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開拓船での食事

「兄ちゃん、腹減ったー」

「へったー」


 情報屋と壊れた機関部について調査していると、子供達が空腹を訴えてきた。さっきまで物珍しそうにコックピット内を走り回っていたが、ほとんどが機能を止めているので飽きたのだろう。

 ただ俺も腹は減ってきているので、休憩がてら飯を作る事にする。


「この船にも厨房とか食堂はあるよな」

「ああ、確か……ここだな」


 情報屋は端末を操作してマップを表示した。俺達はコックピットに近い搭乗口から入っていたようだ。搭乗口から左に曲がるとコックピット、右に行くとミーティングルーム、その先にあるハシゴを降りると、食堂に繋がっていた。厨房はその奥だ。


 30人ほどの乗員がいたとの事だが、食堂にあるのは6人掛けのテーブルが一つ。厨房も家庭用のシステムキッチンくらいのサイズしかなかった。


「交代制で回すならこんなもんか」


 厨房に入った俺は機材を確認する。数百年前の船って事らしいが、基本的な機能はほとんど変化がない。

 火の術式が埋め込まれたコンロに魔力を流せば火がつく。蛇口も魔力さえそそげば、水を生成してくれた。


「ただメイン魔力庫が枯渇しているせいか、起動用じゃなく稼働用の魔力が取られるな」


 家電のような魔道具は、バッテリー駆動の様なタイプが基本で、スイッチ代わりの小さい魔力で起動して、実際に動作を行うのはバッテリーに蓄えられた魔力で行う。

 しかし、船のメイン動力炉が止まっている状況では、末端の術式まで魔力が流れておらず、使おうと思ったら、必要な魔力を使用者が注がねばならない状態だった。


 魔道具を使うことしかしてこなかった人には厳しいかも知れないが、魔術師として育てられた俺には問題ない。


 空間収納から取り出したのは、昨日鶏ガラに使った残りの肉だ。いや、本来ならこちらをメインにするべきなんだろうが、栄養状態が分からなかったから、消化に良さそうな肉抜きスープにしたのだ。


