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第一話 いつの間にか、こうなってた

新人賞の一次選考で落ちた作品です。

ですが、愛着がある作品なので投稿してみます。

 ツバサはいつも元気で無邪気、優しくて友達も多い、どこにでもいる普通の中学生の女の子。いつも楽しく、学校でも家庭でも楽しく幸せに過ごしていた。

 だが、最近は何か満たされない感覚がする。ぽっかりと心に穴が開いた感じとは、よく聞くが、このような感覚なのだと思った。

「どうしてるんだろうな……」と、ツバサはボソボソとつぶやいた。

「ツバサ、なあ、ツバサ?」

「うお、はい! 寝てません!」

 すると、ツバサが急に叫んで立ち上がったので、教室中のみんなが笑った。

「すまない、君が読む番だったからな……」

「お、おう、ありがとう」と、ツバサは顔を真っ赤にしたが、次のページを読み始めた。

 しかし、読みだしたところがとっくに過ぎたページだったので、また隣に座っている男装がよく似合う少女、宝塚に教えてもらったのだった。

 その日の昼休み。

「お、カナ。どうしたんだよ、元気ねぇのか?」

「あ、ツバサちゃん、えっと、ですねぇ……」

 クラスメイトの小柄な少女カナは、いじめられているらしかった。それを知って、ツバサは怒りを感じた。

「金は持ってきたわよね?」と、いじめっ子のアオイ。

「お前らに渡すのはこれだ~!」

「え、は⁉」

 いじめっ子のアオイとアカネが見てみると、ツバサが教室の椅子を振り回して追っ払おうとしてきたのだった。

「な、なんだ、アイツ! カナ、お前、こんなヤバいのとつるんでたのか⁉」

「も、もう無理だわ……」「こんなことやめるわ! に、逃げるわよ!」

「おう、どっか行きやがれ、弱い者いじめ!」

「あ、ありがとうございますぅ……ツバサちゃん!」

「おう! またなんかあったら、言ってくれよな。オレがやっつけてやるから!」

 その日の夕食の時、いじめを食い止めてみせたことを、両親に話すと父は泣いて誇らしげに思っていたが、母は苦笑いしてしまった。

「ツバサ、人助けもいいけど、テストは大丈夫なの?」

「……うげ⁉ だ、だ、大丈夫だぜ、よ、わよ……」

 その次の日、友達を集めた。

「みんな、次のテストに備えて、勉強会しようぜ!」

「え~、遊ぶんじゃないの~?」と、ギャルのレナ。

「じゃあ、君は来ないのか?」と、宝塚。

「いや、行くけど~」

「ツバサちゃんとなら楽しくやれそうですぅ」と、カナ。

「おい、ちょっと待て!」と、アオイ。「どの面下げてきた! アタイはいじめっ子だぞ!」

「自覚あったんだ、アンタ?」と、その腐れ縁のアカネ。

「アンタも一緒にやってでしょうが! てか、なんでアタイたちを誘ったのよ!」

「だってさ」と、ツバサ。「仲良くなった方がいいだろ? お前がしたことは悪いことだけどさ、コイツも仲直りしたいって言ってたし、な?」

「はい!」と、カナは本心から言った。「わたし、あなたたちがしたこと、許しますぅ。今までのことなかったことにして、一緒に勉強しませんかぁ?」

「「……あ、うん」」

「簡単だな……」

「意外と素直じゃ~ん」

「よし、このみんなで力を合わせて、百点取るぞ~!」

 お~! こうして、今日も、ツバサは一つの対立を仲直りさせて、また友達が増えた。

「ダメだ、全然わかんない……こんなに頭があるのに……」と、思わずツバサは言った。

「この調子じゃ、みんなで合わせて百点だな」と、宝塚。

「いや、せめて、全員が赤点にならないように、オレは諦めない!」

 血涙を流すような勢いであるツバサの、そのものすごいやる気に押されて、みんなもお互いに教え合って勉強した。そして、そのおかげか、なんやかんやで、みんな赤点は余裕で免れて、高得点が取れた。

