43 お母様のお小言(前半)
さて、今日も畑の様子を見に行きますわよー、とお屋敷を出ようとしたら。
「お待ちなさい、レオノル。最近、"黒の森"に入り浸りすぎじゃないかしら」
玄関で、お母様に呼び止められました。
「お勉強はどうなの? しっかりやっているの?」
お小言の気配でございます。
「もちろんです。畑の傍に小屋を作って、そこでやっておりますの」
「そう。でも、やっぱり心配だわ。"黒の森"だなんて。あなたが他の子と違うのは、よくわかっているつもりだけれど」
お母様は小さな溜息を吐きました。
「その畑仕事、本当にあなたがやらないといけないことなの? ルシアンから聞いたけれど、ピンと来ないわ。畑を休ませることなく、作物を育て続けるんですって?」
通常は、二年か三年に一度、なにも育てない休耕地として放置し、栄養が枯れた畑を休ませるのですけれど、ノーフォーク農法は違います。そこがお母様的には引っかかっているのでしょう。
ブリジットが「そうです」と答えました。
「レオお嬢様の取り組みは、クローバーを育てることで土精を休ませよう、というものです」
「そうすると、ええと、休ませないぶん無駄が減って、収穫量が増えるのね?」
「理屈の上では、そうです」
暗に「実際にうまくいくかどうかはわかりません」と示すブリジット。お母様はわたくしに視線を移して、それから少し下に目を逸らしました。
「レオノル、女神様から『畑を耕せ』と神託を受けたわけではないのでしょう? どうしても自分でやらなければいけないの? 他人にやらせればいいじゃない」
「それは、そうですけれど……。でも、うまくいくかどうかわからないのに他人任せというのは、責任感がないではありませんか」
「貴族には貴族の仕事と責任があるわ。畑を耕す人の仕事と責任を、あなたが背負ってどうするの。人を雇えばいいでしょう」
む。まあ、そういう考え方もありますか。お金もありますから、農夫を雇い入れて、ノーフォーク農法を試してもらえばいい、と。わたくしの【飢餓のテクセリア】パワーが必要な開拓作業は終わりましたし、ムギもおりますから試験畑は安全ですし。
けれど、わたくしが日本の記憶を持つからでしょうか。ちょっと、そういう金持ち選民思想的な思考には反発がございます。
「できる限りは、自分でやりたいのです。もともと、わたくしの我が儘でやっていることですから」
「……そう。ねえ、レオノル。ロラン様の周りが騒がしいのは、聞いているでしょう? 私はあなたが心配なの」
本当に心配そうなお顔で、お母様はわたくしの肩に手をのせました。
その心に、嘘偽りはないのでしょう。ただ少し、齟齬があるだけ――、地球を知るわたくしと、お母様のあいだに、認識の違いがあるだけなのです。
「ご心配いただきありがとうございます、お母様。でも、心配には及びませんわ! わたくしを傷つけられる者なんて、そうそうおりませんもの!」
むん、と両腕でガッツポーズをして力強さをアピールいたします。コロンビア!
……あ、あら? お母様が額に手を当てて、大きな溜息を吐いておられます。
ブリジットもどこか気まずそう。
うーん、対応、間違ったかしら。
面白い! 続きが気になる! と思われたそこのあなた!
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