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46 幕間:ロランの諦観(後半)



 俺は塔を登った。

 ぐるぐる渦を巻くらせんの階段が、いつもより長く感じる。


 ヴァレリーはもう発った。選抜部隊とどこかで落ちあい、ラシュレー領近くのどこかに潜伏し、ほどなくしてムギを襲うのだろう。王子である俺の名前が記された命令書と、魔を殺す銀の剣を携えて。

 それらすべてが、俺の知らないところで決まって、俺の知らないところで進められて、俺の知らないところで終わる。

 いつだってそうだ。悪徳貴族どもは、ぜんぶ手遅れになってから、思い出したみたいに俺に報告する。

 俺の名を使うくせに、俺をついで(・・・)みたいに扱いやがる。


 母上のおわす白い部屋。その扉を、ほとんど体当たりするみたいにして当てる。俺の身長は、レオノルより少し大きいけれど、大きな扉はそうしないと開けられないから。


「どうしたの、ロラン」


 母上は、いつも通りの憂鬱そうな顔で、ソファに寝そべっていた。


「母上、レオノルの"黒獅子"は安全です! 道理の通らぬ行いは、反発と敵を生むでしょう! 母上からの提言なら、あの貴族たちだって無碍(むげ)にはできないはず! どうか、彼らに手紙を書いてくださいませんか!」


 白い部屋に、俺の声が反響する。

 ややあって、母上は口を開いた。


「ロラン。あなたは王になるのよ」

「はい、母上。もちろん、俺は王になります。ですが、そのためにも……!」

「王になれば、わたくしたちを苦しめるものは何もなくなるの」


 母上は俺を見た。じっと、正面から見た。

 息が詰まるような感覚を得る。


「王になることができなければ」


 瞳に映っているのは、俺だ。

 だけど、俺は知っている。母上の瞳が映しているものは、俺だけじゃない。


「全てを失ってしまうのよ。……わたくしはもう、なにも失いたくないの」


 ぞっとするほど感情を感じられない、平坦な声。

 ……ああ、そうか。もうとっくに、手遅れなんだな。


 目を閉じ。

 深呼吸し。

 ――自覚する。


「はい、母上。俺は王になります」


 道具だ。道具なんだ。わかっていたはずじゃないか。

 俺も、母上も。ヴァレリーと同じ、あくどい大人たちの道具に過ぎないのだと。

 母上は俺を守るために。俺は母上を守るために。

 なにも変わっちゃいないのだ。


「必ずや、王になると――誓います」


 今までも、これからも。




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