68 豚骨聖女一代記(前半)
さて、交渉も終わったことですし、次は……。
「さ、ロラン様。王都の外で、飛行船と落ちあう予定でございます。郊外までの馬車など、用意できまして?」
「あ、ああ。わかった。ヴァレリー、頼む」
「御意のままに。騎士団の馬車を出しましょう」
飛行船のかごは大きめに作ってありますし、乗員数に関しては問題ないはずです。
ルネ様が壊れた塔を見て、少しだけ寂しそうに微笑みました。
「これから、ラシュレー領に行くのですね」
哀愁を含んだ呟きに、わたくしは――。
「え? まだ行きませんけれども」
――首をかしげます。
「……はい?」
「おい、ちんちくりん!? 行かないって、どういうことだ!? なにを言っているんだ、お前は!」
ロラン様がブチギレあそばされておられますけれど、ブチギレる相手はわたくしではないと思うのです。だって……。
「よく考えてくださいませ、ロラン様。いちばん悪い大人さんたちが残っているではありませんか」
「あ。えっ、おい、まさか……!」
「速攻ですわ。これまでロラン様を擁立してきた派閥に、これからロラン様を擁立していく派閥が、聖女びんたで力関係を理解らせてやる必要がございますでしょう?」
わたくしの瓦割りを含む所業については、すでに書にしたためられ、各地に早馬が走り始めていることでしょう。
ならば、相手に対処する時間を与えず、チャッチャカ先手を打つべきです。
ロラン様は、ちらりとルネ様を見上げました。
「いや、速度の重要性は理解するが、母上も連れて行くのは……」
「あら、ルネ様とロラン様、おふたりがいなくてどうするのですか」
「なぜだ。俺達は戦力にならん。あいつらに舐められているから、権威を示す意味もない。後方で安全に待機しているほうが……」
「なぜって……、そんなの決まっているではありませんか」
わたくしは、にっこりと――あるいは、にんまりと笑います。
「わたくしが彼らのお屋敷に空から突っ込むところ、見たくありませんの? たぶん、スッキリしますわよ? さ、どこのどなたから、びんたしに行きますか?」
ウキウキで問うと、ロラン様もルネ様も、口を半開きにして固まってしまいました。
ちょうどそのとき、ヴァレリーさんが戻ってこられました。どうやら馬車の準備ができたようです。
「ど、どうされました? ルネ様、ロラン坊ちゃま……」
「く、くく、あはは、あっはっはっは!」
大声を上げて笑いだすロラン様。
「ぼ、坊ちゃま!?」
「そうだ、そうだった。お前は……、お前はそういうやつだ!」
そして、ヴァレリーさんに笑いかけます。
「ヴァレリー! お前、飼い主を失ったところだよな? 悪徳貴族どもは、お前を捨てるか、処分するか、そういう流れになるはずだ」
「ええ、まあ。そうですが……」
「なら、お前はもう、くだらない大人どもの仕込み杖なんかをやらんでいいわけだ。だから……、負け組王子ロランの両手長剣になってくれないか? お前を、俺の騎士に任命したい」
一瞬、ヴァレリーさんは言葉に詰まって……。すぐに、膝を地面について頭を下げました。
「――は! 有難く拝命いたします!」
「ならば、我が敵を示せ、ヴァレリー! レオノルが御礼参りに連れて行ってくれるそうだぞ」
「ははあ、なるほどねぇ。ならば、お任せください。ひとり残らず、名前も所領もおぼえておりますから」
ロラン様はわたくしに向き直り、じっと目を見つめて逸らさずに「レオノル」と名を呼びました。
な、なんですの? 急に改まって
「ありがとう。この恩、俺は生涯忘れないと誓うよ」
――あら、ロラン様ったら。
「ええ、忘れないでくださいな。その恩、きっちり返していただくつもりですのでね」
ずいぶんと、いいお顔をするようになったではありませんか。
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