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66 革命プランのご案内(前半)



「らあ……めん? なんだ、それは」


 王様は首をかしげました。


「料理でございます」

「ほう。聖女の知識を活かした、珍奇な料理か。だが、たかが料理だろう。息子と妾を渡すほどの価値があると?」

「とっても美味しいんですのよ。芳醇なスープと麺をあわせた料理なのですけれど、いろいろな種類がございまして……、端的に言えば、"天上(地球)"ではたくさんお店があって、庶民がいつでも食べられるお料理でございます」


 説明すると長くなりますから、味については端折ります。語れるなら語りたいですけれどね。


「しかし、この国でラーメンを提供するならば、一杯あたり金貨三枚ほどの値段になると試算しております」

「……不思議な話ではないな。"天上"は豊かな楽園なのだろう。この世界とは違う」

「豊かではありますが、楽園かどうかは意見が分かれるところですわ。……ともあれ、このラーメンの値段を、庶民でも楽しみやすいお値段まで、具体的には一杯当たり銀貨一枚まで下げたいと思っておりますの。つまり、わたくし……」


 胸に手を当て、正式に名乗り直します。王に商談を持ちかける者として、家名を預かる者として、粗相のないように――ブリジットに教えていただいたマナーに則って。


「……ルシアン・リュドア・ラシュレー辺境伯代行および聖女屋代表取締役社長レオノル・リュドア・ラシュレーが提示するプランとは"この国を豊かにする一連の改革"でございます」

「ふむ。"天上"の知恵を使った改革か。申してみよ」

「は。まず、第一段階として、農業の改革に着手します」


 "黒の森"の試験畑を、より大規模かつ広範囲でやる計画です。


「農地を整理し、管理を集約化して大規模農地へと発展させますの。さらにわたくしが"天上"より持ち込んだ輪作農法と肥料の知識によって、耕作の効率は格段に上昇いたしますわ」

「口先でなら、夢でも理想でも、なんとでも言えような」

「すでにラシュレー領では実地での改革を始めております。夢か理想か、それとも現実なのかは、十年もしないうちにおわかりになるかと」


 つまり、現段階では、やっぱりまだまだハッタリでございます。死に物狂いで結果を出しに行きませんとね。


「第二段階は、流通の強化でございます。飛行船をご覧くださいませ」


 王都上空の飛行船を指差します。

 現在はブリジットが火属性魔法を駆使して浮かせておりますけれど、彼女は【飢餓】を持ちません。そろそろ限界でしょう。

 ゆっくりと、王都郊外へ向けて進み、高度を下げております。のちほど落ち合う予定ですから、方角をおぼえておきませんと。


「わたくしには、アレをさらに大型化し、大量の貨物を輸送可能な飛行船団を作るプランがございます。流通に革命を起こしますの」

「……末恐ろしい話だな」

「もちろん陸路輸送を高速化させる計画もございます」


 蒸気機関車も作るつもりです。……いつになるかは、わかりませんけれど。


「第三段階。効率的になった農業、輸送によって人民の数が増え、労働者が爆増します。手工業もまた効率化し、新たな技術が発達していくはずですの。わたくしが知る"天上"の知恵を超えるものも、たくさん生まれるでしょう」

「三段階を経ておまえの手を離れ、さらなる発展をしていくわけか」


 王様が顎をさすりました。


「さようでございます。民が増え、技術が発展し……、ラーメンが庶民の手軽な食事になる頃には、この国は"天上"に負けず劣らない豊かな国になっていますの」

「具体的に、どれほどかけるつもりだ?」

「五十年間。人口は十倍ほどを見込んでおります」


 十倍という言葉に、文官の皆様がどよめきます。

 王様は揺らぐことなく、にやりと笑いました。


「気長な話だ。わしは死んでおるだろうな。……なあ、聖女よ。お前はあえて言わなかったようだが、その計画はいくつもの危険性を孕んでおる」


 やっぱり気づきますわよねぇ。



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