「よし、次は、修学旅行だ!」

 ツバサは、学級委員長でも修学旅行実行委員会でもないのに、率先してみんなを引っ張って行った。そして、勉強を一緒に頑張ったみんなで班になった。

「……あれ」

 ツバサは、いつものみんながいるのに、誰か一人足りないと、再び感じていた。

「どったの~、ツバサっち?」

「寂しそうな顔だな」

「え、あ、いや、さ、どこかで仲間外れにされているようなヤツ、いねぇかなってよ……」

「はあ? そんなことするヤツ、いるわけないでしょ」と、元いじめっ子のアオイが言う。

「アンタが言うなよ」と、アカネ。

「お前もだよ!」

「だけれど、ツバサちゃんは優しいですねぇ」と、カナは微笑んだ。

「だけどさ~」と、レナは気だるげに言う。「せっかくならもっと派手な所がよかったな~」

「けど、このメンバーで行けばどこでも楽しいと、オレは思うぜ」

「まあ、そうだな」と、宝塚が微笑む。「みんなでいて、楽しくないことなかったな」

「おう! 楽しみだな、広島」

 だが、なんだか、寂しい。満たされない。いつもと同じ、楽しく、普通の少女らしく過ごしているはずなのに、まだ幸せじゃない気がする。

 楽しく愉快に旅行して、部屋に泊まった。女の子がみんなで集まって、寝る前にすることは、大体こうと決まっている。それをレナが切り出した。

「みんなはさ~、どんな男の子が好き~?」

「直球だな。……ふむ、私は考えたことないな? 異性と付き合うことが想像できない」

「はぁ?」と、アオイ。「アンタは、つまんないわね? アタイは、イケメンで喧嘩が強くて、それで、それで~……」

「高望みし過ぎだろ」と、アカネ。「せめて、アタシみたいに金持ちくらいにしなよ」

「うるせぇ! てか、お前もな!」

「ワタシはですねぇ」と、カナが変な笑い声を含みながら言った。「恋愛は男の子同士がするものだと思ってますぅ~。えへへ~」

「こんな所で性癖を暴露するとは、大胆だな……」と、宝塚は苦笑いした。

「えへへ、あ、読みますぅ? ワタシの最高傑作ですぅ」

「見せて! もう、いじめないから!」

「当たり前だろ! ……アタイにも」

「アンタらに訊いたアーシがバカだったわ~。って、一番聞きたい人が黙ってるんだけど?」

「べ、別に、好きな人とか、いねぇから! 好きじゃねぇから!」

 ツバサが顔を真っ赤にして飛び起きたので、みんなは少しポカンとした後、笑い転げた。

「ほ、ホントだからな! いないからな!」

「え、誰~? どんな人なん~?」

「クラスにいる子かい?」

 みんなは興味津々な様子で見つめてくるので、ツバサはガバッと布団を被って眠ろうとしたが、みんなはそうはいくまいと聞き出そうとした。

「うわ~⁉ いねぇ、いねぇ! いねぇから! 男子なんて、全然好きじゃねぇから!」

「これは、絶対にいる!」

 しかし、そのうち大騒ぎになって楽しい枕投げ大会になったので、みんなで先生に怒られて、遊び疲れて眠った。

 広島への修学旅行最後の日。みんなで原爆ドームを見に行った。

 ツバサは、みんなが退屈そうに、あるいは義務的に見ている中、何故か彼女は見入ってしまった。

 小学校の休み時間、彼が歴史の教科書に載っていた、あの写真に見入っていたのを思い出した。その頃の二人にとっては、ただの写真だったが、今、それは現実にある。

(みんな、気がつかないまま、死んじゃったんだ……)すると、涙が流れてきた。(オレも、死んじゃったら、このまま死んじゃったら、会えないのかな、二度と、会えないのかな?)

