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第六話 やっぱり、それか

 浦島治夫、以下ハルオは、親せきたちと共に祖母の遺品整理をしていた。先ほどまで幼い従妹たちの面倒を見ていたが、彼女たちが遊び疲れて眠ってしまい、祖母のことも気になったので手伝うことにしたのだった。

「あ、なんだこれ」

 押入れの奥から古めかしい箱が見つかった。中には他のものと比べて新しいノートがあった。面白そうだと思って、何気なく開いてみる。それは、つい数年前に書かれたらしい、祖母の日誌のようであった。


 第二次世界大戦終結後、旧日本軍残党は帝国再興のために、日本の企業や政治、研究施設など、様々な分野に暗躍し、影から支配していた。その中でも力を入れていたのは、超人兵士の開発であった。核兵器が通用せず、社会に溶け込んで、圧倒的な戦闘能力で敵兵や兵士だけを蹂躙し、資源や領土、文化を占領し、さらに自国の守ることができる。それが求めていた兵士の理想であった。

 浦島ダイア博士。ありとあらゆる分野に精通している天才科学者。その中でも、生物学と超心理学においては随一であり、日本の誇るその分野に関する研究や特許、発見は、元をたどれば彼女に行きつくほどであった。

 彼女は政府関係に勤めている者と血の繋がっている孤児、例えば、愛人との隠し子のような都合の悪い子供、両親が殉職してしまった身寄りのない子供を使って、彼らを幼いうちから超人兵士にする研究を行っていた。非人道的な研究の末、それらしい成果をあげたのは三人の少女だけであった。

 共通点は、女性だということだった。いずれはもう一つの命を宿らせることができる肉体を持つ。特殊能力の負荷や改造は、出産と同じほどの過酷さと難解さを伴い、これに耐えられるのが少女だけだったと推測された。

 このまま研究を続けようとしたが、成功例が三人しかいなかったため、中止されそうだと知った。ふざけるなと怒りとプライドを糧に、さらに研究を続け、三人の遺伝子から血清を開発した。しかし、それは不完全なもので、超人的な力を与えることはできても外見に異常をきたしてしまう妖怪血清であった。外見が妖怪のようになってしまっては、潜入任務などに支障をきたすため、自分からこの計画は苛立ちのあまり凍結してしまった。

 超人兵士の開発をあきらめきれなかった彼女は、新たな計画を立案し、採用された。生まれつきの超人を訓練し、人間の姿をした妖怪にすることにしたのだ。

 生まれつきの超人の存在は確認されていたが、どんな言葉も通じる、世話した植物がよく育つ、動物と話せるなど、どれも帝国再興や実戦の役には立ちそうもない能力ばかりであった。


「へっぶし!」

「どうした、番長、風邪か?」

「いや、タイショウ。これはきっとおれたちのすごさを誰かがウワサしてるんだぜ」

 その頃、番長は舎弟と犬たちとたむろしていた。


 災害現場で保護された、この孤児は違った。複数の超能力の素養を持ち、どれも戦争の役に立つ能力ばかりであった。さらには人の役に立ちたい等という、非常に洗脳しやすい精神構造を持ち、父は公安に勤めていた殉職者で、母親は既に他界している。忠実な超人兵士にぴったりである。このような子をこの世に残してくれた父母、そしてこのような精神構造に育て上げた育ての母に感謝したいと思った。

 帝国再興の日にまた一歩近づいた。そう思った矢先、原因不明の病で、倒れた。


「お、お祖母ちゃん……⁉」

 ハルオは他の資料も慌てるように探ってみた。そして、実験台にされたと思われる少年少女の資料を見つけた。読んでみると、全員が死亡していた。三人の少女を除いて。

 小山内喜子。不老血清を乳児のうちに投与したことにより、五歳程で成長が停止。以後、不老の肉体を持つに至る。しかし、精神に無邪気な残虐性あり。恐らく、頭脳の発達も停止してしまったため、倫理観を学べなかったためだと思われる。

 羽水絵美。筋力強化手術を施した結果、華奢な外見とは裏腹に超人的身体能力を誇る。しかし、その余りある筋力を操るために脳の機能が集中しており、表情筋がほぼ停止している。

 結城波奈。摂取した食物の効果を最大限以上に発揮させ、超能力を発揮する。例えば、糖分を摂取すると脳に栄養が行き、テレパシーが使えるようになる。

 ハルオはそこまで読むと、笑いたくなるような泣きたくなるような感覚を得た。

(そんな、バカな! お祖母ちゃんが、こんなこと……!)

