42 農業計画(後半)
と、いうわけで森を拓きましたの。
「ま、こんなもんでええでしょう」
「お嬢様、口調が乱れております」
「……今日のところはこれくらいにしておいてやりますわ?」
「それは悪役ですね」
ともあれ、わたくしが素手で木々を引っこ抜き、邪魔な石を遠くにぶん投げ、地面を耕して……、と一週間ほど頑張った結果、"黒の森"に大きな耕地を作ることが出来ましたの。
四角いブロックを置いたり削ったりするゲームでやりがちですわよね、こういう整地作業。わたくしにしては飽きずにこなせたほうと思います。
なお、懸念していたモンスターからの襲撃はございませんでした。
いえ、厳密にはあったのですけれど……。
「ムギのおかげで、大した苦も無く終わりましたわね」
「私や騎士様たちを含めた集団で"黒の森"を難なく移動できるのも、ムギがいるからでしょうね」
サイズの小さくなったムギですけれど、ひと睨みするだけでモンスターが逃げていきますし、縄張り判定になったのか、そもそもいなくなったようなのでございます。すごい!
牧畜犬として、とてつもなく優秀ですの。羊を追いかけているわけではないので、これも違う呼び方かしら。番犬? 番獅子? カワイイ呼び名を探したいところです。
「ムギ、あなたにはこの土地を守って頂きます。あ、でも人間は襲ってはいけませんよ。自衛は許しますけれど、攻撃はダメですからね」
にゃふ、とムギが肯定の鳴き声を上げました。カワイイ。
さて、試験畑が出来上がったので、さっそく畑を作ります。蒔く種はもちろん小麦ですが……。
「畑を四分割し、カブ、大麦、そしてクローバーも育てるのでしたね?」
「ええ、そうですの。いわゆるノーフォーク農法というやつですわ」
わたくしが試そうとしているのは、十八世紀イギリスはノーフォーク州で三圃制農法に代わって生まれた農法ですの。小麦→カブ→大麦→クローバーの順で、四年周期で輪作する手法でございます。
たしか、これでなんかめちゃくちゃ小麦がとれるようになったとかなんとか。クローバーとカブは栽培牧草として牛の餌になりますし、なんならカブは普通に人間も食えますわよね。和出汁で煮たやつが好き。
うろ覚えの世界史知識とテレビ知識で、この"黒の森"という土地でも通用する農法かどうかは未知数ですけれど、なんでも試してみませんと。
ブリジットや騎士様に手伝ってもらって、小麦の畑、カブの畑、クローバーの畑に種を蒔きました。もう秋ですけれど、冬小麦といって、"黒の森"くらいの緯度では小麦を越冬させて育てるのが一般的だとか。滑り込みですわね。
大麦だけは、もう少し冬が近づいてから種まきをしたほうがいいそうですの。
「それにしても、ブリジットは農業にも詳しいんですのね。農業の専門家を招く必要があるかと思っていたのですけれど」
「……バイイ領は、農業に力を入れていましたから。レオお嬢様くらいの歳には、私も畑に出て、実地で領民と触れ合い勉強をしておりました。魔法学園に入ってからも、長期休暇には領地に戻って畑に……、いえ、これは余計な話でした」
えーと、バイイ領? というと、ブリジットの苗字ですから、ウチに雇われる前にいた場所ですわね?
つまり、親戚に乗っ取られたという領地で……。
……あ、あら? わたくし、ハチャメチャに地雷を踏んでしまっておりません?
「ご、ごめんなさい、ブリジット。わたくし、無神経でしたわ」
「いえ。お気になさらず。むしろ、学んだことが無駄にならなくて、よかったです」
と、ブリジットはそう言ってくださいましたけれど、畑を眺める彼女は……わたくしにはいつもとは少し違う、寂しそうなお顔に見えたのでございます。
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