40 一生に一度の一杯(後半)
夏の終わりのラーメン試食会も終わって、肌で感じる空気が秋めいてきたころ。
わたくしはお屋敷の執務室に呼び出されておりました。
「ロラン王子の周囲が、ちょっとキナ臭くてね」
と、お父様がおっしゃられました。
ずいぶんお疲れのご様子です。机の上には、手紙や書類がどっさりと置かれておりますの。
「前からそうだったけれど……、最近は隠す気もないらしい。腹黒い貴族たちの誰がルネ・ランボーヴィルの手綱を握るかで揉めているようだ」
眉間を指で揉んで、お父様は肩をすくめました。
「まったく、馬鹿馬鹿しい。そもそも継承順位の低いロラン様を立てようなんて目論見の考えが浅いというのに。うちの娘まで巻き込んで……」
「え? わたくし、関係あるんですの?」
「ロラン様の婚約者候補の第一なのは変わらないからね。ちょっかいを出してくるのは間違いない。……先日の件で、我がラシュレー家がロラン様派を乗っ取ろうとしていると思い始めたらしい、やつらは。いやになるの」
「ええ!? それじゃ、わたくしのせいですの……!?」
「いや、レオノルはよくやったよ。あっちの自業自得だとも。こちらの影響力が強いのは、悪いことじゃないからね。……ちょっとやりすぎだったかもしれないけど」
ロラン様連れてルネ様のところまで突っ込んでいって、誠意の商店経営権をいただいただけですのに……。
……十分大ごとですわね。猛省。
向こうから見れば、聖女のネームバリュー目当てで取り込もうとしたラシュレー家が、いま、いちばんルネ様に対する圧力を持っているように見えるわけで……悪い貴族さんたちは焦っているのでしょう。
「だから、レオノル。商会を得て、いろいろ楽しみたいところだろうが、しばらくは大人しくラシュレー領にいなさい。いいね?」
「わかりましたわ、お父様。試したいこともございましたから、ちょうどいいですの」
「……先に、僕達に相談してからにするんだよ? なにをするとしても、壊す前に必ず相談するようにしなさい。いいね?」
信用されておりませんわね、コレ。
やはり先日の暴走がちょっとよくなかったようでございます。
「あの、お父様? 大暴れするつもりはございませんのよ? ちょっと農業に興味があって」
「……農業? なぜ?」
「わたくし、考えが浅かったのだと気づいたのでございます。基本に立ち返って、しっかりと成すべきことを為そうかと」
ラーメンを作るということは、すなわち、食文化を成立させることそのもの。十全な供給を可能にする必要がございます。ラーメンというものの、もっと根っこに迫って考えなければなりません。
「……えーと、聖女の知識で食糧生産効率を上げるってことかい?」
「そんな感じでございますわ」
つまり、本当の意味で一からラーメンを作って、課題点を洗い出すのです。
この世界でラーメン文化を作るために必要なものがなにかを。
お父様は「ふむ」と少し考えて、うなずかれました。
「わかった。そういうことなら許可しよう。ようやく、貴族の娘としての自覚が出てきたのかな?」
「え? あ、はい、そうですの。おほほ」
まあ要するに、シンプルな問いですわ。
――異世界でラーメン作るってどのレベルで作りますの?
無論、小麦からでございます。
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