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船内に蠢く影

ホラーテイストで始まります。

苦手な人はご了承ください。

 思わぬ収穫を得たものの、本来は次のステップで考えるべき物だったので、まだ第一目標は死霊術をどう調べるかという事から変わっていない。

 ひとまず情報局に追尾されにくくするため、外宇宙へと進路を取り、星系内にあるかもしれない空間転移検知システムに引っ掛からないように距離を稼いだ。


 恒星を背に魔力を補給しながら、次の航路を選定していると、船内の照明がチカチカと点滅した。

 魔力による照明は、蛍光灯ではないので点灯時もじわっと明るくなるのだが……そう思っていると、完全に闇へと視界が閉ざされた。


 ペチャ、ペチャ……。


 何か濡れた足音が通路の方から聞こえてくる。テッドかリリアがシャワー中に停電して、慌てて出てきたのだろうか。


「テッド? リリア?」


 俺は通路の方を振り返って目を凝らす。コックピットの窓から差し込む星々の光は通路の奥までは届かない。


 ズルリ、ズルリ……。


 何かを引きずる音が聞こえてくる。

 俺は光の術式を発動させて、通路を照らす。そこには小柄な人影が浮かび上がった。人影というにはシルエットが不自然か。頭部から床にかけて末広がりに黒い山を成している。

 そして、またも光がチカチカと点滅を繰り返して消えた。


「何だ!?」


 俺は魔力感知で相手の動きを捉えようとするが、そちらも感覚がぼやけて上手く捕まえられない。


 ペチャ、ペタ、ペタペタ、ペタタタ……。


 相手の足音が徐々に早くなり、コックピットへと入ってくるというタイミングで、ふっと音が消えた。

 上かと天井を見上げると、身体の正面から衝撃を受けて吹き飛ばされる。黒い塊に痛打されたみたいだ。それを抱え込んで抑え込もうとすると、上から白い塊が降ってくる。


「キシャーッ」


 星々の光に白と赤が浮かび上がる。俺は咄嗟に左手を顔の前へと掲げた。そこへ衝撃が襲ってくる。

 身体強化したおかげで、今度は吹き飛ばされずに済み、腕に噛みつくそれと目があった。


 顔半分は髪に覆われ、左目だけが見える。白い顔に血走った赤い目。瞳は小さく、充血した白目をより深い紅。腕に噛みついた歯は、思ったよりも白く整然と並んでいた。


「うー、うーっ」

「痛い、痛いって」


 俺は腕を振って、噛みついてきた影を投げ飛ばす。壁に叩きつけられそうになった所で、くるりと反転して両足で着地。再度突進してきた。


「正面から来るなら」


 黒い塊の中から白い腕が2本生えて、掴みかかってくるのを手首を返して払う。首筋に噛みついて来ようとするが、仰向けに倒れ込みながら腹付近を蹴り上げて天井へと叩きつけた。

 さっきの壁よりも距離がなかった為に、受け身も取れずに強かに背中を打ち付ける。


「がばばっ」

「うおっ、汚え」


 衝撃で開いた口から、大量の水が吐き出される。多少の粘性を持った水が俺を濡らした。ブンという風を伴った一撃が左の方から聞こえて、慌ててブロック。しかし、腕を巻き込むようにして、黒い髪が絡みついてきた。


「ちっ、ん!」


 それを振り払おうと腕に力をいれるが、急に身体が重くなる。身体強化が解除された。


「マジックキャンセル!?」


 消えた船内照明、光の術式、身体強化と続けば、魔法を消された可能性が高い。魔力感知で相手を捉えにくいのも、魔力が打ち消されているからか。

 腕に絡みついた髪からどんどん魔力が抜けていっている様な感覚がある。


 カラン。


 目の前に落ちたナイフを拾い、腕に絡んだ髪を切る。魔力の流出は止められたが、空間収納に使っていた魔力を吸われて、術式が維持できなくなっていた。

 おかげで空間収納に入れていたナイフが実体化して、武器を手にする事ができたが、身体強化を失ったまま相手をするのは厳しい相手だ。


 俺は体内の魔力溜まりを活性化させて、魔力を早く回復させようとしつつ、辺りに散らばった収納物を漁る。

 小さなカプセルは見つけにくいが、逆転の一手には必要だ。ナイフで牽制しながら、逆の手で床を探る。


 チラリと床へ視線を走らせた途端、相手が動く。頭を大きく振って黒髪をしならせて打ち付けてくる。それをナイフで受けつつ、視界の隅に見えたソレを拾って投げつけた。


 バンッ!


