い。精々ハニートラップに気をつけなさい」

「はい」


 私掠船コミュニティが傭兵組織として、帝国領内で様々な仕事をこなしているらしい。そこに従事する人数も相当だろうし、組織として俺と接触する人間も出てくるはずだ。

 そこで親身になって色々と聞き出そうとするのは、諜報の基本である。一応、軍学校でその手の手法についても学んでいた。


「光魔力を補給するため、ステーションに寄りますね」

「任せます」




「テッド、ステーションに降りるがどうする?」

「オレはシミュレーターやってる」


 船が改装されて、武装が追加された。主砲は機体の動きと合わせて運用するタイプなので、パイロットの俺が扱う予定だ。

 しかし、副砲として対空レーザーを追加している。これは相手のミサイル的な術式や、魔導騎士などに近距離まで近づかれてしまった相手を迎撃するために使用する。

 銃座式に本体とは別に駆動して迎撃するシステムになっており、その射手をテッドに任せる事にしていた。そのシミュレーターを日々こなしている。反射神経が結構いいようで、それなりのスコアを叩き出していた。

 まだゲーム感覚ではあるが、熱中していれば覚えは早いだろう。


「私はついて行く! 少しでもレシピを覚えたい」


 リリアは食堂担当として、調理用魔道具の修練を続けている。その上達のためにも、色々な物を食べないといけないというのは本人の談。

 あの貧しいウルバーン星ではまともな食事も与えられず、帝国の激辛料理ですら初めての味として残さず食べていた。

 共和圏のより豊富な料理はリリアを魅了して止まない。


「行きましょう、アイネ様」


 そしてしっかりと上下関係を掴んで、俺よりもアイネへと取り入る様にしたようである。




 入国時は色々と嗅ぎ回られていたので、さっさと移動した国境星系のステーション。隣国との接点という意味では活気があっても良さそうなものだが、相手が仮想敵国では大っぴらに商売もできない。

 あくまで国内旅行の終着点として、土産屋などが立ち並ぶ風情だ。


「ほう、まんじゅうなんてあるんだな」

「まんじゅう?」

「甘いアンコが生地に包まれたおやつだな。緑茶があると嬉しいんだが……紅茶文化なのよなぁ」


 輸送を考えるとどうしても紅茶になりがちか。茶葉を長時間もたせるのはこの世界でも難しいらしい。


「でもまあ、アンコがあればデザートのレパートリーが増やせそうだ」


 調理用魔道具を使用すると、汎用素材で味と形を再現してくれるのだが、どうしても味に深みを感じない。この世界の食事しか知らなければ、それで事足りるのかもしれないが、前世の記憶が邪魔をする。

 なのでこうしたステーションなどで地の作物を使った料理、菓子があると嬉しい。


小豆あずきを仕入れておくかな」

「ユーゴ兄の料理楽しみ」


 リリアの機嫌も取っておかねば、アイネにさらわれるからな。

 そのアイネは地上の様子を映したビジョンをじっと眺めている。小豆を収穫している様子など、農業風景が流れていた。機械化というか魔道具化されている大規模農園で大掛かりな刈取機で茶色に乾燥した豆を集めていっている。


 兄妹の故郷であるウルバーンは、大規模農場などはなく、中層以上は合成素材を利用した食材が主流だった。

 砂漠が多い郊外では、砂を含んだ風対策がないと、まともに野菜は育たない。家庭菜園レベルならバリアで何とかできたが、多くの人を満足させる量を栽培するのは難しい。


 砂漠に適した野菜類は、多肉植物とかになるんだろうな。サボテン料理なんかは下層でも作られていた。


「ま、ウルバーンに戻るのはもう少し先だな」


 しばらくは帝国の情報収集に努めて、共和の情報局に恩を売るのが大事だろう。




 国境星系のステーションを離れると、無政府の緩衝地帯へと転移する。表向きは無人の星系ばかりとなっているが、共和政府の私掠船コミュニティがあるらしい。

 共和圏からも帝国からも独立した状況で、物流を管理して潜入している私掠船を援助する基地だ。


 共和圏が基地を構えているという事は、帝国側も似たような基地を持っているだろう。互いに存在を知りながら不可侵条約を締結しているのか、一度手を出せば報復合戦になって、本当の無人星系になるまで終わらないと理解しているのか。


「暗黙の了解って当事者間では通じても、本国の人間が入った瞬間に崩れかねないんだよな」


 今の帝国は王国への対応で手一杯なので、共和圏へ喧嘩を売るバカはいないと思うが、辺境貴族で力を持ってると思ってるバカはやらかす事がえるからなぁ。

 後顧の憂いを断つために、今のうちに一掃しろとかね……いや、下手な事を考えるのはフラグ建築士の仕事か。でも最悪を想定するのが、生き残るコツでもある。


「早いところ帝国に入った方が無難だな」


 とはいえ、コミュニティに物資を運ぶのも情報局の任務。お近づきの印に良い印象を持ってもらわないとな。

 無人なはずの星系には、有人星系以上にセンサーが設置されていて、レーダーがうるさい事になっている。

 共和圏の物と帝国の物、両方が生きてる証拠だ。


「貨物船として安全航行してますよっと」


 自動操縦に切り替えて、転移用の光魔力を補充しながら、俺達は食事をする事にした。




「ユーゴ兄、何を作るの?」

「小豆を使った料理もあるにはあるが、やっぱり甘味として食べるのが良いかなと思ってな」


 もち米とかがあれば、赤飯とかもありなんだが、この世界だとパエリアなどに適した長粒米がメインなんだよな。

 もち米がないので、おはぎやお汁粉系統も画竜点睛を欠く。

 なので小麦文化でも違和感なく小豆が楽しめるデザートを作る。アンコはこし餡にして上品な甘さにして、それをパン生地で包む。

 それを油で揚げて、あんドーナツを作ってみた。アンパンよりデザート感があるからな。


 小さ目に作って球形に揚げる。一口サイズの一品、追いザラメで衣のザクザク感に甘みを加えて歯ごたえのある食感にしてみた。

 この1ヶ月でかなり標準体型に近づいてきたが、まだまだ細いのは否めない。それにアイネもまた補給のままならない培養ポッドでは必要最低限の成長に抑えられていたので、かなり線が細かったので、徐々に脂肪を蓄えていって欲しい。


「甘いものは頭脳労働の友だからな。勉強で疲れた頭を癒やしてくれるぞ」

「うぉ、初めての甘さだ」

「おいしーっ」

「……」


 アイネも無言のまま、手が伸びているので嫌いではないだろう。ほのぼのとした船内の雰囲気に、俺の心も癒やされる。

 平和が一番だよな……無理だけど。

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