08 王子様と決闘(後半)
一日三回、朝7時、昼12時、夕方18時に更新しておりますわ~!
読み飛ばしにご注意くださいませ~!!
と、いうわけで。
お庭に出て、決闘することになりましたの。さすがにブリジットは「おやめください」と止めましたし、それでも止まらないわたくしたちを見て、お父様たちを呼びに行ったのですけれど。
「おお、決闘かぁ。いいじゃないか、やってしまえ」
「そうねぇ。もう六歳ですもの、決闘のひとつやふたつ、経験しておきませんと」
うちの両親はこんな感じで、ブリジットだけが常識人で損しておりますわね。かわいそうに。
ヴァレリーさんも、ロラン様に「怪我だけはお気を付けください」と言ったきり、なにも口を挟みません。あちらも放任主義なのかしら。
ブリジットは諦めた顔で、訓練用の木剣を二本、倉庫から持ってきました。芯材にモンスターの角が使われていて、魔法の杖も兼ねているそうですの。
離れたところで準備するロラン様たちを横目で見ながら、ブリジットがこっそりとわたくしに囁きかけてきました。
「いいですか、レオお嬢様。"指先"は禁止です。というか、魔法はぜんぶ禁止です。身体強化だけで戦ってください。……いえ、身体強化だけでも危ないですね。直接攻撃も禁止です、狙っていいのは武器だけです。いいですね?」
「わかっておりますわよ。ちょっとムカついていたから、決闘を受けてしまいましたけれど、【飢餓】が暴発したら大変ですものね。なんなら、わざと負けても……」
「それはいけません」
意外にも、ブリジットは即否定いたしました。
「舐めてかかってくる相手に、実力の差をしっかりとわからせてあげるのも、淑女のマナーでございます」
あらステキ。わたくし、ブリジットのそういうところ大好き。
準備が出来たので、わたくしとロラン様はお互いに子供用の木剣を構え、五メートルほど離れて向かい合います。
……あら? ロラン様、剣を構える姿が、やけに様になっていますわね。レイピアを構えるような、フェンシング風の構えと言いましょうか。右手で剣をぶらさげているだけのわたくしとは大違いですの。
「ロラン様は幼いながらも剣術に関して天賦の才をお持ちです。アタシが剣術指南を担当しておりますから、強いですよ。レオノル様は、早々に降参した方がよろしいかと」
ヴァレリーさんがそう言って微笑みました。なるほど、自慢の弟子でもあったのですね。
「では――、はじめ!」
審判を務めるブリジットの号令がかかるや否や、ロラン様が木剣を鋭く振ります。
「風よ、集いて切り裂け……! "風の刃"!」
空を裂いた剣先の軌跡が、緑色に輝く弧状の刃となって、放たれましたの。つまり、これは飛ぶ斬撃――魔法剣!
「かっ……、かっけぇですの……!」
"指先"のコントロールすらできないわたくしとは大違い。きっと、ロラン様はロラン様で、たくさんの修練を積んでおられるのでしょう。
生意気なだけのクソガキではない、と考えを改めねばなりません。
しかも、わたくしの体を狙ってはいないようで……、「怪我だけはお気を付けください」は「相手にも怪我をさせるな」という意味も福音でいたようですわね。魔法でわたくしをビビらせ、降参させる心づもりなのでしょう。
"風の刃"の軌道は、わたくしの体から右に逸れており――あ、これ、わたくしの縦ロール狙いですわね。髪は身体強化の範囲外です。伸ばした髪を斬られてしまうのは嫌ですの。
ていうか、女の子の髪を狙うなんて、改めた評価を、元に戻さざるを得ないですわ。男の子って、髪の毛のこと過小評価しておりますわよね。
「えいっ」
「な……ッ!? お、俺の"風の刃"を叩き落した!?」
飛んできた斬撃を、剣を持っていない左手でぺしっと撃墜します。
……剣術は習っておりませんし、よく考えたら邪魔ですわねコレ。剣をポイと放り投げて、軽いステップ一歩でロラン様の懐まで潜り込み、右足で強く地面を踏みます。震脚で庭の土が凹み、ぐらりと地面が揺れますの。
「うわっ!?」
バランスを崩したロラン様の木剣を、「ふンぬッ!」と拳で殴ります。パァン、と破裂音がして木剣が砕け散りましたわ。
わたくし、【飢餓】が溜め込んだ魔力量に任せて、訓練のため日常的に――それこそ寝ているときすら身体強化を発動しておりますもの。
わたくしの膂力は、もはや、おゴリラ以上と言って過言ではありませんの。
衝撃で尻もちをついたロラン様目がけて、拳を振り上げます。さ、とどめでございますわ。
わたくしは拳を振り下ろし――、どごんッ、と轟音がお庭にこだまいたしました。
拳骨が殴りつけたのは、もちろんロラン様――ではありません。
顔の横、お庭の地面ですの。拳の形にめり込み、放射状の亀裂が走っておりますけれど、直接攻撃じゃないからセーフですわ!
「あ、う……」
そして、ロラン様は真っ青な顔で目を回していらっしゃいます。
ふふ、これはどう見てもわたくしの勝利。しかも、触らないで、手加減して、傷付けずに勝ちましたの! 完璧ですわー!
「……あら?」
この、鼻につく刺激臭は、もしかして……。視線を下げると、ロラン様のズボンの股のところが、変色していらっしゃいました。あらまあ。
「少し、ビビらせすぎたようですわね。てへへ」
かわいくぶりっこで誤魔化そうとしましたけれど、ヴァレリーさんは青い顔で「なんですか、いまのは! ……この件はルネ様にご報告させていただきますからね!」と詰め寄っていて、お父様はなんとも言えないお顔でうなずいております。
……わたくし、やっちゃったみたいですの。
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