 カラコロ、カラコロ。

「本当だよ」

 飴玉を舐める音と甘い芳香、透き通るような声。開いている窓の方を振り向くと、そこにはどこかで見たことがある美少女がいた。そう、この寸前に、資料で見た少女であった。

「き、君はハナちゃん……?」

「うん。ハナ・ユーキ。よろしくね、ハルオ君」

「ど、どうも……。その、えっと、ほ、本当なの、改造されたの……」

「ひどい目に遭わされたよ、君のお祖母ちゃんたちには」

「ご、ご、ごめんなさい。その、えっと、おれのお祖母ちゃんが、君たちに……」

 カラコロ、カラコロ。

「本当に悪いと思ってる? まだお祖母ちゃんのこと、大事に思ってない?」

「ち、違うよ! ほ、本当だよ! 君たちには悪いことをしたと思ってるよ!」

「……そう。じゃあさ、お祖母ちゃんは殺されても仕方ないと思わない?」

「う……う、うん。お祖母ちゃんは、その、殺されてもおかしくない……」

 カラコロ、カラコロ。

「君はいい子だね。本当に。お祖母ちゃんの正体を知っても、まだ彼女の名誉を守ろうとしてるんだもん。まだ、お祖母ちゃんがいい人だと思ってるんでしょう? それで、君はただ僕に恐怖しているだけ。もしかしたら殺されるかもしれない。それで助かろうとして謝ってるんでしょ?」

「そ、そんなことないよ!」

「本当にそう思ってる? じゃあ、ボクが君のお祖母ちゃんを殺したとしても、許してくれる?」

「……え?」

「ごめんね。今日は、君の大好きなお祖母ちゃんを殺しちゃったことを謝りに来たんだ」

「き、君が、殺したのか? お祖母ちゃんを……」

「うん。だけど、許してくれるよね。申し訳ないと思ってるならさ」

「だ、だ、だけど、お祖母ちゃんは、きっと、命令されただけで……こ、殺すんなら、黒幕の方を……」

「もうやったよ。全員。一人残らずね」

「ぜ、全員?」

「うん。だけど、まだやり足りないんだ。ねぇ、本当に申し訳ないと思ってるなら、ボクらに協力してくれない?」

「な、なんで、なんで君みたいな人殺しに……」

「君のお祖母ちゃんはもっと殺したよ。しかも、ボクらみたいな子どもをね。ねぇ、なんでボクらみたいな子どもたちが、昔の戦争で負けた恨みつらみに巻き込まれないといけなかったのかな? そんな君のお祖母ちゃんみたいなひどい大人と、ボクらみたいな可哀そうな子供の命、どっちの方が尊いと思う?」

「……うう、そ、それは……」

「そうだよね。だから、この世界を破壊しようと思ってるんだ。あんな大人たちが創った世の中なんて、あっていいわけがないし、素晴らしいものがそんな大人たちのものなんて納得できないもん。だから、奪う。壊して、奪う」

「せ、世界を破壊、う、奪う?」

「そう。どんなに時間をかけてもね。幸い、その方法には当てがあるし、軍団も用意できそうだしね」

「そ、そんなこと、本当にできると?」

「うん。だって、ボクらは戦争の後からずっとこの国を支配していた奴らを皆殺しにしたんだよ? 君のお祖母ちゃんとかね」

「……さっきから、何なんだよ、おれのお祖母ちゃんを悪者みたいに……君にとっては、確かに悪者だよ。だけど、おれにとっては……」

「けどさ、それって君の幻想だよ? ちゃんと話したことないでしょ? 話しかけてただけ。寝たきりの君のお祖母ちゃんのところには、君以外誰もお見舞いに来なかったよね? きっと、家族に対しても、そう言う人だったんだよ。ひどい人だったんだよ」

