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思わぬ金のタネ

「そうだ、兄ちゃん。これ使えるかな?」


 俺が金策をどうしようかと考えていると、テッドがカバンから黒い塊を取り出した。もしやと思って魔力感知を試みるが、塊に触れた所で感知式が破壊される。

 続けて指先に小さな火球を生み出して投げてみると、やはり塊に触れると音もなく消えてしまった。


「ミスレインの鉱石か?」

「うん。おっちゃんが持たせてくれた」


 ウルバーンで採掘される魔力を遮断する鉱石ミスレイン。魔法によって成り立つこの世界で、魔力を通さず、分解してしまう鉱石というのは、利用価値の高い鉱石だ。

 例えば魔法陣で、魔力同士が干渉し合う状況でも、間にミスレインを挟めば干渉を消してくれる。そのために魔法陣の小型化、複雑化をしやすくして、様々な魔道具作成に役立っている。


 それは帝国でも共和圏でも需要がある素材だ。

 難点があるとすれば、魔力が通らないので、魔法では加工できない素材だという事。俺ではどうしようもない。


「売ってしまってもいいのか?」

「ああ。オレが持っててもどうしようもないし、美味いメシが食えるなら十分だ」

「十分だ」


 これはありがたい申し出だった。問題となるのは、どうやって捌くかだな。希少金属ではあるが、用途も特殊。宝石なんかと違って、売り先が限られている。


「魔道具屋筋が一番扱ってるか?」


 魔道具を販売している店から、製作を行っている方へと辿っていけば、買い取ってくれる人も見つかるかもしれない。

 テッドの手のひらに乗る程度の量だが、精錬前の鉱石。実際にどれだけの価値があるのかまでは分からない。

 安く買い叩かれない様に信用のある者と取引したいところだ。


 本来であれば鉱山の流通を取り仕切っている商会ギルドなどを通すのが安全なのだが、そういう組織はどこからの品なのかをはっきりさせないと扱ってもらえない。もし品質が悪かった場合にどう対処できるのか、今後の流通量はどんなものか。

 大きな組織というのは、その場めでの取引は扱わないものだ。


 なので手持ちを売るとなれば、個人で魔道具を生産している職人などをあたるしかない。店を構えている店なら、そんな悪どい取引はしないと思うが、そもそも怪しい品を取り扱う店となると、騙し騙されの世界でもおかしくはなくなる。


「一番は、職人根性を持ってる御仁だがな」


 金勘定に意地汚くない作りたい物を作る職人。そんな人なら良い物を言い値で買ってくれたりするだろう。ただそういう人は商人と直接契約を結んでいて、仕入れの煩わしさを丸投げできる代わりに、製作物を商人に引き取って貰っているはずだった。

 なので商人を通さずに、直接職人と会うなんてのは難しい。


「下町の工房を回ってみるか」

「おう」




 兄妹を連れて雑多な商店が立ち並ぶ区画へとやってきた。ウルバーンの下町は、貨幣経済自体が廃れていて物々交換がまかり通るバラック街であったが、共和圏の国境にある町なのでちゃんと経済が回っていた。


「こ、ここが下町なのかよ」

「ちゃんとした家ばっかり、だよ」


 兄妹がカルチャーショックを受けている。そして色々な商店に目を奪われていた。まず商品という概念から持ってないのだ。店先に並んだ品々を見て、自分の持ち物と交換できそうにないとがっかりする。


「外の世界じゃ、お金を払って物を買うんだ」

「お金……」


 情報端末の電子マネーで決済されるので、払うという感覚が掴みにくい気はする。なぜ通貨が必要なのか、物々交換だけだと成り立たない理由なんかも教えていく。


「と、土地にもお金を払うの?」

「門を通るのにお金?」


 動かせない土地の売買や、移動という形のない物にお金を払う。その感覚はまだ兄妹には早かった。


「金銭感覚はそのうち身につけて貰うとして……ここに入ってみよう」


 魔道具を扱う商店へと入る。日用的に使用する魔道具、コンロとか扇風機とか前世の家電を扱ってる様な店だ。

 売っている物も量産品。ウルバーンの中層で扱っていた様な品だな。帝国は領地ごとに独立した経済圏を築いている場合が多かったが、共和圏はもっと経済範囲が広い。

 大量生産された安価な品が共和圏全体へと広がっていく。メガメーカー同士での販売合戦で技術の進歩が促される感じだ。


 一方でやや高額な商品が隅の一角を占めていた。見覚えのない名前は、俺がいなかった12年で出てきた新規メーカーというよりは、この星ローカルのメーカーなのだろう。

 星固有の機能などを売りにしている品だ。

 例えば空気清浄機なんかは、惑星の大気成分の割合何かで微妙な調整が行われていたりする。科学的に成分を調べるというよりは、風の精霊の機嫌を損ねない作りという謳い文句だ。

 量産品はどうしても機微に疎く、ハイパワーで言うことを聞かせる作りなんだとか。なのでローカル商品は省魔力を売りにしている商品が多い。


 そうしたローカル企業なら素材の買い取りもやってくれる可能性が高いと踏んだ。

 テッドが渡してくれたミスレイン鉱石はそれほど量はなく、継続的に売りに来れる訳でもないので、買い取ってくれたら御の字というレベルではあるが。


 俺は製品のメーカーを情報端末で調べ、近くに工場のある企業を探す。ミスレイン自体を加工するには、魔法に頼らない施設が必要なので、売れる先は限られた。




 俺は兄妹を船に戻して、地元企業の工場へと足を運んだ。回転機構モーターの製造工場らしい。この世界のモーターは、風の魔力でファンを回すのが一般的だ。他にも重力を利用する振り子式などもあるが、機構が大きくなりがちで使える用途が限られる。

 モーターは風の魔力を利用するため、他の魔力と干渉が起こりやすい。そこを遮断するのに、魔力を通さない鉱石などが使われた。


「ふむぅ、ミスレイン鉱石ねぇ」

「はい、それなりの純度もあって使い出はあるかと」


 魔力の遮断能力を測るテスターで数値を確認しつつ、担当者は唸る。


「確かに性能は良さそうだが……この量ではねぇ」

「道中で拾えただけなので、今はこれしかないんですよ」

「これで良いものが作れたとしても、生産できないとねぇ」

「そ、その、研究用とか……」

「研究できても使えないとねぇ」

「そ、そこを何とか」


 などというやり取りで少し足元を見られた感じだが、一ヶ月の食費くらいの値段で引き取ってもらえた。


「続けて持ってきてくれたら、徐々に値を上げてあげられるんだけどねぇ」

「さ、探してみます!」


 成長したとはいえ、まだ17歳。社会で認められるには若い。はったりを効かせる事もできなかった。

 宇宙でゴミ拾いしている子供とでも認識されてるんだろうなとは思う。共和圏は人の行き来が帝国より活発で、その分トラブルなどで宇宙に物が撒き散らされる事もある。


 それらは方々へと散り、運が良ければ小惑星なんかに刺さって止まる。そうした物を回収して売る仕事というのもあったりした。

 軌道エレベーターで宇宙へと上がり、回収船サルベージャーに便乗して小惑星群へと向かい、ゴミ拾いをして回る。


 回収船が出るのは、近くで事故が起こった場合とかなので、船があるからといって小惑星群へと行っても金になる物があるわけではない。

 鉱石を買い取ってもらえる下地ベースがあっただけでも感謝だな。


「それよりも早く研究所跡へ向かうべきか」


 どうやって追手を撒いて移動するか、それが問題だな。

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