「ツバサちゃん? ど、どうしたのですかぁ⁉」

 いつも笑顔でいるツバサが泣いていたので、みんなも学校の先生までも心配して、声をかけて、寄り添ってくれた。その優しさも嬉しくて、そのわけのわからない不安と悲しさとが入り混じり、また涙があふれてきた。

 修学旅行最後の日に、みんなに心配をかけて、申し訳なく感じた。その日は先生から連絡を受けた両親が迎えに来てくれた。車を運転しながら、父はまた泣いていた。母は父を叱りながら、ずっとツバサのそばで、眠りにつくまで寄り添ってくれた。

 やっぱり、心にぽっかり穴がある。これの正体が今頃はっきりした。彼が、自分のそばにいない寂しさだ。彼が恋しい。今さらになって。

 幼い時に仲良くしていた彼のことを思い出してしまう。いつも一緒に遊んでいたのに、突然いなくなってしまった同い年の少年。日に日に、彼への思いが強くなっている。今、彼はどうしているのだろうか? 心配でたまらない。そんなこと思えるほど、自分は強くないはずなのに。例え、救いを彼が求めていたとしても、自分にはどうしようもないのに。

「会いたいな……」

 はっきりした理由がわからないが、彼と過ごしていた時間が、ものすごく幸福だった気がする。幼い時の記憶はほとんど忘れているのに、彼の存在だけはハッキリしていた。彼と具体的にどんな遊びをしたかとかは、はっきり思い出せない。ただ、楽しかった。幸せだった。彼が大好きだった。なぜ好きなのかもわからない。

 訳が分からなすぎで泣けてきて、そのまま眠った。

 その次の日は休日だった。みんなが昨日のツバサの様子を心配して尋ねて来てくれた。

 すごく嬉しくて元気も出てきたので、そのまま流れでみんなと遠出して遊びに行った。

 そんな、他愛もないが幸せな日々を、これからも過ごしていくのだろうと思っていた。


 今日は何かがおかしい。両足に違和感がある。バッと思い切って布団をめくってみると……⁉

「うぎゃ~⁉」と、思わず叫んでしまった。

 下半身が、足が、イルカのような尾ひれになっていたのだ! ツバサは、どこにでもいる普通の可愛い女の子から、どこを探してもいない可愛い人魚の女の子に変身していたのである。

「な、なんだよ、これ⁉」

「ツバサ、どうしたの⁉」

 その声とともに、お母さんが階段を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。

「ヤバい、ヤバいって……」

 気がつくと、ツバサはなぜか家から出ようとしていた。

 そばにあった合羽を羽織って、窓を開け放ち、二階の自室から家の庭にあるトランポリンに飛び降りていた。そして、それに弾かれて歩道にスタッと着地した。

「うお、オレ、すごっ! 誰か見てくれたかな?」

 いっぱいいた。そこら中から凄まじい視線を感じる。恐る恐る周りを見てみると、ポカンと口を開けたり目を丸くしたりしている学生たちがいた。平日の朝の通学路。学生がいるのは普通である。

「つか、オレ、寝坊してたのかよ⁉」

「しゃべったぞ!」

 その歓声とともに、周りの学生たちは火が付いたかのようにスマホやらカメラやらを取り出して、パシャパシャカシャカシャとツバサの写真を撮り始めて、世界中に拡散してしまった。

