67 革命プランのご案内(後半)
王様は人差し指を立てました。
「第一に。豪農が発生し、領主と対立する地域もあるだろう。世が荒れるぞ。戦乱になるかもしれん」
次いで、中指を。
「第二に。流通の発展によって商人どもの力が増し、富裕化した平民が貴族を追いやるかもしれん。これもまた戦の種だ」
最後に、薬指。
「第三に。技術の向上によって武器や魔法も進化するだろう。侵略戦争の禁止は、あくまで天上教会の意向に過ぎん。ひとたび戦になれば、多くの民が死ぬことになる」
椅子に座ったまま、その三点をわたくしに突き付けます。
「いまある世の形が、粉々に砕け散ることになる。この破壊、お前はどう対処するつもりだ?」
その問いかけ。ブリジットが恐れていた変化を、王様も見抜いたのですね。あのときのわたくしは、ただ聞かなかったことにするしかできませんでした。
けれど――今のわたくしは、違いますの。
「世界の形を破壊する行為を、どうするか。お答えいたします」
わたくしもまた、右手の人差し指を立てました。
「第一に。豪農と領主の対立が発生したならば、わたくしが調停し、平和的な解決を以って、豪農と領主の新たな関係性を創造いたしますわ」
次いで、中指を。
「第二に。富める人民による王侯貴族の排斥――民主主義運動あるいは資本主義運動が興ったならば、わたくしが王侯貴族と人民の間に立ち、武力闘争のない新たな対話の手段を創造いたします」
最後に、薬指。
「第三に。技術の向上によって、たしかに武器は進化するでしょう。人の争いが止むことも、おそらくはないのでしょう。けれど、同様に人を救う技術も進歩するのでございます。わたくしはそちらにこそ資財を投じ、人を癒し救う、新しい技術を創造いたしますの」
それが、わたくしの答え。いえ、わたくしたちの答え。
三本指を、突きつけ返します。
「破壊のあとにこそ、新たな創造があるのだと――わたくしはこの三つの回答でお返しいたしますわ」
王様はその指を見て、鼻で笑いました。
「夢物語だな。理想論だ。うまくいくとは思えん。それらすべて、お前に成し遂げられるというのか?」
「わたくしだけなら、できません。けれど、頼りになる仲間たちがおります。そして、仲間たちはこれからもどんどん増えていくものと信じておりますの」
わかっております。そんなにうまくはいかないと。でも、だからこそ真正面から王様の目を見るのです。わたくしは明るい未来を信じているのだと、そう伝えるために。
王様は、数十秒じっくりと黙り込んでから、口を開きました。
「どうせ、五十年後にはわしは死んでおる。子か孫かの時代……、豊かな国になっているか、あるいはひどい戦乱によって亡国となっておるかもしれんが、未来のことはわからん」
そして、椅子から立ち上がり、わたくしに背を向けました。文官さんたちが、慌てて椅子を持ち上げます。
「つまり、現段階では世迷言よ。わざわざ止めるほどのことはない。六歳の女児が何事かわめいているだけだ。勝手にやればよい。わしは関与せん。ああ、税の支払いと、人民への還元だけは忘れんようにな」
ええと。つまり……、やっていいんですわよね?
"味方するわけじゃないけれど敵対しない宣言"だと受け取ってよいのですわよね?
税を支払い、人民を豊かにするよう努力するなら、ロラン様たちを連れて行ってもいい……、ってこと、ですわよね?
王様の背中に、わたくしは慌てて一礼いたします。
「寛大なお心に感謝いたしますわ、陛下」
「うむ。せいぜい励むがよい」
手をひらひら振って、王様は去っていきました。
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