47 貴族の道楽(前半)
秋も半ば。
試験畑のすぐそばに作った小屋で、デッケェ木をぶった切って作った丸太のテーブルにご本を広げてお勉強中でございます。最近は領地経営に関する勉強に重点が置かれているようですの。
「そろそろ苗踏みの時期ですね」
ふと、ブリジットが窓から畑を眺めて、そう漏らしました。
畑からは小さな芽が規則正しく伸び始めており、横で寝そべっているムギも含めて、なんだかかわいらしい一枚のイラストのようでございます。
苗踏み……、たしか、文字通り苗を踏む作業でしたっけ。聞いたときは「そんなことしていいんですの!?」と思ったのですけれど、踏むことで根が良く張って、茎も太くなるのだとか。植物って力強いですわねぇ。
実はもう、苗を踏むための道具も用意してあるのです。太めの木の棒を横に倒して、T字になるよう柄をつけただけの道具ですけれど。グラウンドを整備するやつみたいですわね。トンボでしたっけ?
「来週あたり、苗踏みをする予定ですよ」
と、付き添いで来てくださった、農業に詳しい騎士様が笑います。
ブリジットや騎士様たちがいなければ、畑はカタチにならなかったことでしょう。
「レオノルお嬢様も、御覧になるでしょう?」
「もちろんですわ! ……あら、ムギ」
窓の外からムギがのっそりと顔を出しました。
にゃごにゃごと喉を鳴らして、尻尾を振っております。ほんとカワイイわねアナタ。
「どういたしました? 遊びたいの? また全力鬼ごっこいたします?」
「駄目ですよ、レオお嬢様。まだお勉強の時間です、奥様からも念を押されているでしょう? ……そうでなくても、全力鬼ごっこはいけません。森が荒れます。ムギも不満げな顔をしないでください。鳴いても駄目ですよ」
ブリジットに窘められてしまいました。にゃおん。
そういうわけで勉強していると、あっという間にお昼の時間がやってまいりました。さっさと帰って、たらふくご飯を頂くとしましょう。
ちなみにムギは"黒の森"でモンスターを狩って食べておりますけれど、半精霊なので空気中の魔力が主食で、普通の食事はあまり必要ないそうです。食事は趣味程度の意味だとか。なので、わたくしより少食でございます。
「ムギ、来週は苗踏みですの。いーっぱい、遊びましょうね!」
去り際に喉の下をもっふもふしてあげると、ムギは嬉しそうにがおーと鳴きました。
来週が楽しみですの!
●
てなわけで、あっという間に翌週でございます。
明日は苗踏みの日。待ちきれない思いで、わたくしは夕食後のお屋敷をうろついております。ブリジットはどこかしら。なにか準備していくものがあるかどうか、聞いておきたいのですけれど……。おや?
厨房に、誰かがいます。半開きの扉から、そっと中を伺うと恰幅の良い男性と、小柄なメイドさんが向き合っております。
ひとりは料理長ドニ。もうひとりはブリジットですの。なにかお話されているようです。
……そうですわ! いたずらしちゃいましょ!
そうっと半開きのドアのそばにかがみこんで……。入ると同時に、わあっ、て大声を出して驚かせちゃいますの。
うふふ。それでは、さん、に、いち――。
「私には手に負えませんよ」
――とっさに口を押さえて、扉の影に身をひそめます。
厨房のスツールに座ったブリジットは、疲れた顔で嘆息しました。
「レオお嬢様はもう、私にどうこうできる存在ではありません」
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