「だ、だけど、だけど……」

「だけど、君のお祖母ちゃんが生み出したボクらがいい世の中を創ったらさ、君のお祖母ちゃんも偉業を成し遂げた、君が尊敬するような人に成れるんじゃないかな?」

「……な、何が言いたいんだ?」

「君が、お祖母ちゃんの罪を償って、お祖母ちゃんを偉人にするんだよ。協力して、世界を破壊するのに。そうすれば、新しい世界を創れる。全てボクらのモノ」

「おれに何をしろと……」

「君のお祖母ちゃんが作っていた、ボクらから生み出された妖怪血清。これを作ってほしんだ」

「そ、そんなこと、出来るわけが……」

「君にも作れるよ。何より、君は偉大な博士の孫だもの。それに、ボクに協力しないと、お祖母ちゃんは悪人のままだし、君はその悪人の孫ってことになるよ?」

「そ、そんな……」

「お願い。これから生きる子供たちのためだよ。協力して。ちゃんとご褒美もあげるから」

 ハルオはハナが恐ろしかったし、自分の祖母が悪人のままなのは嫌だった。

「わ、わかったよ。おれ、お祖母ちゃんを偉大な人にするよ」

 カラコロ、カラコロ。

「よかった。君を食べないで済んで。美味しくなさそうだもん」

「……は?」

「じゃあ、いい返事ができたし、最初のご褒美をあげるね」

 すると、ハナはハルオにキスをして、舐めていた飴玉を口移しした。

 その瞬間、ハルオは頭が痛くなった。その次の瞬間には、頭の中に、幼い時の記憶のように、妖怪血清の術式や、いざという時に備えての戦闘技術が身についていた。そして、この世界を憎んでいて、ハナの考えに賛同していた。

「じゃあ、お願いね。浦島博士」

「……うん」


 ツバサは透明少年に人気のない綺麗な川の近くまで連れて行ってもらい、捕まっていた時の事を話して楽になっていた。透明少年は静かに頷いて寄り添っていた。

「ひどかったね……。ごめん、僕のせいで……。手、本当に大丈夫なの?」

「おう。ほら見ろよ?」

 ツバサは撃ち抜いた方の手を見せてきた。透明少年が優しくその手に触れてきた途端、何故かドキッとしたが、次の瞬間には気持ちが落ち着いていた。

「……本当だ、本当に治ってる」

「な? それに、お前は悪くねぇよ。あいつらが悪いんだよ。……それにしても、これからどうしよう」

「……僕が君を助けるよ。今度こそ、今度はもっと、もっと……」

「……え? だ、だけど、だけど……」(なんだろう、いつもならはっきり話せるのに……。なんか、言葉が思いつかない)「こ、これ以上、お前に求めるわけには……」

「僕は、君に生きていて欲しんだ。幸せになって欲しんだよ」

(オレ、お前と一緒なら、なんか、もう、どうでもいい気がしてたんだけど……)

「ツバサちゃん? だ、大丈夫?」

「え……い、いや、その……」

「ツバサちゃん」と、透明少年は彼女を見つめた。「君なら今の状況からでも、幸せになれるよ。僕も一緒にいる。二人で幸せになろう」

「……ふ、二人で、幸せ……⁉」(え、なんだよ、それ⁉ まるで、こ、告白⁉)

「君が、誰かとの関り方を教えてくれたんだ。僕、一人でいたでしょ、いつも」

「……えっと、ああ。寂しそうにしてたから、お前に話しかけたんだ。その、助けたくて」

「うん。僕は、人との関り方がわからなかったんだ。怖かったんだ、誰かと一緒にいることが、誰かと仲良くなることが」

「……⁉ 相棒……」

「……一人での過ごし方はわかってたつもりだったけど、みんなとの過ごし方はわからなかった。だけど、君が教えてくれたんだ。とても、嬉しかった。生きる希望と誰かと関わろうと思えるほどの勇気が湧いたんだ」

