63 レヴェイヨン王(後半)
「わしの機嫌かね? もちろん、悪いとも。どこぞの悪童が王宮を襲撃した挙句、我が妾のひとりをさらい、息子を奪うと宣言しよったのだからな」
「あら、では見逃してくれませんのね? かわいい幼女の、かわいい過ちを」
「王らしく、厳正に対処するとも。幼女だろうが、聖女だろうが、かわいかろうがかわいくなかろうが、な」
以前にお会いしたのは、聖女認定の儀の折。
そのときは、大してお話もしなかったのですけれど……。王様は顎を手で撫で、白い塔の残骸や、その辺に倒れている方々を眺めました。
「正直なところ、城の破壊はどうでもよい。もとより改築予定であった。空からの襲撃は苦い経験になるだろうが、経験を積んだ衛兵団はより強固になる。大手を振って、次の王に新しい城と強靭な兵を継がせることができるというものよ」
「なら、許してくださってもいいじゃありませんか」
「駄目だ。王だからな。あるいは、王ゆえにな。……すまんが、座らせてもらうぞ。もう、けっこうな歳でなぁ」
王様が手を振ると、お付きの方々が二人がかりで持ち運んでいた椅子を、お庭に置きました。ゆっくりと腰を下ろし、王様は「ふう」と息を吐きました。
「王とは、結局はつなぎに過ぎん。前の王から次の王へと、玉座をつなぐだけの駒よ。国の本質は民にこそある。王はな、民をまとめ、導くための旗なのだ。旗振り役ではなく、振られる旗そのものでなくてはならん」
……なんの話ですの? 急に。もしかしてボケてます?
「怪訝な顔をせず、まあ聞け、聖女。ようはな、この宮殿も、兵も民も、わしのものではない……、ということだ。国のもの、民のものだ。わしも、次の王すらも、民のものだ」
「ええと、つまり王とは国民を束ねるための機能であると、そうおっしゃいますのね?」
王様は「おうとも」とうなずきました。
「ゆえに、息子どもを争わせ、上に立たせる。争った末、最後に立っている者は強靭であり、我らを率いるに足る――、そう信じられるようにな」
「血なまぐさいお話ですわ、陛下。結局、なにがおっしゃりたいのか、浅学なわたくしにはわかりかねますの」
「ルネも息子も女騎士ですらも、レヴェイヨン連合王国民のものであると、そう言っておるのだ。聖女よ、もちろんお前のものでもあるが、お前だけのものではない。民の許可なく連れ去れば、それは人質となる。お前の行いは、民からの略奪だ」
ほほう。話が繋がってまいりました。
つまり、立て直したり、鍛え直したりできるならともかく、純粋な損は許せない――民が許さないと言っておりますのね。ロラン王子がラシュレー領に人質に取られたように見えてしまうのが問題であると。
そもそも、ロラン様、ルネ様、ヴァレリーさんをラシュレー領に連れ帰る計画は、ブリジットが立てたもの。悪徳貴族から身柄を守りつつ、彼らを排除し、ラシュレー派として擁立するのが最終目的でございます。
……ついでに、ランボーヴィルの名を借りて、ラーメンのためにも色々やる腹積もりではございましたけれどね。
なので、この流れは悪くありません。
「ならば、交渉です。略奪ではなく、交換にいたしましょう。お二人に相当するなにかを、提示いたします。そうすれば、国民みなさまのご理解もいただけるかと存じますわ」
そのために、王様との交渉は必須でした。……ご本人が来るとは思っておりませんでしたけれど。
交渉材料はたっぷりございます。たったいま飛行船を見せたところです、アレはみんな喉から手が出るほど欲しいはず。
わたくしが提示できるものの大きさは、偉い人であればあるほどわかりますもの。ブリジットがそう言っておりました。
うふふ、この交渉、勝ったも同然ですわー!
「交渉? 提示? いいや、差し出せ。ここまで好き勝手した代償として、な。対等な交渉など、できるわけがないだろう。なにを言っておるんだ」
あらァー!?
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