55 わたくしたちの革命(後半)
食堂に戻ると、お父様とお母様がわたくしの顔を見て、ほっとしたように微笑みました。そして、二人で抱きしめてくださいました。
「お父様、お母様。ご心配をおかけいたしました。……これからも、ご心配をおかけしてしまうと思います」
「ああ。いくらでもかければいい。自由なら、それでいいんだ」
「でも、手加減はしてね? 私の心臓は、それほど強くないから」
ぎゅっと、お二人の体にうずめるように、わたくしもハグを返します。
二人には、前世の父母のこと、祖母のこと、ちゃんと話したことがありませんけれど、少しずつ話していこうと思います。
正直、不安はありますけれど、きっと大丈夫。だって、こんなに温かいんですもの。
ややあって体を離すと、ブリジットが厨房を覗いて「料理長ドニ、お願いが……」と話している姿が視界に入ります。
すぐに済むお話だったようで、彼女はわたくしの椅子の横へと戻ってまいりました。
では、はじめましょうか。
「さあ、ブリジット。力と無謀しかないわたくしに、勇気と策略を与えてくれる、素敵なあなた。さっそく、わたくしたちの革命について考えましょう」
「かしこまりました。では、まず現状の確認からいたしましょう」
「か、革命?」とあっけに取られたお顔をするお父様たちをさておいて、"赤毛の博学"は丸眼鏡をくいっと押し上げました。
「目下、私達の革命は食文化の発展、具体的には"いつでもだれでもラーメンが食べられる世界"の構築を目標としております。その第一手が農業の改良であったわけですが、これはランボーヴィルの一派に妨害されました」
「ええ。でも、ロラン様が首魁ではなく、ルネ様の指図でもなく、後ろに悪い貴族様たちがいるのでしょう? ロラン様が率いる一派ではなく、ロラン様を担ぎ上げている一派……、ですわよね?」
「そうです。……旦那様、のちほど"王都の伝手"がいったいどなたなのか、教えてくださいませ。情報はあればあるほどよいですから」
ビックリしたお顔のまま、お父様は「わかった」とうなずかれました。
「その上で、レオお嬢様はロラン様とルネ様も、その境遇からお助けしたいと考えておられます」
「ですの。せめて、一食の恩義はお返ししたいと思っておりますわ」
「であれば、私達が先に進むために必要な行動は『ロラン様を担ぎあげている悪徳貴族一派の解体』と『ロラン様とルネ様の保護』です」
そこでようやく、お父様が「なるほどね」と呟きました。
「世界を変える計画か。それは確かに革命だ。その前哨戦が、いまあげた二つの行動なわけだね。……政治的な働きかけを試してみるかい?」
「政略や裏工作による策は難しいかと。ラシュレー家は"黒の森"の恩恵で比較的豊かな領地ですが、政略に疎い――、旦那様もお認めでしょう」
「耳が痛い事実だねぇ」
「でも、ブリジット。それじゃ、どうしますの? 悪徳貴族たちと渡り合う政治力がないわけですわよね?」
「裏が無理なら、表から。政治力以外の力を以って、無視できないほどの存在感を示せばよいのです。……ときに、レオお嬢様。いま【飢餓のテクセリア】には、どの程度の魔力が蓄えられているか、おわかりですか?」
え? なぜ急にそんな質問を?
でもまあ、ええと、体感ですけれど……。
「最近はあまり食べていなかったのに、身体強化は発動しっぱなしでしたから、少し減っているような気がしますの」
「では、目下、レオお嬢様がすべきことはただ一つ――」
そこで、満面の笑みを浮かべた料理長ドニが、大きなお皿を両手で抱えて食堂に入ってこられました。お皿にはクレープが山盛りにされております。そばにいる見習いの手には、大きなベリージャムの瓶と、バターの瓶が。
全粒粉の良い香りに、「そういえばわたくし、満腹にならない体質でしたね」と、思い出すように空腹感がよみがえってまいります。
「――腹ごしらえでございます」
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