「お、おう……」(なんか、そんな大げさなのことしたつもりないんだど……)

「だから、今度は、僕が君を助ける。今度こそ。みんなのところに帰して見せる。もっと強くなるよ」

「……相棒」と、ツバサは思わず笑顔になってしまった。「ありがとう、本当に。だ、だけど、だけど……ぐす、ううっ……」

「ツバサちゃん?」

「オレ、みんなのところには、戻っちゃダメなんだ……戻れないんだよ……。もう、戻りたくないんだよ。怖いんだ、無理なんだよ……。オレ、お前みたいに強くない……。ごめんな、オレ、勇気なくなっちゃったよ……」

 透明少年は、みんなに会うことの怖さを分かっていた。ツバサの恐怖も分かっていた。彼女は元々みんなといるのが好きだったはずだ。しかし今は、それを上回るほどの恐ろしさを感じている。自分なんかよりも、とてつもない恐怖を抱いているに違いない。だが、どんな風に彼女を励ましたらいいか、わからなかった。

「オレ、どこか、遠くに行くよ」

「……え? と、遠くって、どこに?」

「みんなにも、お前にも、迷惑にならないところだよ。どこか、おう、人魚なんだし、海底にでも、暮らそうかな……海、好きだし……」

「そ、そんな……」と、透明少年は彼女をなんとかして引き留めようとした。

 川に飛び込もうとしたツバサの手を、ギュッと握って、こちらに戻そうと引っ張ってくる。

 透明少年のその優しさと必死さが、ツバサの決心を揺らがせた。これ以上彼といたら、もっと一緒にいたくなって、彼が危険な目に遭ってしまう。

 ツバサは乱暴にその手を振り払った。そうすると、少年は泣きそうな目で呆然としながら見つめてきた。

「じ、じゃあな!」

「ツバサちゃん⁉」

 ツバサは透明少年の静止を振り切り、川にサブンと飛び込んで、どこまでも遠くに逃げようとした。が、彼女は泳げなかった。

「うぎゃ~⁉」

「ツバサちゃん⁉」

 そして、いつかのように、またツバサは透明少年に助けられて、非常に気まずくなった。

「……泳ぎ方覚えるまで、一緒にいてくれないか?」

「うん。もちろんだよ」

 ツバサは透明少年が教えてくれた、イルカやクジラの泳ぎ方を参考に練習してみたが、全くうまくいかず、ただ疲れてしまっただけだった。

(オレ、一人でどこかに行くこともできねぇのかよ……)

「ツバサちゃん。今日は休もう? 一緒にいるから」

「……おう」

 二人は寄り添っているうちに眠ってしまった。


 その頃、五郎と六太は停職中なのに警察署に赴き、血だらけの幼女を保護していた。

「ど、どうする?」と、六太。「他にこの娘に出来ることねぇかな?」

「ど、どうするって言ったって」と、五郎。「これでおれらの出来ることは終わりだろうが」

「いや、だけどさ、せめて家に入れて洗ってあげれば……」

「それでこそ、事案じゃねぇか! 犯人になっちまうだろ!」

「だけど血だらけで不潔だろうが、病気になったらどうするんだよ!」

「けど、証拠とかがなくなっちゃうじゃねぇか! 誰の血かわかんないしよ、もしかしたら犯人の血かもしれないしよ!」

「いや、なんでだよ! どちらかと言えばあの女の子が返り血浴びてる感じじゃねぇか!」

「いや、それでこそ可笑しいだろ! あんな小さな女の子が誰か殺っちまうわけないだろ。つか……事情聴取した方がいいんじゃないかな、何があったか訊いといたほうが……?」