「うわああああっ⁉ 肖像権って知らないのかよ⁉」

 ツバサは立てないので尾ひれをズルズルと引きずったりペチペチと跳ねさせたりしながら何とか逃げようとした。

 その不思議な生き物の行動に驚いた学生たちは本能的に道を開けていたが、スマホで撮影することはやめなかった。

「どうするんだよ! 畜生! うわ、なんか汚い言葉使っちまったじゃねぇか! と、とりあえず、隠れる場所、隠れられる場所……」

 ツバサは体中から汗を流し、道に跡を残しながら、必死に隠れる場所を探していた。

 もう疲れて動けない。水が欲しい。

「はぁ、はぁ……。やっぱり、人魚だからかな……」

 ふと、顔をあげると、掲示板が目に入った。

「……うわ、なんだよ、これって……」

 そこには、人魚に懸けられた賞金を知らせる張り紙があった。

『人魚目撃情報募集中!』『懸賞金一億円!』『捕まえたら観光課まで!』エトセトラ、エトセトラ……。

 ツバサの住む町は妖怪やらUFOなどのオカルト的なものの話やウワサが多く、この張り紙も市がそれにあやかって企画したいくつもの町おこしの一つであったが、捕獲対象であるツバサには恐怖でしかなかった。

「お、オレ、捕まったらどうなるんだろう、どこか、研究所とかに連れてかれるのかな……も、もしかしたら、た、食べられたり……ま、まさかな。大体、こんなの本気にするわけないし……」

「な、なんということだ……」

 また視線を感じた。また恐る恐る視線の方を振り向くと、人魚をはじめとした妖怪やら未確認生物が描かれたシャツやコスプレをした、いかにもという感じの格好をした人魚ハンターたちがいた。

「ほ、本当にいたのか⁉」

「すごい、感動的だ!」

(妖怪が好きな人なら、動物愛好家みたいに優しくしてくれるかも!)と、ツバサは楽観的に考えた。

「やった! これで賞金一億円だ!」

「結局金かよ!」

 ツバサは思わずそう叫んで、這いずり跳ねまわって逃げようとした。そして、必死に逃げた結果、本当に回ってしまった。

「あ……」

 坂道で勢い余って、足を踏み外し、ではなく、手も尾ひれも這い外して転んでしまい、グルグルと転がり落ちてしまった。

「どこのアニメだよ~! 誰か止めてくれ~⁉」

 その悲鳴を上げながら転げ落ちる物体を、止める者はいなかった。止める勇気やその判断が間に合う者が一人もいなかった。ただ、目撃者はたくさんいた。しかし、彼らも驚愕したり、驚いたりするだけであった。

 ツバサはそのまま、坂の先にある川にドボンと落ちてしまった。

「お、おい、落ちたぞ!」

 周りのみんなは思わず川に駆け寄った。

「あれって、もしかして人魚じゃね?」

「マジかよ、賞金一億円じゃん!」

「ただのコスプレだろ?」

「だったら、助けに行った方がよくない?」

「いや、あの感じはガチだと思う」

「川に落ちちゃったから捕まえられないだろ」

「ベラベラしゃべって……ないで、誰か、たす……た、助けて……」

 ツバサはそのまま、街の住民たちにただ眺められながら、川に流されていった。

 人魚になったが、尾ひれを使った泳ぎ方がわからなかったのである。


 真夏。晴天の下の涼しげな河川敷。今日はいつもより川の流れがとても速い。

 少年は河川敷でボーっと座り込んでいた。立ち上がることができなかった。両足に力が入らなかった。昨日、ひったくり犯を転ばせた足が痛い。

「お~い、誰か⁉ 助けて~!」

 同い年くらいの少女の助けを呼ぶ悲痛な声。その必死な声を聞いた途端、ハッとした。

「ま、待ってて……!」

 折れてしまいそうなほど細い四肢に力を込めて地面から立ち上がった。フラフラして太ももが腫れたかのように硬くなった感覚がしたが、踏ん張った。

 声のした方を見てみる。そこには世にも奇怪ものが目に入った。なんと、上半身が可愛らしい少女、下半身が美しい海洋生物、いわゆる人魚少女が川に流されて溺れていた。優しくて勇敢な誰かの助けを求めながら。しかも、濃い緑色の合羽だけを羽織っている。