 昨日の思った以上の食いっぷりから、肉類も問題なさそうなので、鶏肉の串焼きを作る事にする。

 甘辛ダレとか作れたら良かったが、今日の所は作りやすさ重視で塩コショウでの味付けに留める。


 金網の上に肉串を並べて焼いてやれば、香ばしい匂いが辺りに広がっていく。鶏の油が滴り焼ける。煙が上がっていくので、換気扇の魔道具を作動させておく。


 砂漠はもちろん、下町でも家畜は見なかったので、肉にありつく機会は少なかっただろう。子供達の目が爛々と輝きを増している。


「は、早くっ」

「はやくー」

「まてまて、生焼けは美味くない上に体にも悪いからな」


 俺は飛びかからんとする子供達を制して、焼き加減を確認しつつ、平皿を用意する。昨日使ったキャベツの残りを千切りにして広げ、その上に焼けた鳥串を並べていった。


「まだ熱いから、冷ましながら食えよ」

「おおっ、アツ、アツツ」

「あつうま〜」


 続けで自分と情報屋の分も焼いていく。ネギがあれば良かったんだが、手持ちにはない。玉ねぎだと鶏串というより、豚や牛の方が合うだろうしな。


「下の野菜にも鶏の出汁がかかってるから、美味いぞ」

「ああ、うまい、うまい」

「うまー」


 後は収納からパンを取り出して並べる。コッペパンの様な長細く焼けたパンの背に切り込みを入れて、そこに鶏串を挟んで串を抜く。


「ほれ」

「うおー、すげー」

「すげー」


 即席の鶏サンドに子供達がかぶりつく。幸せそうな表情に俺も満足感を覚えた。




 食事を終えた子供達は満足しきったのか、食堂の椅子で居眠りを始めていた。俺達は確認作業に戻る。


「食堂の魔道具は、魔力供給ができれば、そのまま動かせそうだ。問題は供給ラインのどっかが切れてるって事になる」

「機関部からの供給か……」

「大元の魔力変換周りが怪しいかな。動作用の術式が生きてたら、思ったより修復は早いかもしれない」


 俺達は機関部へと移動した。




 機関部はかなりボロボロだった。回路から漏れた魔力が暴走したんだろう、焼け焦げたりひび割れたりしている箇所が多い。


「過剰魔力で変換器が焼けたのは間違いないが、そこから漏れた魔力で術式の方もダメージが大きいね」

「な、直せそうか?」

「時間を掛ければって所だな。元々が大きいから、修復するにせよ置き換えるにせよかなり時間が必要になる」


 俺が持っている生産用魔道具は、30cm四方の物までしか作れない。ホバーバイクを作る時も、各パーツごとに作っていって、自分で組み上げた。

 30人乗りの開拓船の機関部ともなれば、専門的な知識もいるだろうし、焼けた部分を置き換えるだけで済むとは思えない。

 継ぎ目から魔力漏れでも起きたら、スタート地点に逆戻りだな。


 俺の脳には魔法に関する知識や魔道具の知識がかなり刷り込まれているが、流石に宇宙船の機関部の物はない。修理するとなると魔法陣の仕組みを解析して、それに代わる魔法陣を構築して置き換えていく事になるだろう。


「その辺の知識を持ってる人に心当たりは……あったらとっくに修理に取り掛かってるか」

「すまねぇ、身近な魔道具をメンテするくらいならできるが、一から構築するとなると下町の連中には無理だ」

「聞いてる話じゃ中層でも分かってる奴は少なそうだな」

「でも宇宙船のパーツを作ってる会社くらいあっても不思議はねぇはずだ」


 確かに中層は魔道具を使って生活をしている。その魔道具を作ってる会社もあるだろう。ただ技術力を掌握して支配を強めている上層部が、宇宙船のパーツなどを任せるかは疑問だ。


「でも一から一人で解析するよりも、他の魔道具でも作ってた人なら手助けにはなるか」


 中層で目的の技術を持つ人を見つけて、協力させるにしても、中層への出入りができるようにならないと無理だ。

 スタルクの革命を支援するのが近道だろうか。


 一人中層へ忍び込むのは多分、できなくはない。姿隠しの魔法などもある……まあ、その手の魔法は対抗策が十分に練られているから、それだけで潜り込むのはできないだろうが。

 純粋に身体能力を上げて、中層と下町を区切ってる壁を乗り越える事もできる。

 最悪、ゲート部分を実力で突破することもできるだろう。そこから姿を隠して追手を振り切るのもできなくはない。


 ただ相手を説得して下町に連れて来るとなると、難易度が跳ね上がる。

 まずは協力を仰ぐ相手を見つけるところから始まり、下町に来る様に説得しなければならない。中層の者は、下町の者より優れているという意識で洗脳されている。そんな奴を下町まで連れて行くとなると、拉致に近いやり方になりかねない。


 しかし、そんな力ずくで連れてきたとして、協力させる事ができるか?

 逆に変な術式を仕込まれて、全てが御破算となる可能性のほうが高い。それでなくても、知識労働というのは、本人のやる気がモロに出る。

 新たなヒラメキが必要な作業に、やる気がなくてヒラメクなんて事はない。ただただ時間が過ぎるのを待つだけになるだろう。


 人質などで脅迫したとしても同様だ。いついつまでに仕上げろと言ったところで、できないことはできない。

 結果、他の人を連れて来るとかになれば、どんどん効率は悪くなっていく。


 自分から協力したいと思ってもらえる条件を出せるか。俺の持っている共和国の知識は、この星の中層はおろか、上層部ですら持ってない知識だろう。

 ただそれらを餌にしたところで、安定した生活を捨てて協力するか?

 上層部に目を付けられでもしたら終わりだ。

 中層の生活は恵まれていないかも知れないが、下町よりは格段に良い。ある程度の仕事をしていれば、飢えて死ぬ様な事にはならないし、病気や怪我も治療して貰える。


 それらを捨てて下町に協力……どんな慈善家だろうが、首を縦に振るとは思えない。




 ならば自分から協力する様にするにはどうするか。今の守られている生活を奪い、生き残るには協力するしかない状況に追い込むのがてっとり早い。


 つまり、下町の革命を成功させて、中層の住人を下町に引きずり落とす。そこから脱出するには、協力するのが一番良い方法だと思って貰うのが楽だろう。


 今まで蔑んてきた下町の生活に落とされる。そこから這い上がれる、中層の生活に戻れる。逆に何もしなければ、自力での脱出は不可能。

 そうなれば否が応でも協力せざるを得なくなる。


「もっとも、俺の遺伝上の親みたいなのがいれば、勝手に働いてくれそうなんだがなぁ」

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