 空気が一気に弾けて、冷たい風が押し寄せてきた。それを風の術式で受け流しつつ、相手が吹き飛ばされて行くのを見た。

 液体窒素を閉じ込めたカプセルは、色々な所で使えるなと思いつつ、再度光の術式で照明を灯しながら相手を追いかける。


 濡れた髪に霜を付けながら壁へと叩きつけられたその姿は、やはり素体0107だ。俺は注意しながら近づいていく。

 そして口に何かを咥えているのを見て焦った。


「まて、それは餌じゃない」

「うー」


 動く事はできないのだろう、両手両足は投げ出したまま、咥えた物を噛み砕こうとしていた。

 俺が念動の術式でそれを取り戻そうと見えない手を伸ばすが、顔を覆う黒髪に触れた途端に霧散させられる。

 それが最後の引き金になった訳ではないはずだが、素体の口が力強く閉じられ、咥えていた結晶が噛み砕かれた。


「う、う、うぉ、うぉぉぉぉーっ」


 俺は我を忘れて素体へと掴みかかる。咀嚼して嚥下する口をこじ開けて、結晶を取り戻そうとしたが、飲み込まれた後だ。

 ならばと口に向かって水の術式を使い、大量の水を飲ませた後、膨らんだ腹を思いっきり殴りつけて胃の中の物を吐き出させた。


 キラキラと輝く結晶の欠片をかき集めていくが、そこにはもはや魔力を感じない。中へと封じていた魂ごと霧散していた。


「あ、ああ、ああぁぁぁ……」


 俺は嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。




「ユーゴ兄?」


 その声に我に返る。


「リリア、来るな。部屋に戻ってろっ」


 そう叫びながら俺は素体へと意識を向ける。腹を殴られ、くの字に身体を折っていた素体が、白い手をつき身体を起こそうとしていた。

 俺はそこへ駆け寄り、蹴りを放つ。もう素体などいらない。必要ない。こいつは殺す。

 頭目掛けて容赦なく振り抜く。しかし、一歩遅く素体は身体を起こして避けた。そこへ光の術式でレーザーを放つ。それを素体は頭を振ることで髪をぶつけてかき消した。あの髪が邪魔だ。全部抜く、頭皮ごと剥がしてやる。


 俺は髪を掴んで引っ張った。身体強化が打ち消されていくより早く、力を込める。その手を素体の白い腕が掴もうとしてきた。

 俺は髪を放して、身体強化を再構築しつつ素体の手を握る。体内の魔力溜まりをフル活性して、吸われる以上の魔力を循環させていく。短時間なら髪に吸われながらでも術式を維持できた。


 手を繋ぎ、相手を逃さないようにしながら左足で蹴りを放つ。それを素体は足でブロックした。さらにその足を右手で掴み、脇に抱えて固定される。

 俺は繋いだままの右手を引いて、相手のバランスを崩そうとしたが、それに合わせて俺の軸足となっている右足を払ってきた。


 仰向けになる俺に伸し掛かる様に倒れ込みつつ、抱えたままの左足を捻って膝を破壊。苦痛に顔をしかめた俺の鼻面に、頭突きを叩き込んできた。

 素体の頭と床で頭を挟み込まれる様になって、衝撃がモロに脳を揺らす。


「くあっ」


 思わず声が漏れるが、繋いだままの右腕を振って、素体の身体を壁へと叩きつけた。この手だけはしっかりと掴んでおかないと、相手に好き勝手にされる。身体強化があれば、力では負けない。

 左膝はかなり痛む。立ち上がるのは、不利になりそうだ。


 鼻面への打撃にどうしても視界が滲む。それに脳への衝撃で、世界が回る様な平衡感覚の異常を感じている。

 術式に乱れがないのは、脳裏に刻まれているおかげだろうか。ならばそっちを使う方が、勝機を呼び込みやすそうだった。

ホラーのはずが、バトルモノになってしまった……。

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