「いや、それでこそ、そんなことできるわけないだろ、放心状態なんだぞ!」

 キコは、血だらけで椅子に力なく座りながら、天井を見ていた。

「てか、みんなどこに行ったんだよ⁉ いくら人手不足とはいえよ……」

「みんなも人魚探しに行っちゃったんじゃねぇの?」

「お兄ちゃん……兄ちゃん、にい……にいぎょ……人魚ちゃん!」

 突然、保護した幼女がピョンッと椅子から飛び上がったので、二人は驚いた。

「うお、六太! 急に元気になったぞ!」

「おお、よかった! やあ、お嬢ちゃん。おれらは五郎と六太。警官なんだ」

「何があったのか、教えてくれるかな?」

 キコは二人の停職中の警官を見ると、ニヤッと笑った。

「お兄ちゃんたち、警官なら強いんでしょ?」

「え、いや、まあ、そうかな……」

「じゃあさ、じゃあさ、警察さんなら、武器もいっぱい持ってるよね?」

「そ、そうかな? うん、あるかな?」

「おい、六太……うっ⁉」

 すると、驚愕の事態が起こった。すぐそばにいたはずの五郎が、小さなキコの一撃で壁にヒビが入るほど打ち付けられてしまったのだ。かと思いきや、起き上がろうとした五郎に俊足で近づいて、その首をつかみ上げた。

「ご、ご、五郎?」と、六太はそちらを恐る恐る振り向いた。

 先ほどまでは可愛らしい、守ってあげなければならない幼女だと思っていた。しかし、今は、人間ではない、人間の姿をした化物だと思っていた。

「え、おお、ああ! こっちが五郎お兄ちゃんか? へぇ、弱っちいのは全員同じに見えるからわからなかったよぉ~」

「な、何者だ、き、君は……五郎を、離せ!」

 するとキコは、隙を見て抵抗しようとした五郎を、首から頭に投げて持ち直し、床に叩きつけた。そして、その血だらけの顔を、六太に笑顔で見せつけた。

「えっと、あ、五郎お兄ちゃん! 六太お兄ちゃんを放して欲しかったら、武器があるところまで案内してくれないかな? あとあと、警官のみんなも総動員して、人魚ちゃんを探してほしいな~」

「な、なんで、お、おおお、お小遣いが、欲しいのかい? なら、あげるから……」

 すると、キコは、ダランと下がっている五郎の腕を踏みつけて、メキメキと砕いた。

「や、や、やめてくれ! ぶ、武器のところまで、案内するから!」

「へへ、ありがとう、えっと……六郎、五太郎……? まあ、いっか。お兄ちゃん、ありがとう!」

 六太はなぜか誰もいない警察署を今さら不気味に思いながらも、警察署の地下にある武器庫まで歩いていった。後ろには満身創痍の五郎を引きづっているキコが楽しそうについてきている。

「フッフフッフ、フ~ン! どんなオモチャ、チャカチャカがあるのかな、楽しみだな~!」

 そして、六太は様々な事態に備えた武器が保管してある武器庫までたどり着き、その扉を開けた。

(なんで、開いてるんだよ⁉ 武器のケースまで⁉ 何がどうなってるんだ!)

「お~、すっごいね! どうせ警察さんのだからって期待してなかったんだけど。ねぇ、ねぇ、お兄ちゃん、この中でオススメってある?」

「そうだな~。……これだ!」

 六太は、容赦なく保管庫から取り出したマグナムで、正確にキコの頭を撃ちぬいた。はずであった。彼女は、傷一つつかず、まだ立っていた。

「え……⁉ うがっ⁉」

 いつの間にか俊足で迫っていたキコは、その柔らかくて小さな手で、手に持ったマグナムごと、手をバキバキと砕く。思わず悶絶して、六太はうずくまってしまった。

「アハハハハっ! これで二人ともお揃いだね!」

 すると、暗がりの廊下から、足音が聞こえてきた。

 カシャシャシャ! 

