59 カチコミ聖女(後半)
というわけで、白い塔を殴り砕いたわたくしでございます。
がれきの上から「とうっ」とジャンプして、腰を抜かしたロラン様の前にシュタっと着地いたします。
「な、ななな、なにを……!? なにをしに来た!?」
「あら、理由がないと、会いに来てはいけませんの? わたくしをいずれ嫁に取ると決めたのは、ロラン様のほうですのに」
「あの気球はなんだ!? どうして塔を破壊した!? ……なにを企んでいる!?」
あら、質問がたくさんですわね。では、ひとつずつ。
「ただの気球ではございません。操縦可能な飛行船ですの」
と、見栄を張ります。
実際は、わたくしの【飢餓】の魔力を利用した、わたくしにしか動かせない聖女動力の飛行船です。
右の"火の指先"で気球を浮かべる火を確保し、左の"風の指先"で推進力を得ておりますの。
つまり、他者による再現は不可能なのですけれども。
「さらに大型化し、大量の荷物を空路で運べる飛行船を作成いたしますわ! いずれ、世界の物流は我が聖女屋商会の足元にひれ伏すことになるでしょう! 世界一の大富豪になったも同然ですの!」
景気よく、これくらい言っておきましょう。
「では次。塔を破壊した理由ですけれど、これは単に仕返しです」
「し――仕返し?」
「ムギをいじめましたでしょう? そのとき、わたくしの畑や小屋を破壊したではありませんか。ですから、お返しに塔を叩き割りました」
絶句するロラン様に、ずいっと顔を近づけます。
「そして、"なにを企んでいるか"ですけれど。当然、宣戦布告でございます。ロラン様の背後にいらっしゃる、わるぅいお貴族様たちの派閥に対して、ラシュレーの一族は舐められたまま黙っているタマじゃねェってことをお伝えしに参りましたの」
これが、本題。ロラン様が顔を青くしました。
「まッ……、待て待て待て! 大人しくする約束だろう!? こんなことをしたらどうなるか、わからないのか!? あいつらは手段を選ばないんだぞ!」
「あら、ロラン様こそ、おわかりになりませんか? ところで――ラシュレー家のお屋敷を見張る方からの連絡が来るのは、明日かしら。明後日かしら」
そこで、ルネ様とメイドさんたちを背後に置いて、かばうように立つヴァレリーさんが、「へえ」と声を上げました。
「明日ですよ、たぶんね。聖女様は、いつごろお屋敷を発たれたので?」
「今朝ですわ。ムギより速いですわよ、わたくしの飛行船は。ちょうどいいですわ、ヴァレリーさん。今度、お貴族様たちに会ったら、伝えておいてくださいな」
両手を広げて、お庭の惨状を示します。
「世界のどこであっても。どんなに高くて分厚い壁に囲われていても。たとえ、高い塔に隠れていたとしても。わたくしは獅子より早く空を翔け、襲い掛かれるのでございます、と」
「ははあ。それはまた、大層恐ろしい宣戦布告で。ただ、ここまでされて、黙ってハイそうですかとうなずくわけにもいかないんですねぇ」
ヴァレリーさんは片手を上げました。
周囲には、轟音を聞いて駆け付けた衛兵や騎士の方々が展開しております。
「聖女様を捕らえよ! 総員、本気でかかれ! 聖女様は"黒獅子"と殴り合える御方だ、見た目に騙されるな!」
「騙すつもりはございませんのに……」
ひどいですわ。でも、好都合ですの。
だって、ブリジットが言いましたから。『政治力以外のちからを示す』と。
そして、経済力についてはお父様とお母様、そしてブリジットが地球の知識を活かす形で示してくださいました。気球という成果物を持って。
ならば、わたくしが示すべきは、当然――軍事力です。
塔の破壊によって、ある程度は示せているでしょうけれど……、やると決めたら徹底的に。
「騎士、衛兵の皆様がた! どうぞ、お好きなだけかかっておいでまし! わたくし、今日この日のためにたらふくご飯を食べてまいりましたのよ!」
さ、大暴れの時間でございます。
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