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61 "蝮竜"のヴァレリー(後半)



 堂々と言い放ったヴァレリーさんの腰に、ロラン様が縋り付きました。


「や、やめろ、ヴァレリー! 殺されてしまうぞ!」


 失敬な。ちゃんと手加減しているじゃありませんか。

 ともあれ……、決闘ですか。自分がいちばんの個の戦力である、と前置きしたうえで挑んでくるということは、『どちらが勝ってもこれで最後にしましょう』という要求に他なりません。


「ええ、結構ですわ。ヴァレリーさん、やりましょうか。よーいどんの合図は必要ございますか?」

「ご希望とあらば、決闘見届け人も用意いたしましょう」

「ヴァレリー! やめろと言っている!」


 ふむ。しかし、やはり……。ヴァレリーさんには、裏がありますわね。


「見届け人なんて必要ありませんの。どこからでもかかっておいでなさい、ヴァレリーさん。あなたとは、直接お話ししなければならないと思っておりましたの」


 ヴァレリーさんは微笑んで、「では」と呟きました。


 ――そして、次の瞬間、わたくしの目前まで迫り、銀の剣を横薙ぎに振るっておられました。とっさに後ろに跳ねて回避すると、追随するように追ってまいります。


「やっぱり速いですわねぇ。以前、拳をかわした際は、ぜんぜん本気ではなかったのでしょう?」

「剣が本職なもので、ねッ!」


 次は突き。高速の刺突がわたくしに迫ります。相性の問題もあるとはいえ、ムギを傷つけた銀の剣。わたくしもできれば当たりたくはありません。ですので。


「"空の指先(クル・ド・シエル)"ですの」


 重力場を右手人差し指の延長線上に発生させ、くいっと上に向けます。

 刺突が上方向に捻じ曲がり、わたくしの頭の上を通り過ぎて行きました。


「くっ……!」


 さらに重力場を拡大しつつ、人差し指を上に。剣を持った片腕を上げるような姿勢で、ヴァレリーさんが空中に(はりつけ)になりました。なんか、SF映画の生命維持装置ヘルメット付けた真っ黒な悪役に、こういう能力ありましたわね。理力のちから……!

 ともあれ、こうなれば煮るのも焼くのも、わたくしの自由ですの。ですから――、そっと彼女の耳元に口をよせ、優しく囁きます。


「ヴァレリーさん。あなた、わたくしを利用しましたわね?」


 彼女の体が、びくりと震えました。


「……なんのことです?」

「タネは割れておりましてよ? 情報屋に話を流したのは、あなたでしょう? わたくしを、ルネ様とロラン様に同情させるために。悪わたくしの怒りの矛先を、悪い貴族様たちのほうへ向けるために。そうでしょう?」


 ヴァレリーさんは黙りました。しかし、沈黙は答えでございます。

 お父様の"王都の伝手"は情報屋で、その情報の大元はヴァレリーさんだというのが、ブリジットの読みでございました。どうやら正解のようですね。


「理由は、ルネ様とロラン様の救済のため。あなた、わたくしに悪徳貴族様たちを倒してほしかったんじゃありませんの? そのために、自分自身を引き金にして、わたくしと対立した……、違います?」

「さて。だとしたら、どうします?」

「そういう物言いが良くないんですの。どうして欲しいか、はっきり仰いなさいな」


 言うと、ヴァレリーさんは目をぱちくりさせました。


「そういう回りくどい遣り取りは、よくわかりませんの。ラシュレーの家は、親も子も政略が苦手と心得なさいな」


 そっと彼女の頬を撫でて、微笑みます。ヴァレリーさんは少し驚いた顔をしております。この方も、まだ十代なんですっけ?

 ブリジットといい、ヴァレリーさんといい……、この世界の十代は、少し頑張りすぎです。

 大した忠義ものですけれど、やり方が良くありませんわ。他人を頼る術をおぼえませんとね。……わたくしみたいに。


「ただ『助けて』と、そう言っていただければ、わたくしはいつでも馳せ参じましたのに」

「……アタシを、許していただけるので?」

「ムギにとどめを刺さなかったのも、わざとでしょう?」


 ヴァレリーさんは苦笑して、「そこまでバレていましたか」と呟きました。


「アタシの負けです。決闘も……、それ以外も。完敗ですよ。それから……、聖女様。どうか、お助けくださいませ。ロラン坊ちゃまと、ルネ様と、できればアタシも」

「承りましたわ。あとは、わたくしにどーんと任せておきなさい、どーんと」


 と、胸を張ります。ええ、任せておきなさい。


「まあ、それはそれとして。そういえば、ヴァレリー様は一発ぶん殴られたいとのご希望でしたわよね?」

「えっ、ああ、あの、アレはもういいんじゃ……?」

「だーめっ、でございます。とどめは刺さなかったとはいえ、ムギを傷つけた件については、けじめ(・・・)をつけていただきませんと」


 にっこり笑って、右手は平手。


「さあ、精一杯歯ァ食いしばりあそばされませ! 聖女びんたでございます!」

「ちょっ、待っ――」


 淑女の一撃が、ヴァレリーさんの頬を張ります。細い体が宙を舞い、紫色の髪がばらりと広がって、それからドチャっと庭に落ちました。


「ヴァ、ヴァレリーッ!? 大丈夫かッ!? 息をしろーッ!」

「安心なさってください、ロラン様。ちゃんと手加減してパーでございますから。グーではなくて」


 ロラン様に形容しがたいお顔で見られてしまいました。

 本当に手加減いたしましたのに。




面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!


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等々で応援していただけると大変嬉しく思いますわ~!


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