 スマホの連射音が聞こえた方を見ると、もう一人キコと同じような気配を放つ無表情の少女、エミがスマホを自分たちに向けていた。

「あ、エミお姉ちゃん! 人魚ちゃんはどうしたの? あ、もしかして、逃げられちゃったの~?」

 エミは無表情だったが、気まずそうにうなずいた。

「アハハハ、エミお姉ちゃんはドジだな~。まあ、アタチもお兄ちゃんに逃げられちゃったんだけどね~。アタチたち、仲良しだね! だけど、これで汚名返上出来るね! アタチは武器をたくさん手に入れたし、エミお姉ちゃんは警察さんたちやっつけたみたいだし」

 それを聞いて、六太は青ざめた。

「お、お前ら、みんなを、どうしたんだ?」

 警察署内の二人が見えない暗がりでは、昨晩から警官たちが恐怖に引きつった顔をしながら倒れていた。援軍を聞きつけてやってきた警官たちも、次々と倒されていた。住民たちは気づいていないが、街は無法地帯であった。

「あ~あ、アタチも参戦したかったな~」

 そう残念そうに言うキコに、エミは彼女を見つめながら地上に通じる天井を指さして、耳を澄ませてと、仕草をした。

「え? なに? ……あ、ホントだ! 聞こえる、聞こえる!」


 警察署から、市役所に連絡は入っていた。謎の少女の姿をした怪物に占拠されたと。

 街中に、避難命令のサイレンと放送が鳴り響いていた。人魚探しに当たっていた市役所の職員たちや消防隊など街を構成している者たちは、家々を回って避難を促していて、街中が大騒ぎだった。

 その頃、市役所では。

「市長、逃げましょう!」

「おれはみんなが避難するまで動かないぞ」(こんな事態になったら、おれの面子が立たねぇ! 死んだ方がマシだ!)

 ツバサの家には、フラフラになりながら世帯主が帰って来ていた。

「お、おい、お前、避難するぞ!」

「な、何言ってるのよ! こんな時に、ツバサはいまだにどこかで泣いてるかもしれないのよ! あんな姿になっちゃって……」

「ああ。おれが探しておくから、家に帰ってろ……」

「あ、あなた、ここが家なんだけど……」(ダメだ、病んでる! アタイが何とかしねぇと、ツバサが帰って来てもどうしようもならねぇ!)「わ、わかったから、さあ、行きましょ!」

 その頃、不良と野犬軍団。

「よっしゃ、今だぜ、タイショウ、てめぇら! 街のヤツらがいなくなってる隙に、人魚を見つけんぞ!」

「番長、まだやるんすか? もう人魚も血滴り合羽も連写ギャルもイヤっすよ!」

「いや、だけど、連写ギャルはもう一回見たいかも」

「おれも!」と、パグ副官が言った。

「ワンワン!」と、チワワ大将は気づいた。「みんな、警戒しろ! でっかい何かが来るぞ!」

「なんだと……うげ、本当だ⁉ 自衛隊じゃねぇか! 何があったんだよ⁉」

 番長のいう通り、武装を施した自衛官たちを乗せたトラックが、ガタゴトと音を鳴らしながら、少女に占拠された警察署に向かっていた。


 警察署内。

「アハハハハッ! アタチたちをこんなにした奴らじゃん! 行こ行こ、エミお姉ちゃん! アイツら全員ぶっ殺してこようよ!」

「お、おい、待て……うがっ⁉」

 追いかけて止めようとした六太だったが、エミに蹴り飛ばされた挙句、気絶している五郎の上に倒れてしまった。

「アハハハハッ! 本当に仲良しだね、お兄ちゃんたち! じゃあ、行ってきま~す!」

 そう言うと、二人は突撃してきた自衛官たちを倒しに行ってしまった。

 地上は地獄絵図となった。報告で聞いた、たった二人の少女に向けて機関銃の弾丸が放たれるが、こちらに跳ね返ってくる。そして、今までの苦しい訓練をあざ笑うかのように、少女たちに蹂躙されていく。手を銃火器ごと砕かれ、撤退しようと駆け出した足を折られ、戦車はひっくり返されて、平気の破片をその鍛え上げた体に食い込まされる。共に苦しい日々を潜り抜けてきた仲間たちと丁寧に整備してきた兵器たちが蹂躙されていく。