「死ぬ! 死にたくない! 苦しい!」と、人魚の少女はただ川の真水を飲み込みながら、叫ぶことしかできなかった。

 透明少年は気がつくと、誰かもわからない奇妙な女の子を助け出していた。冷たくいつもよりも流れの早い川の中に入り、彼女を岸へ持ち上げていた。

「……だ、大丈夫?」

「た、助かった……ありがとう……は⁉」人魚少女は思わず喜びの声をあげてしまった。「あ、相棒……! お前が助けてくれたのか! 今までどこにいたんだよ⁉」

 ツバサには、気配だけで、自分を助けてくれたのがいつの間にかいなくなってしまった彼だとわかった。しかし、様子がおかしい。彼は着用している自衛官が着るような迷彩服以外、肉体が透明になっていたのだ。

 しかし、そんなことは、今はどうでもよかった。彼と再会できた。それが嬉しかった。

「……あ」少年は助け出した人魚少女から感じた気配の持ち主のことを思い出した。「ツバサちゃん? どうしたの、一体、なんで、に、人魚に……」

 自分のことはハッキリしないのに、目の前にいる人魚に変身してしまった自分の親友のことはハッキリしていた。どのような日々を一緒に過ごしたかまでははっきりしなかったが、彼女が友達で信用でき、なぜか透明である自分のことを認識できるのはわかっていた。そして何より、彼女のことが大好きであることはハッキリとしていた。

 なぜ、彼女のことを忘れていたのだ?

 気がつくと、涙が流れていた。

「ツバサちゃん、僕、僕は……」

「おい、落ち着けよ。何泣いてんだよ? そんなに嬉しいのか、オレに会えて?」

「う、うん……」

「……」ツバサはその返事に思わず胸にキュンとした感覚を覚えたが、何か話さなければと思って口を開いた。「きょ、今日は、朝から暑いな~。ま、まいっちゃうぜ~」

「うん。あっちに日陰があるよ。行こう」

「おう……あ」

 ツバサは立ち上がろうとしたが、自分の下半身が足から尾ひれに変身しているのを思い出した。

「あ、ぼ、僕が持ち上げるよ、掴まってて」

「え、お、おい……」

 彼の緊張で震えている細いが暖かい手が、美しい尾ひれと背中に触れた。思わず彼の透明な身に手を回してしまう。お互い緊張してしまっていた。

 透明少年はツバサを花嫁かお姫様みたいに持ち上げようとしたが、その細腕では抱き上げられなかった。

「お、おい、無理しないでいいよ。降ろしてくれ」

「ご、ごめん……力がなくて……」

「あ、待って。なんか、立てそうな気がする!」

「え?」

「よ~い、しょっ! ふん!」

 ツバサは両足を縛られた時と同じだと思いながら、その要領で立ち上がろうとした。すると、背中と尾ひれをピーンと張って、両手でバランスをとって地面の上に尾ひれで立つことができた。

「お、おお……!」

「やった! 相棒、立てたよ、お、うあ、うおおおっあっ⁉」

 すると、彼女はバランスを崩して前に倒れ込んだので、透明少年はサッと動いて焦りながらも彼女を受け止めた。が、支えきれなかったので、彼女に押し倒されるように倒れてしまった。

「ツバサちゃん、大丈夫?」

「うお、あ、ああっ⁉」と、ツバサは彼に覆いかぶさるように倒れているうえに、すぐそこに彼の心配している、目に見えないが顔があるのはわかったので焦った。「……あっ、相棒、お前こそ、大丈夫か?」