「……お、おい、六太……」

「あ、ご、五郎……⁉ すまん、おれ、おれは……」

「な、なんで、だよ、おれなんか、ほっといて……逃げればよかっただろうが……!」

「何言ってるんだよ、お前を見捨てるなんてできねぇよ! 一緒に兄貴たちみたいに立派な警官になって、奈々子と八郎、九太郎たちを大学に行かせんだろ! 忘れたのかよ!」

「……⁉ へ、へへ、そうだったよな……けど、もうどっちもダメだな」

「……けど、おれも一緒に地獄に付き合うぜ……」

「ありがとうな、六太」


 街が閉鎖されて数時間後。

「……こ、こちら、第七部隊……至急、応援を……」

 ドガン、バキッグシャ! 命からがら、何とか一人脱出した自衛官の生き残りだったが、寄り掛かっていた壁を貫いた小さな手に掴みだされてしまった。

「お兄ちゃん、隠れちゃダメだよ~。立ち向かってみんなを守るんじゃないの~?」と、キコは彼を掴み上げて顔を覗き込んだ。「うわ~、すごい顔じゃん! アハハハハッ! ねぇ、エミお姉ちゃん、いい感じの顔だよ?」

 叩き潰した戦車の山の上で、スマホの中のフォルダを整理していたエミだったが、首を振った。

「え~、なんで~? およ、あ! 本当だ! もう死んでた! 生き生きしてないから気にいらかったんだね!」

 カラコロ、カラコロ。飴玉を舐める音と甘い芳香。

「あ、ハナお姉ちゃん! 見てみて! 全員ぶっ殺したよ~!」

 駆け寄ってきた二人と街の惨状を見て、ハナは溜息をついた。

「二人とも、大暴れしすぎ。勝手にこんなことしちゃダメって言ったじゃない?」

「あ、ご、ごめん、お姉ちゃん……我慢できなかったの……。だ、だってさ、エミお姉ちゃんが人魚ちゃん逃がしちゃうんだもん! だから代わりにさ……」

 エミは無表情のままビクッとして申し訳なさそうに、悲しそうにうつむいた。キコはそんなエミを見てニヤリと笑った。

「そうなんだ……。ちょっと残念かな。まあ、人魚ちゃんは後でも取り戻せるから、心配しないでいいよ。だけど、これからはちゃんと相談してね? ボクには正直でいいんだよ?」

「ごめん。ハナ。人魚、逃がしちゃった」

「エミお姉ちゃんが喋った!」

「言い訳にしかならないけど、彼が人魚を助けに来たんだ」

 カラコロ、カラコロ。ハナは微笑んだ。

「やっぱり、そうか……。キコちゃんから知らせを受けたときね、確かめに行ったんだけど、ふふ、思った通りだったよ。彼は復活した。完全までとはいかないけどね」

「やっぱり、戻ってきたんだ、わ~い!」と、キコは興奮で頬を赤く染めるほど嬉しがった。「やった~! また殺せるんだね!」

「うん、そうだね。キコちゃん。彼も人魚ちゃんも、ボクらのもの。この世界もね」

「で、で、で! 今度は誰をぶっ殺して、何を壊せばいいの?」

「ヤル気満々で嬉しいな。そんなに楽しい?」

「うん! 殺すの大好き! だけど、なんかもっと楽しいことがあるんだよね?」

「うん、もちろんだよ。それじゃあ、さっそくだけど、アイツらを殺してくれない?」

 街に、さらなる自衛隊が派遣されてきた。

 それからたった数日後。

 街は地獄と化した。たった三人の少女の出現によって街中の住民が追い出され、彼女たちに対処するために自衛隊が派遣された。しかし、ほとんど無意味であった。

 街の中は無法地帯となり、もはや日本の中にある新たな国となっていた。

 街の周りには停止線が貼られ、自衛隊によって警備されていた。毎日のようにマスコミがやって来て、近況を報告していた。運悪く避難できなかった人々や自ら街に残った人々の安否が心配されていた。

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