「うん。ツバサちゃんは大丈夫?」

「オレは平気だよ」

 ツバサはつい、表情は見えないが、自分を心配してくれている彼の顔を見つめてしまった。が、ハッとして赤面した。

「待って、今どくからさ……」と、ツバサは赤面しながらとどいた。

「ごめん、僕がもっと力持ちだったら……」

「……オレ、重かったか?」

「そんなことないよ」

「本当か? オレ、なんか最近、いろいろ、大きくなっちゃった気がして……」

「……うん」と、少年は彼女の俯いた横顔を見つめてしまった。「大きくなったね。キレイになったよ」

「……はっ⁉ な、何言ってるんだよ、突然⁉」

 赤面して彼を見ようとしたが、透明なので視線だけを感じた。思わず、本当にそこにいるのだろうかと不安になって、頬にそっと触れてしまった。

 彼がまるで病人の様にやせ細っていることに気づいて、彼のゲッソリとし痩せこけた頬に触れて見つめてしまった。見えないが。

「お、お前……大丈夫か? なんか、薄くなっちゃってるぞ。なんか、大変なことでもあったの? いや、お前も透明だし、薄くなったどころじゃないけど……」

「ないよ。そんなの」

 返事が早すぎるし平然とし過ぎてる。何かあったに違いないが、今の自分に何が出来るかわからなかったし、今はそっとしておいた方が彼のためだと思った。

「……。オレ、自分で這って行くから。お前は歩いていいぜ」

「大丈夫なの?」

「おう! 運動は得意だからな! 匍匐前進みたいなもんだろ」

「やったことあるの? そ、そんな技能が必要な生活してたの?」

「いや、そんなわけないだろ。オレは自衛官か何かよ。オレ、中学生だぞ?」

「そ、そうだね」

 二人はそんなに面白いことでもないはずなのに、笑ってしまった。

 透明少年は、両手と尾ひれで地面を這って進むツバサを気に掛けながら歩いた。

 服がひとりでに歩いて見える彼の足取りは軽かった。さっきまで歩くどころか、立ち上がれず、歩けたとしてもフラフラとしていたのに。彼女といる事実だけで嬉しかった。

「本当に、さっきはありがとうな。川で溺れてたところ、助けてくれて」

「えっと……」少年は何のことだか思い出せなかった。「あれ? ごめん、思い出せない……え、そんなこと、あったっけ?」

「え? ついさっきのことだろ?」

「ごめん。僕、最近忘れっぽくて……」

「そうなのか? ……そう言えば、なんであの時はオレのこと持ち上げられたのに、今は持ち上げられないんだろうな。火事場のバカ力ってやつか? 火事場どころか川だけどな」

「はは、ふふ、あ、ごめん」

「……! ……お前、やっぱ、もっと笑った方が良いぜ」

「わ、わかったよ」

 そんな会話をしているうちに、透明少年とその親友の人魚少女は河川敷にある橋の下に辿り着いて涼をとった。

「いや、ヤバかったぜ」と、人魚少女ツバサは簡潔にあのようなことになった経緯を語った。「朝起きたらこんなになってるの。なんかヤバいと思って勢いで家出して、川に落ちちゃって、ここまで流されちゃったんだよな。いや、マジで死ぬかと思ったぜ」

「……」透明少年は口をポカンと開けながら聞いていた。「た、大変だったね」

 人間とは別の存在に変身してしまった親友の姿を見てみる。上半身はいつもの彼女だが、下半身は確かに変身していた。その変身した下半身は魚というよりイルカのようなスベスベした尾ひれになっていた。

 彼女のために何ができるか考えようとしたが、考えがまとまらない。ただ、涙があふれてきた。彼女のことを考えると、ただ涙があふれてきた。

「な、泣くほどじゃねぇだろ」と、ツバサは動揺しながらも不安が落ち着いてきたのを感じながら言った。自分のために泣いてくれている。

 彼の姿が透明でも、彼がどんな表情をしているのか、見えないはずなのにわかっていた。

「何とかしないと……ど、どうしよう」

「さて、どうしようかな~」ツバサは次の言葉を自然と声に出していた。「けど、なんでかわからないけど、お前となら何とかなる気がするよ」

「ぼ、僕も!」

 透明少年は久しぶりに大きな声を出した気がした。人魚少女は少年が共感してくれて嬉しかった。いや、一緒にいるだけでただ嬉しかった。

 気がつくと、二人は意味もなく笑い合っていた。

 透明少年が再会した人魚の少女。彼女がこの物語のヒロインである。


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